行動観察/エスノグラフィで観察の達人になる方法

このメルマガで4年前に

「ここ数年、エスノや行動観察といった言葉が我が業界ではよく登場するのは皆様ご存じのとおりです。しかしながら、実際にこのような定性調査が、我が国において急激に普及しているようにも思えないのですが、これは私が知らないだけでしょうか・・・」

と書かせていただきました。

その後、行動観察/エスノグラフィは急激に普及しているのでしょうか。あまりそのような実感はないのですが、これも私が知らないだけなのでしょうか・・・。まあ、少なくとも会場でのグループインタビューやデプスインタビューと比べるとまだまだ実施される割合が少ないことは間違いないかと思います。

では、なぜ行動観察/エスノグラフィは実施されないのか・・・その理由は様々でしょうが(詳しくは4年前の記事を見ていただきたく)、そのひとつに観察の仕方がわからない、(または観察したけど何もわからなかった)ということがあるのではないかと思います。

そこで今回は行動観察/エスノグラフィ調査において何をどのように観察したらよいのかという点に関して紹介させていただきます。これを読めばあなたも観察の達人になれます(たぶん)。

行動観察/エスノグラフィの重要性

本題に入る前に、改めて行動観察/エスノグラフィの重要性について考えてみましょう。この点に関しては、皆さんよくご存じだと思いますので、改めてここで書かせて頂く必要はないかもしれませんが、最近読んだ米国iModerate社のヴァイスプレジデント、Julia Eisenberg氏の「The power of the smoosh」という記事が興味深かったので、その記事よりいくつかのコメントをピックアップして紹介させていただきます。

※ なおこの記事については次回以降で改めて詳しく紹介させていただく予定です。

  • 我々は顧客/生活者(定性調査における対象者)が発する言葉から多くのことを学ぶ。しかしながら、我々は顧客/生活者の経験を直接観察することによってグループインタビューやオンラインディスカッションやサーベイで共有されるものを超えた新しい理解を得ることができる。
     
  • 私は、グループインタビューで話される言葉や、オンラインディスカッション上のテキストの会話を否定するつもりはない。だから、会話によって「何が失われるか」というよりも、新しいテクノロジーを使って観察することで「何が得られるか」を考えていきたい。
     
  • 言葉は重要だが、観察の替わりにはならないことが多々ある。例えば、最近私はポッドキャストである場所についての素晴らしい話を聞いた。その話はとても描写的でビビッドで素晴らしい内容だったのだが、私は話を聞きながら、すぐにPCに向かってその場所の写真を検索した。その写真を見ることによって、私はその場所に関するクリアなイメージと理解を持つことができ、その場所に対しての親密な感情や興味を抱くことができた。
     
  • リサーチャーは、観察することによって対象者が発言した言葉の「想定」を取り除くことができる。例えば、対象者がメークアップをどのようにしているかを話した言葉やオンライン掲示板に書き込まれたテキストを想像してもよう。あなたは、その対象者の真の行動をどのように知ることができるだろうか。

    「そして、コンシーラーを目の下に”なでつけて”、パッティングします」

    と言われたとき、「なでつける」ってどのような行動か想像できるだろうか。リサーチャーが10人いたら10人違う様子を想像するのではないだろうか。このようなことは観察があれば解決できる。
     
  • 私はかつて口臭ケアに関する新製品の大規模なホームユーステストを行ったことがある。その製品を一定期間使用してもらった後の評価に関するテキストベースでの回答の結果は大変好評であった。その調査では同時に対象者からその製品を利用するときのシーン(口に入れる時)を、スマートフォンで撮影してもらって送ってもらうことを行っていた。送られてきた動画を分析したところ、ほとんどの対象者が最初の製品トライアル時に、すっぱいレモンをかんだような表情を一瞬見せることを発見した。その表情が見られたのは1回目のトライアルのほんの一瞬だけである。2回目からは、対象者も、どのような味か予測していたのだろう。そのような表情を見せる人はほとんどいなかった。しかしながら我々は1回目のトライアルのビデオを何度も何度も見直した。我々は製品のトライアル時における第一印象/体験が、その後の製品評価に大きく影響することを知っているからである。そこでの無意識のネガティブな体験はリピートしない大きな要因につながると判断して、その製品のフォーミュラの見直しを行うことにした。このリサーチは、私に見ることの重要性を教えてくれた貴重な経験である。
     
