定性調査が苦手な人はサイコパス?(共感の話)

皆さまは定性調査が得意ですか?定性調査が好きですか?

定量調査は得意だけど、定性調査はどうも苦手だ、グループインタビューはどうも好きになれない、デプスインタビューをやっても何も発見できない。そのような人はサイコパスかもしれません・・・というのは半分冗談です。

気分を害された方は申し訳ございません。ただ、これはあながち嘘ではないかもしれません。なぜなら、定性調査を成功させるためには共感する力がとても重要だからです。そして、サイコパスの人は共感力が欠如しているかもしれないからです。

今回は定性調査を成功させるためにとっても重要な共感についての話です。

共感とは何か

そもそも共感とは何なのでしょうか。ウィキペディアで調べてみると

「共感(きょうかん、英語:empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有することを指す。もしくはその感情のこと。例えば友人がつらい表情をしている時、相手が「つらい思いをしているのだ」ということが分かるだけでなく、自分もつらい感情を持つのがこれである。」

とあります。言い換えれば他人の痛み(や喜びや悲しみ等の感情)を「自分のことのように」感じる能力とでも言えましょうか。

更には、ウィキペディアではこの一文のあとに

「通常(共感)は、人間に本能的に備わっているものである。しかし、例えば反社会性パーソナリティ障害やサイコパスの人物では、“共感の欠如”が、見られる。」

とあります。今回のタイトルはこの一文を参考にしたのですが、最近よく耳にするサイコパスという反社会的人格を持つ人のことは共感力が欠如した人とも言うことが出来るようです。

ちなみにサイコパスの反対をご存知でしょうか。サイコパスの人は共感力が欠如しているのに対して、共感力が強すぎる人のことをエンパスというそうです。共感力が強いというのはよさそうなことに思えますが、あまりにも強すぎると、例えばテレビドラマを見ていているだけで極端に感情移入してしまい疲れてしまったり、他人がけがしているのを見て、それで自分も痛みを感じてしまったりと、エンパスの方は、それはそれで苦労があるそうです。

もう一つちなみにですが、共感という言葉はSympathyと英訳される場合もあるようですが、sympathyはどちらかというと同情というニュアンスがあり、マーケティングやリサーチで使われる場合はEmpathyと訳したほうがよいようです・・・というか、Empathyという英語が最初にあって、それが共感と和訳されているのですが。

話は少し横道にそれましたが、では、なぜこの共感は定性調査にとって重要なのでしょうか。これは言うまでもないことかもしれませんが、定性調査は自分ではなく他者(多くの場合お客様)のことを理解するためのものだからです。そしてその理解は頭の中だけの理解だけでは不十分です。

なぜならお客様の感情を自分のことのように共有(つまり共感)することによって初めてそのお客様のためには何をすればよいのかという発想がスパークして新たな製品のアイデアや改善のアイデアが生まれるからです。

グループインタビューで対象者の発言を聞いて頭で理解してお客様のことが分かったつもりでいるだけではダメなのです。グループインタビューで対象者の意見を聞いて、お客様の気持ちを味わうことが、新しいものを生み出す原動力になるのです。

以前にも紹介させていただきましたし有名な話なのでご存知の方も多いかと思いますが、日本を代表するマーケターであるセブンイレブン創業者であり前会長の鈴木敏文氏は

「”お客様のために”ではなく、”お客様の立場に立って”考えることが重要だ」

ということを言い続けておられます。

「お客様のために」ということは売り手の立場でお客様を理解することです。そうではなく、「お客様の立場に立つ」・・・これは「お客様に共感する」ということではないでしょうか。そしてこのお客様に共感しようとする姿勢を徹底し続けたことがコンビニエンスストアという類まれなるビジネスモデルを生み出し成功し続けた要因のように思われますが皆さまはどう思われますか。

デザイン思考の最初のステップは共感

さて最近リサーチ関わっている人ならよく耳にするIDEO社が唱えるデザイン思考。デザイン思考についてはこれまでにも何度か紹介してきましたし、よくご存じの方も多いと思いますので詳しくは書きませんが、デザイン思考を教えるスタンフォード大学デザインスクール「d.school」の授業ではデザイン思考のステップを次の5つだと教えているそうです。

<デザイン思考:5つのステップ>

Step1:共感(Empathize)

Step2:問題定義(Define)

 Step3:創造(Ideate)

 Step4:プロトタイプ(Prototype)

 Step5:テスト(Test)

このように最初のステップが共感だと教えています。つまり革新的な製品やサービスを生み出すための元になるのは「共感」だということです。なぜデザイン思考において共感が重要なのか。高知大学講師の須藤氏によると

「共感(Empathize)は、実在のユーザーを見付け、観察するためにフィールドワークやインタビュー、参与観察を行い、ユーザーが抱える本当の課題や問題、求めているものは何かを見付け出す段階となる。いきなり具体的な仮説構築を行うのではなく、ユーザーの日常生活や行動様式、思考様式、置かれている状況を、五感を生かしてありのままに理解し、気づき(=インサイト)を獲得することを目指す。

共感段階では、目に見える行動や言動だけではなく、その背景にある心情や価値観に近づくことが重要となる。

~中略~ 

これまで当たり前だと思っていたことに対して、違和感や疑問を見付け、その本質的な理由を理解することがイノベーションの種となる。」

と説明されています。

※ 0から1を創り出すデザイン思考 ― 新たなイノベーション創出手法

http://www.buildinsider.net/enterprise/designthinking/02

なお、デザイン思考のステップ1における重要な手法は上記にもあるようにインタビューと観察です。我がリサーチ業界においても行動観察の重要性が唱えられつつも、その手間や時間、費用等の問題からインタビュー程には実施されていないのは皆さまご存知の通りです。しかしながら、中々画期的な新製品が生まれにくくなっている現代において定性調査における観察の重要性について改めて考えなおすべき時期なのではないでしょうか・・・

共感力を教えることはできるのか?

