様々なオンライン行動観察/エスノグラフィ手法とその選び方

今回も前回に引き続き、行動観察/エスノグラフィの話をさせていただきます。

今、グローバルでは行動観察/エスノグラフィがオンラインを使った新しい時代に突入しつつあるようです。最初にUKで上場保険会社、Hiscoxのインサイト&リサーチ部長として数多くの行動観察/エスノグラフィを実施してきたCharlie Gower氏の言葉を紹介します。

「私たちは行動観察/エスノグラフィで計り知れないベネフィットを得てきた。しかし“地獄のように”時間がかかり、それゆえ費用がかかっていた。それが、モバイルテクノロジーの進化と、人々のSNSの普及による自分の生活を共有することに対する意識の変化によって、我々は誰かの後を1日中とぼとぼと付け回す必要はなくなった。彼らは、メールや写真や動画をいつでも送ってくれるのだ」

また米国化粧品会社Cotyの製品開発のトップであるMarco Madrisotti氏は

「対象者が、リビングルームで観察者の存在を意識しないで済むことは、より自然な行動を観察することができる。そしてオンラインを利用したエスノグラフィは従来のエスノグラフィより3倍~5倍は安価で実施できる。それによって我々は、より頻繁に、より多くのカテゴリーやマーケットの調査をすることができる」

と述べています。

本記事より抜粋

行動観察/エスノグラフィはオンラインやデジタルを活用することによって、より使いやすいものになりつつあります。とはいえ、オンラインを利用すると一口に言っても、その手法は様々です。

今回は、どのようなオンラインを使った行動観察/エスノグラフィ手法があるのか、そして、各手法をどのように使い分ければよいのかを紹介させていただければと思います。

様々なオンライン行動観察手法

まずは、オンラインを使った行動観察手法として、どのような利用可能な手法のオプションがあるのかを紹介させていただきます。

家庭訪問(従来型行動観察/エスノグラフィ)のライブストリーミング

これは従来の訪問型行動観察/エスノグラフィを実施する際に、その様子を訪問先からライブストリーミング中継をする手法です。

現在行われている訪問型の行動観察/エスノグラフィはエスノグラファーと呼ばれるリサーチャーやクライアントが家庭(やオフィス等)を訪問することによって実施されていますが、訪問に多大な時間がかかるという観察者側の事情と、多くの人が訪問するとプレッシャーがかかったり狭い部屋に入りきれなかったりという対象者側の事情で、観察できる人数は数人に限定されるという問題があります。

この問題は、エスノグラファーが撮影するビデオカメラの映像をライブストリーミング中継することによって解決することができます。実際に訪問することができない調査関係者も、ビデオカメラからのストリーミング映像を通して、室内の様子や、訪問者と対象者のインタビューの様子をリアルタイムで観察することができます。またインタビュアーに指示を与えたり、自ら対象者にインタビューしたりすることも可能です。

これは手法というよりは、従来型行動観察/エスノグラフィの追加オプションとして考えたほうがよいのかもしれませんが、これならオンライン行動観察に批判的な頭の固い(?)、従来型行動観察/エスノグラフィの信奉者にもメリットを感じてもらえる手法なのではないでしょうか。

スマートフォンを利用したリアルタイム行動観察/エスノグラフィ

これまでのオンラインインタビューはパソコンのWEBカメラを利用して実施されてきましたが、昨今のビデオチャットの技術の進歩により、スマートフォンを使ったインタビューが大きく増えています(当社比)。それに伴い、スマートフォンを使って対象者の自宅内の様子をリアルタイムで観察したり、自宅で何かの行動している様子を観察したりすることが驚くほど簡単に実施できるようになっています。もちろん、単に観察をするだけではなく、観察したことに対してのプローブ(インタビュー)が可能です。

※ 実際の様子はこちら

モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・動画版

スマートフォンの動画撮影機能を利用した、セルフ形式のエスノグラフィで対象者にあるお題(例:スキンケアをしている様子、食器洗いをしている様子)を与えて、そのお題に沿った、動画を撮影してもらい収集する手法です。

この手法の最大のメリットは、大量の動画を短期間に簡単に集めることができるということです。ただし、集まった大量の動画をどのように処理(分析し、価値あるインサイトを見出すのか)するのという点に関しては今後、更なる研究・発展が求められているようです。

弊社が2年前から取り組んでいる、ビデオインタビュー.comや最近登場したマクロミルさんのVideo Collect、index-iさんのBEEがこの手法にあたります。

モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・写真版

こちらは、上記のモバイル(セルフ)エスノグラフィの動画が写真に置き換わったものです。ご存知のように、多くの会社様のリサーチプラットフォームには写真収集機能があり、写真を集めること自体はかなり簡単に実施できる時代になっています。ただ、写真を集めるだけで、ひとつの定性調査として成り立つかというとそれだけでは中々難しいようで、動画と同様に集まったから、どのように価値あるインサイトを見出すかということに関しては、今後の発展が求められているようです。