  • 最近のテクノロジーの進歩は素晴らしい。ビデオ、写真、インタラクティブなリサーチツールは日々進化している。観察調査におけるコストは低下しスピードは大きくアップしている。もちろん、クオリティを犠牲にすることなく。あなたがこれらのツールを使わないこれまでの言葉だけによるリサーチに十分満足しているのであれば、それはそれでよいと思う。現在のあなたのリサーチスキルは素晴らしく、クライアントを満足させられているということだから。しかし、それでも、対象者が語ることと実際に行っていることにはギャップがあるということは知っていて欲しい。そして、そのために多くのことを失っているということを。

観察調査で上手に観察するコツ その①

前置きが長くなりましたが、今回のテーマの本題に入ります。行動観察/エスノグラフィを実施する際に、どのように観察すれば、有益な結果が得られるのでしょうか。この点に関しては、行動観察/エスノグラフィを得意とする会社のノウハウで明らかにされていなかったり、そもそもノウハウが確立しておらず、各個人の経験に任されていたりとかで、皆さまもあまりご存知ないのではないでしょうか。そんな中、面白い研究論文がありましたので、まずはその論文を紹介させていただきます。

「潜在ニーズの抽出を目的とした行動観察方法の研究」

  中央大学 理工学研究科 清水 健嗣

※論文は現在WEB上から削除されています。

この論文は、行動観察/エスノグラフィという調査手法そのものが研究対象のユニークな論文です。たぶん、こういった行動観察/エスノグラフィという調査手法を対象とした論文は中々ないかと思いますので、我々定性調査関係者にとっては貴重なものではないかと思います。ただし、論文なので内容はややアカデミックっぽい面もあり、私は読んで理解するのに苦労しました(というか理解できていない部分が多々あります(苦笑))

ざっとの概略ですが、まず論文では行動観察の難しさについての問題意識を呈示しています。

「行動観察で得られる情報は映像データである。潜在ニーズを抽出するためには、多くの情報から背後に存在する共通性に気づくことが重要であるが、人の行動を映像データとしてとらえ、それらをリアルタイムに取捨選択をし、分析を行うことは困難である。このため、観察者が持っている視点や問題意識、経験によって結果が大きく左右される。」

そこで観察する行動の数と行動のタイプの組み合わせによって、どのような組み合わせの場合に有益な結果が数多く得られるかに関しての仮説を立て、その検証を行いました。具体的には

観察する行動の数が

(1)限定観察法:観察する行動の数を1~2に絞って観察を行う。

(2)多数観察法:観察する行動の数を3~6に絞って観察を行う。

(3)自由観察法:観察する行動を絞らないで、観察者に任せる

の場合と、

観察する行動のタイプを

(a)多くのニーズに関連したもの
    (例:スマホの操作を両手で行う・・・アプリを操作する、チャットをする等様々な可能性が考えられるニーズ)

(b)特定のニーズに関連したもの 
(例:スマホの画面を顔に近づける・・・画面を詳しく見たいという限定したニーズ)

に分け、その組み合わせにおいて

「観察する行動の数を限定するほど、観察できる行動の数が減り、得られるニーズの数も減少すると考えている。ただし、観察する行動を限定することで個々の行動を深く観察できる分、具体的なニーズが得られると考えている。また、観察する行動の「数」に着目した絞り方と観察する行動の「タイプ」に着目した行動の絞り方では、前者の方の影響が大きい」

という仮説を立てました。

この仮説を検証するために、実際に5名の観察者に行動観察(各1時間/携帯電話とバッグの利用に関する行動観察)を行ってもらい、その観察から新しいニーズが発見できた数をカウントすることによって上記仮説の検証を行いました。

この実験から得られた結果と示唆は以下のようなことです。

  1. 観察する行動の数を予め絞って観察を行うことは、個々の行動をより深く観察することができ、事前の知識に含まれていない新たな要求品質(ニーズ)を見つける上で有効である。 
     
  2. ただし、多機能製品(多くのニーズに関連した行動:例スマートフォンを両手で操作する)の場合、観察する行動の数を絞り込み過ぎると、複数の行動に関連するニーズを見逃すことが増える。関連する行動を組にして観察するのがよい。また、自由観察法によって広く観察したあと、限定観察法を用いて深く観察することも有効である。
     
  3. 観察する行動を絞っても、観察者の経験によって得られるニーズの数が異なる。このため、多くのニーズを得たいのなら、事前の訓練を行うのがよい。

     

この研究調査から結果・示唆を、もう少し平べったく、また我々に当てはめて書くと、
 

  • 我々が行動観察を行う際は、「とりあえず、見れば何かわかるだろう。見れば何か新しい発見があるだろう。」というスタンスで臨むのではなく、ある程度「今回の目的は●●で、△△の行動に注目して観察しよう」というスタンスで臨むべき


だということかと思います。また、
 

  • 行動観察をする際には、やはり経験豊富な専門家に任せたほうが、素人が行うより有益な結果が得られる
     

といったことでしょうか。少なくとも、初めて行動観察を実施する人は事前に観察の練習をして臨むべきだということかと思います。

観察調査で上手に観察するコツ その②
- (必読!)新製品開発をスパークさせる行動観察/エスノグラフィでの観察方法

上記でやや硬めの行動観察に関する論文を紹介させていただきましたが、次にもう少しソフトで実践的な行動観察に関する記事を紹介させていただきます。Hy Mariampolski氏という方が2005年に書かれた少し古い記事ですが、この記事では行動観察/エスノグラフィ調査で家庭訪問をした際に有益な結果を得るための10個の観察のコツが紹介されています。個人的にはとても参考になりましたので、ぜひ皆さまにも内容を知っていただければと思いました。以下に内容を要約して紹介させていただきます。

Using ethnography to spark new product ideas

 - Hy Mariampolski, Managing Director, QualiData Research Inc., New York.

Tips1: 製品を利用する際の各ステップを意識し、各ステップに生じている感情に注目して観察する

対象者が製品を利用している様子を観察するときに、何かを達成しようとする意図から満足に至るステップを意識しながら観察する。そのステップは、例えば家の掃除の観察の場合、対象者の主婦が掃除用のエプロンを着るところから始まるかもしれない。そして、部屋の床がピカピカになって満足するところまでになろう。そしてその過程の各ステップにある期待や疑念、希望等の中に新製品開発のヒントが隠れている。

お洗濯の観察の場合、このテクニックは特に有効である。例えば洗濯機を使う前に、主婦は予期される不安や疑念、希望を抱きながら洗濯する衣類をより分けるという行動を行う。白い服は、色移りするという恐怖の感情のため、色物から分けられる。同時に白い服は塩素系漂白剤からうける布地のダメージに特別な注意を払わなければいけないという恐怖も持っている。

このような感情に注視して観察していると、例えば色移りしない洗剤や色移りを防ぐ製品、非塩素系漂白剤といったイノベーティブな製品開発のアイデアが生まれる。

Tips2: 消費者の間違い(メーカーが意図しない使用方法)に注目しよう

消費者はあなたのクライアント製品をクライアントが意図した使用方法で使っているとは限らない、むしろ間違った使い方をしているケースが多いのではないだろうか。これは、スマートフォンや録画機器といった操作が単純ではないカテゴリーだけで起こっているのではない。大部分の製品カテゴリーで起こっていることである。そして特にそれは従来の製品と異なる(利用者のこれまでの知識と異なる)ある意味画期的な製品の場合起こりがちである。

例えば、数年前にゴキブリの毒餌剤という画期的な商品が開発された。これは、ゴキブリが、その餌を巣に持ち帰って、それを食べた巣にいるゴキブリを皆殺しにしてしまうという製品である。ただし、我々がその製品使用に関する行動観察を行った際に、ある対象者はその製品を設置するのと同時にゴキブリ用殺虫剤も同時にスプレーしていたのを観察した。これは毒餌剤の効果を半減する大きな間違いである。ただ、この対象者は、ゴキブリがその餌を巣に持ち帰るという説明書を読んでおらず、ゴキブリはその餌に引き付けられて、それを食べるとその場でコロっと死ぬものだと理解していたのだ。この行動観察から、もっと消費者が直感的に理解できる製品の必要性やどのようなコミュニケーションによって製品使用方法の間違いが減らせるのかの議論がクライアント内でなされた。