※モバイルエスノグラフィに関してはこちらの記事もご参考ください。

以上、4つの手法を紹介させていただきましたが、従来の訪問型行動観察/エスノグラフィとの近さという意味では紹介した順番通りで

家庭訪問(従来型行動観察/エスノグラフィ)のライブストリーミング ⇒ スマートフォンを利用したリアルタイム行動観察/エスノグラフィ ⇒ モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・動画版 ⇒ モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・写真版

という順になるかと思います。

またこの4つの手法は、

リアルタイム(同期型:synchronous):

  • 家庭訪問(従来型行動観察/エスノグラフィ)のライブストリーミング
  • スマートフォンを利用したリアルタイム行動観察/エスノグラフィ

 非リアルタイム(非同期型:asynchronous):

  • モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・動画版
  • モバイル(セルフ)エスノグラフィ・・・写真版

​というグループに分けて考えることができます。この同期型と非同期型の違いは、その場で観察した行動に対する深堀(プロービング)ができるかどうかという点が大きな違いとも言えるかと思います。

さて、ここまで様々な手法を紹介させていただきましたが、どのような時にどのような手法を利用すればよいのでしょうか。以下に各手法の使い分けに関する記事を紹介させていただきます。

調査ニーズから考える調査手法の選択

釈迦に説法で恐縮ですが、調査を企画するにあたっては、まず調査目的をはっきりとさせて、その目的を達成するためにはどのようなアプローチ(手法)がよいのかを選ぶ必要があります。(この手法が流行っているから、目的はともかくやってみようではないかと思います)。

そこで、ここからはどのような調査ニーズに対してどのようなオンライン行動観察/エスノグラフィ手法を利用すればよいのかという話です。この点に関しては前回記事でも紹介させていただいたiModerate 社のJulia Eisenberg氏の記事が参考になりますので紹介させていただきます。

+++以下記事の抜粋です+++

近年、リサーチにおいて生活の日常に関する動画や写真等を集めるのはとても簡単になっている。とても簡単でパワフルなのになぜもっとリサーチで利用されないのだろうか。実態は、このような技術の進歩にかかわらず、いつ、どこで、どのように利用すれば最大のメリットが得られるかが追及されていないからだ。我々プロポーザルを書く際に、選択肢は多い。また様々な選択肢を組みあわせて利用することを考えると、オプションは無数にある。しかも各選択肢がどのような成功をもたらしてくれるかの確証がない。そのような我々にとって、様々な選択肢の組み合わせのすべてを検討するのではなく、まずは調査目的、調査ニーズから考えをスタートすることが成功をもたらす。そこで以下にどのような調査ニーズの場合に、どのようなオンライン行動観察/エスノグラフィ手法を利用するのがよいのかをいくつかの例を記す。

ニーズ:消費者の日常生活、習慣、ルーティーンを完全に描き出すこと

私たちが、クライアントの顧客(生活者)の日常を理解したり、あるセグメントの洗濯ルーティーンを理解したり、親子が自宅でどのように、どのようなスナック菓子を消費しているかといったことを理解するためには、彼ら/彼女らの日常を観察し話を聞くアプローチが必要である。なので、最もパワフルなアプローチは自宅か店頭、もしくは両方における「モバイルエスノグラフィ・・・動画版」と数日間の「掲示板をつかったテキストと写真の収集」であろう。対象者は数日から数週間にわたる実査期間中にテキストかビデオで我々が設定して質問(宿題)に回答してもらう。期間中には対象者のある考えや感情を探るためにコラージュを作成してもらったりする宿題を設定することも有効である。この組み合わせを使えば、対象者の日常に関して、言葉だけではなく、ビデオクリップやビジュアルキューにサポートされた、また行動の事実だけではなく、エモーションに関するリッチなデータを得ることができるだろう。

ニーズ:新製品やプロトタイプのテスト

ある特定セグメントをターゲットとした新製品やテスト品の製品テストを行いたい時は、「モバイルエスノグラフィ・・・動画版」と「テキストチャットインタビュー」のコンビネーションを実施することを奨める。この設計においては、最初に対象者がテスト品を使用している様子・・・最初に製品を目にするとことろから自宅でその製品を使っている様子・・・を自撮りしてもらう。その後、その対象者にOne on oneのテキストチャットによるデプスインタビューに参加してもらい、その製品に関する評価や印象を語ってもらう。この設計においては、テスト品の強みや弱み、改善点を明確にあぶりだすことができる。動画映像とテキストのコンビネーションは、我々に、その製品を上市する際のアジェストメントの方向性や確固たる自信を与えてくれるであろう。