Tips3: 対象者が製品をユニークな組み合わせで使っている様子に注目する

消費者は、自分の期待を完璧に満たす製品が市販されていない場合は、自分で工夫をして・・・つまり複数の製品を組み合わせることによって、自分の期待を満たそうとする。

少し前の話であるが、我々は主婦がキッチンカウンターやキッチンフロアーを掃除している様子を観察していた。そしてその際に、ある主婦が普段使っている食器用洗剤に、漂白剤を混ぜて、まな板やカウンターをお手入れしている興味深い様子を見た。その当時は、バクテリアの汚染による食中毒のニュースが頻繁に流されており、除菌ということに関心が高まっていた時期でもある。その当時、除菌というUSPは、まだニッチであったが、近年、除菌というUSPがキッチンケアカテゴリーで主流になっているのはご存知の通り。このメーカーは、すでに除菌の分野での研究開発が進んでいたので、新しい新製品を投入しこのブームに乗り成長を遂げることができた。

Tips4: 生活者が独自に行っている工夫に注目する

クリエイティブな生活者は市販の製品に飽き足らない場合、自分で製品に工夫を加えて自分なりの解決策を見つける。ありがたいことに、行動観察調査のために対象者宅を訪問すると多くの対象者がその工夫を自慢げに見せてくれる。

例えばアメリカ人はホームバーベキューが大好きだが、その様子を観察しに行くといつも多くの発見がある。肉にどのように下味をつけるかは、各家庭で様々な工夫があり食品メーカーにとってはとても参考になる。かつて、いくつかの家庭で火を起こす際に、空のコーヒー缶の底に穴をあけて、そこにチャコールを入れて火を起こしているのを見た。この観察から、彼らがチャコールで火をおこすことに苦労していることがわかり、新製品開発のヒントとなった。

Tips5: 生活者がその製品を使っている理由に注目する

生活者があなたの製品を使う理由は様々である。それは時にはあなたの想像を超えるものであるかもしれない。例えば、我々は以前、シャワーヘッドを製造しているメーカーのためのエスノグラフィを行った。当初我々はそのシャワーヘッドをアピールするためには機能面(例:清潔さが保てる)でのアピールが重要考えていた。しかしながら、行動観察とそれに伴うインタビューで、シャワーを浴びるという行為はエモーショナルなベネフィットが重要であることに気づかされた。人はシャワーを浴びている時、他人の目を気にするという意識が消えている。そして裸で水を浴びるという行為は、人によっては、とてもリラックスできる行為であり、瞑想状態になっていたり、アロマテラピーに行くのと近い感覚を持っていたり、そのような感覚が得られることを期待していることに気づいたのである。この行動観察から、次回のシャワーヘッドの新製品開発は、このようなエモーショナルなベネフィットを満たすためのデザインを開発することを主眼において行われた。

Tips6: 言葉を信じるのではなく、態度や様子から表現される不満を探しだす

我々は、しばしば自宅の掃除に関する行動観察を行ってきた。ある主婦は、お風呂掃除が終わって、「これでオッケー。終わり」とつぶやく。しかしながら、汚れがまだ残っているのに上手く取れずに、それに不満な様子が、その言葉を発した時の顔の表情や肩をすぼめる様子から読み取ることができるのだ。その主婦は、自分はベストを尽くしたし、市販の製品ではこれが限界だと考えており、これ以上はどうしようもないと考えていた。だからオッケーなのである。でも、不満があることはその表情に表れていた。この不満に新しい製品開発のチャンスがある。観察者は対象者の発した言葉を、そっくりそのまま受け取ってはいけない。

Tips7: 家庭内の仕事の役割分担に注目する

家庭内の仕事が、誰にどのように割り振られているかを知ることは新製品開発のヒントが溢れている。たとえばある家庭でお風呂掃除は主婦ではなく、旦那さんの仕事になっている。またある家庭では、特別な仕事、例えばカーペットのクリーニングは、自分たちではなく専門業者に頼むべき仕事としてアサインされている。ここでエスノグラファーの想像力をはたかせることによってチャンスが生まれる。例えば、その家庭ではカーペットのクリーニングは自宅ではできないと考えられている訳だが、それを可能にする製品を開発したり、その信念を変革したりするようなコミュニケーションを行えないだろうか。また父親が、休日に子供のために料理をする姿を見たのなら、父と子の思い出作りにつながるようなコンセプトの製品を開発できないだろうか。

Tips8: 製品の置いてある場所に注目する

我々が行動観察のために家庭を訪問したときの嬉しい喜びは、ある製品が我々の想定外の場所に置かれている姿を見つけることである。キッチン用製品がお風呂場に置かれていたり、リビングにあるべきものがベッドルームに置かれていいたり。観察者はこのような想定外の置き場所に注目することによって新製品のチャンスを見つけることができる。例えば、家庭用ペーパー製品メーカーの調査である家庭を訪問した際に、我々はそのメーカーの食事用ペーパーナプキンが風呂場においてあることを見つけた。その主婦によると、「風呂場で共用の布のタオルを置くのは菌が広がるので心配だが、ペーパータオルは高価だし、なかなか適したものが売っていない。一方で、このクライアントの食事用のペーパーナプキンが丁度よい」のとのことであった。この観察結果が、クライアントの製品ラインエクステンションにつながったのは言うまでもない。

Tips9: 製品の保管方法に工夫していないか注目する

消費者はスーパーで買った製品をそのまま保管しているとは限らない。人によっては自分が使いやすいように工夫して保管したりしている。例えば、ある対象者が大きなサイズ冷凍食品を小分けにして(一人分にして)保管していたとしよう。それはメーカーにとって一人用サイズの製品や、一人分のポーションに分割できるパッケージを導入するチャンスである。また、ある主婦が洗濯機用の液体漂白剤を古いマスタードディスペンサー(ホットドッグにマスタードを塗るためのポンプ式の機器)に入れ替えていたら、その液体漂白剤にポンプ式パッケージを導入するチャンスかもしれない。

Tips10: 被験者に夢を語ってもらう

対象者がある製品を利用している時に、その製品に関して語ってもらう夢は新製品開発の大きなヒントとなる。ここで重要なのは、単なる現状の製品の改善案ではなく、現状では不可能かもしれない夢を引き出すことだ。例えば、糖尿病患者が血糖値を測定する様子を観察していたとしよう。そんな時、我々は、指に針をさして血液を採取して、測定することが対象者の中に様々な感情が渦巻いていることをよく目にする。そして、「針を刺して血液を採取しなくても、血糖値が測定できないかしら」といった願望をよく耳にする。このような夢はすぐには実現不可能かもしれない。しかしながら、このような夢はあなたの新製品開発の方向性を正しい方向に導くはずである。

観察調査で上手に観察するコツ その③
- オンライン行動観察のアドバンテージを利用する

ここまで、様々な行動観察/エスノグラフィにおける観察のポイントやコツについて書かせていただきましたが、このようなポイントやコツがあるということは、行動観察で有益な結果を得ることは一筋縄ではいかないということの裏返しであるかもしれません。では、行動観察は経験を積んだ専門家に任せるしかないのでしょうか?

いえ、そのようなことはありません。ここからは宣伝っぽくなりますが、というか宣伝ですが(苦笑)、オンラインを利用した行動観察は、経験を積んだ専門家でなくても有益な結果(=行動観察のアウトプットである「気づき」)が得やすいという話をさせていただきます。皆さん、そんな訳ないだろうと思われていると思いますので、その理由を説明します。

 ※ 以下にお話しするオンライン行動観察は写真や動画を利用したオンラインエスノのことでありません。それはそれで有効な手法なのですが、ここではスマートフォンやWEBカメラを利用して、リモートかつリアルタイムで家庭内を観察したり行動を観察したりする手法のこととしてお考えいただければと思います。