ニーズ:セグメンテーションスタディ

もしあなたが消費者のセグメンテーション/ターゲティングを行おうとしているのであればグッドニュースがある。あなたは各セグメントの特徴をご立派な多変量解析から算出された数値だけで表現するのに苦労していないだろうか。私は各セグメントの特徴を表現するために、そのセグメントに属する人のリアルな表情と声を利用することが大好きである。何故なら、リアルな表情と声は、セグメント分析の利用者に、そのセグメントのリアリティと共感を与えることが出来るからである。そこで、「掲示板をつかったインタビュー」と「ライブビデオインタビュー(Webカメラを使ったオンラインインタビュー)」を利用する。まずは数日間の掲示板インタビューで定量的に発見された各セグメントの特徴を定性的に理解する。そして、その知見に基づき、ライブビデオインタビューによって各セグメントのリアルな姿を描き出す。この手法によって各セグメントを象徴するような生活者のダイジェストが得られるであろう。

ニーズ:経営層へのプレゼンテーションに説得力を出す

私は、私のクライアントが新製品開発の初期段階でのアイデアや新しいコンセプトを社内の経営層にプレゼンテーションして彼らを説得しなければならないことを知っている。このプレゼンテーションにおいては、「テキストチャットによるデプスインタビュー」を実施するとともに、開発課題におけるキーとなる課題に対しての消費者リアクションを撮影したビデオクリップ(「モバイルエスノグラフィ・・・動画版」)を利用することがとても有効である。開発課題を解決するアイデアをサポートするビデオクリップは、経営層にアイデアを納得させるのに大いに役立つだろう。

最近のテクノロジーの進歩は素晴らしい。ビデオ、写真、インタラクティブなリサーチツールのは日々進化している。観察調査におけるコストは低下しスピードは大きくアップしている。もちろん、クオリティを犠牲にすることなく。もし、あなたがこれらのツールを使わないこれまでの言葉だけにリサーチに十分満足しているのであれば、それはそれでよいと思う。現在のあなたのリサーチスキルは素晴らしく、クライアントを満足させられているということだから。しかし、それでも、対象者が語ることと実際に行っていることにはギャップがあるということは知っていて欲しい。そして、そのために多くのことを失っていることを。

+++記事抜粋はここまで+++

弊社が提供するオンライン行動観察サービス・・・オンラインエスノ.com

最後に弊社の宣伝になりますが、弊社が提供するオンライン行動観察サービス「オンラインエスノ.com」について簡単に紹介させていただきます

詳しくはオンラインエスノ.comのページをご覧いただきたいのですが、以下の2つのメニューを用意しております。両メニューとも単に動画を集めて終わりではなく、そこにインタビューができるようなサービスを提供させていただいております。

<オンラインエスノ.com – リアルタイムバージョン>

オンラインインタビュー中に対象者の所有しているスマートフォンを利用して、対象者の室内(例:キッチン、冷蔵庫の中、収納場所、お掃除で苦労している場所 etc.)をを撮影してもらったり、カメラの前で行動(スキンケアの様子、食器洗いの様子、紙おむつを替える様子 etc.)をしてもらったりする様子をリアルタイムでパソコン上で観察します。


強み

  • 事前準備が少ない/手軽に実施できる
  • 行動中にタイムリーに指示を出す/質問をすることができる
  • 行動→自己観察の間が短いので対象者が自分の行動を説明しやすい
  • 自宅内の観察を加えることも可能

※ 実際のインタビューの様子はこちらをご覧ください

<オンラインエスノ.com – ビデオエスノバージョン>

オンラインインタビューの事前課題として動画を撮影してもらい、その動画をオンラインインタビューのシステム上で再生しながらインタビューを進めます。対象者は普段は目にしない自分の姿を見ることができるので、自分の無意識の行動を振り返る「自己観察」がなされるので多くの”気づき”を得ることができます。このビデオエスノバージョンには対象者使用のスマートフォンを利用するスマホ版と長時間録画できるビデオカメラを対象者に貸与して実施するビデオカメラ版があります。

強み

  • 長時間の行動に対しての観察が可能
  • 複数回(例:朝と夜、平日と休日)の行動観察が可能
  • 事前に行動確認したうえでインタビューに臨める
  • 対象者が人の目を意識することが少ない

※ 実際のインタビューの様子はこちらをご覧ください(4:02あたりからです)

「エスノグラフィは単にあなたの顧客を見たり撮影したりすることではない。あなたは、あなたの顧客が話すことと、彼/彼女たちが実際に行動することの間のギャップを見つけることだ」
 

これは行動観察/エスノグラフィを使ってHewlett-Packard社の新製品開発を14年間にわたってサポートしている英国のビジネススクール、Cranfield School of Managementの新製品開発とイノベーション教授であるKeith Goffin氏による言葉です。前述のJulia Eisenberg氏も同様なことを述べています。

弊社も行動観察は見るだけで完結するとは考えていません。そこで観察と同時にインタビューができるサービスを提供させていただいております。

前回、今回とオンラインを利用した行動観察/エスノグラフィについて書かせていただきました。行動観察/エスノグラフィは、従来のグループインタビューやデプスインタビューでは得ることができない価値あるインサイトを得ることができることは間違いありません。今後オンラインを利用することによって行動観察/エスノグラフィが利用しやすくなり定性調査の利用も増えるといいですね。