オンライン行動観察が経験を積んだ専門家でなくても有益な結果が得やすい理由は3つあります。

一つ目は「従来の家庭訪問型の行動観察/エスノグラフィと比べて、オンライン行動観察では圧倒的に多くの関係者が観察できる」という理由です。

従来の家庭訪問においては、訪問して観察できるのはせいぜい3人程度。一方でオンライン行動観察では基本的には観察できる関係者の数は無制限です。

例えば、優秀な観察者3人が従来の家庭訪問型行動観察/エスノグラフィで各10(計30)の「気づき」(アウトプット)を得たとします。一方でオンライン行動観察であれば、観察者が初心者で各人5つの気づきしか得られないとしても、観察者が10名集まれば計50の「気づき」を得ることができます。観察者の質が物足りないとしても量で補うことが出来るということです。

二つ目の理由は「従来の家庭訪問型の行動観察/エスノグラフィと比べて、オンライン行動観察では圧倒的に多くのケースを観察できる」という理由です。

従来の家庭訪問型行動観察/エスノグラフィでは移動時間等を考慮すれば1日1サンプル、多くても2サンプルしか実施できないのが実情かと思いますが、オンライン行動観察であれば、同じ観察時間の実査が1日で4~6サンプル実施可能です。ということは観察者のレベルが同じであれば1日あたりに得られる気づきの数は少なくとも2倍以上なります。

※ 1日2サンプルの家庭訪問型行動観察/エスノグラフィと1日4サンプルのオンライン行動観察の実査コストは同程度と想定できますが、その場合1つの気づきを得るためのコスト効率はオンライン行動観察の方が遥かに上回ると言えるかと思います。

三つ目の理由は「従来の家庭訪問型の行動観察/エスノグラフィと比べて、オンライン行動観察では圧倒的に多様な視点で観察できる」という理由です。

家庭訪問型行動観察/エスノグラフィにおいては、例えば女性の一人暮らしの自宅に男性だけで行きにくい、逆に男性一人暮らしの自宅に女性が行きにくい等の様々な制約があるのではないでしょうか。しかしながら観察者の性別や年齢、経験、バックグラウンド等によって興味を持つポイントや対象は異なります。なので例えば女性対象者の観察において男性の視点が抜けてしまうことは、逆に男性対象者の観察に女性の視点が抜けてしまうことは「気づき」の数が少なくなってしまうことに繋がるのではないでしょうか。オンライン行動観察では、そのようなことは全くありません。

以前、弊社で男性のお風呂場での洗浄行動についてオンライン行動観察を実施させていただいたのですが、その際クライアントの女性担当者からは「普段中々見ることのできないものが見ることが出来てとても有益であった」とのご評価をいただきました。このようにオンライン行動観察は多様な視点からの観察を可能にします。それに伴い、多様な「気づき」が得ることができます。

以上の3つがオンライン行動観察においては経験を積んだ専門家でなくても有益な結果が得やすい理由です。

もちろん、実際に訪問しなければわからないことは多々あります。オンライン行動観察はスマートフォン等で対象者自身が自宅内や自分の行動を撮影するために、観察する範囲が限定されます。上記論文のように、観察するポイントは限定すべきだという考え方からすると、それは問題ないことなのかもしれませんが、それでも、想定外の気づきは得にくいというハンデがあるかもしれません。また、ニオイに関する情報が得られないので、製品カテゴリーによってはそれがネックになる場合があるかもしれません。

しかしながら、これまで行動観察/エスノグラフィ実施の実施を妨げていた実査の負担(時間/手間、それに伴う費用)の軽減、および上記で紹介した、観察経験が少ない人でもより多くの気づきが得られるという点に関しては圧倒的なアドバンテージがあるので、オンライン行動観察は、従来の家庭訪問型の行動観察/エスノグラフィ調査の置き換えとして利用したり、会場で実施するデプスインタビュー以上に生活者のことを理解したいが、本格的な従来型行動観察/エスノグラフィまではちょっとという場合には適しているのではないかと思います。

ちなみに近年、オンライン行動観察で観察できるクオリティは格段に向上しています。以下に弊社で実施した自主調査の映像がありますので、オンラインでどの程度の観察が出来るかの参考にしていただければと思います。

https://www.teisei-ishin.co.jp/movie

今回は、行動観察/エスノグラフィで観察の達人になる方法を紹介させていただきました。皆さまには今回の記事を参考にしていただき、観察の達人になることを目指していただければと思います。ただし、達人にならずともオンライン行動観察であれば有効な結果が得られることを合わせてお伝えさせていただければと思います。