さて、ここまで共感の重要性について語らせていただきましたが、共感する能力は育てたり教えたりすることが出来るのでしょうか。先述のウィキペディアでも共感は「通常は、人間に本能的に備わっているもの」だと記されています。もし共感力がもって生まれた能力であれば、定性調査が苦手な人は、いくら頑張って努力しても定性調査を得意になれないのでしょうか。

ご安心ください。共感する能力は育てたり教えたりすることができるそうです。この点に関して面白い記事がありましたので紹介させていただきます。

Can you teach people to have empathy? (共感を教えることはできるのか?)

  -BBC News Magazine

http://www.bbc.com/news/magazine-33287727

以下は、記事で紹介されている内容です。

共感は人が社会生活を送るうえで欠くことができない資質である。しかしながら、現代社会においては共感・・・つまり他者のことを簡単に忘れてしまいがちである。だがRoman Krznaricはほとんどの人は共感力を育てることが出来ると説く。

「To Kill A Mockingbird」という古典小説の中に、「あなたは他者の立場に自分をおかなければ、その人のことを決して理解することは出来ない」という一説がある。

近年の研究では、一部の例外的な人を除いて98%の人間の脳には共感する能力が備えられているということがわかっている。他社の感情を理解するということは人間に本来備えられた特性なのである。

問題なのは大部分の人が、この本来持つ特性を日常生活で十分に活用できていないということである。あなたは、ベビーカーを押していて階段前で困っている母親を横目で見ながら仕事に向かうために通り過ぎていくし、他国で起こった悲劇的な地震のニュースをネットで見ていたが、その横のサッカーのニュースのリンクを簡単にクリックし贔屓のチームが勝ったことに興奮する。

しかしグッドニュースはほとんどの人は容易に共感力を育てることが出来るということである。誰もが自転車に乗ったりクルマを運転したりすることができるように。

最初にあなたの共感力がどのくらいかチェックしてみよう。脳心理学者のSimon Baron-Cohenが開発した「Reading the Mind in the Eyes」では、36種類の目元の写真が提示され、それぞれがどのような感情の状態であるかを4つの選択肢(例:嫉妬/傲慢/パニック/憎しみ)から選ぶテストである。

※ Reading the Mind in the Eyesは以下で試すことができます

https://www.questionwritertracker.com/quiz/61/Z4MK3TKB.html

このテストでの平均スコアは36問中の26問であり、多くの人がある程度は高い共感力を持っているといえよう。しかしながら、10問は不正確であり、多くの人は他人の感情に対して完璧とはいいがたい。

では、以下にあなたが潜在的に持つ共感力のポテンシャルを解き放つ3つのシンプルな戦略をお教えしよう。

<<ラジカルリスニングを習慣にする>>

心理学者でNon-Violent Communicationの創設者であるMarshall Rosenbergは「重要なことは、起こっていることに対して、自分が他者がその瞬間に経験している感情やニーズに対しての当事者になることだ。」と説く。

他者の感情やニーズに耳を傾けよう。それが乳がんと診断された友人であろうと、あなたの帰りがいつも遅くて文句を言っている配偶者の言葉でも。彼、彼女に常に理解しているという感覚を与えよう。

彼、彼女の言葉を遮ることなく、自由に話してもらうように心がけよう。そこで話されたことに対して、解釈を加えるのはいったん控えて、あなたが真剣に話をきいていることを伝えよう。このような聞き方は「ラジカルリスニング」と呼ばれる。

ラジカルリスニングは衝突しているシチュエーションを解決するのに著しく効果的である。ローゼンバーグは労使の対立している状況で、お互いが相手が言ったことを、自分がしゃべる前に、頭の中でそっくりそのまま繰り返してから話すと50%早く問題は解決すると述べている。

<<すべてには人間が存在することを意識する>>

二つ目は、日常生活で経験するすべてのことの陰には人間の存在があるということを意識して、他者に対して常に深い共感的関心を持とうと心がけることである。これは、あなたの普段の行動には多くの人が結びついていると意識しながら一日をずっと過ごす仏教的なアプローチである。

例えば朝コーヒーを飲むときは、そのコーヒー豆を摘んだ人のことを考えよう。そして、あなたがシャツのボタンをとめる時は「このボタンをシャツに縫い付けた人は誰だろう?どこに住んでいてどのような暮らしをしているのだろう?」と自問してみよう。

これを終日続けてみよう。今乗っているが電車を運転している人に、オフィスのフロアを掃除している人に、スーパーマーケットのレジの人に興味を持ってみよう。あなたのこのような意識的に人を認知しようとする行動は、あなたの他者に対する共感を爆発させ、フェアトレードコーヒーを買うようになったり、オフィスフロアを掃除する人と友人になったりさせるであろう。

<<他者に興味を持つことを心がける>>

私がオックスフォードに住んでいた時のことである。仕事に向かう道で、常にあるホームレスの横を歩いて通り過ぎていた。いつもは気にもかけなかったのだが、ある日なぜか立ち止まってそのホームレスに話かけてみた。

すると彼の名前が、アラン・ヒューマンでオックスフォード大学の哲学、政治学、経済学の学位を持っていることを知った。そして我々は二人ともアリストテレスの倫理学に興味がありペパロニピザが好物だということがわかり友人となった。

この経験は、私に他者と会話をすることは、我々が持つ共感力を開花させるということを教えてくれた。我々は普段、魅力的に見える人だけと出会うのではない。我々は常に、見た目、アクセント、バックグラウンド等による偏見や先入観に常にチャレンジされているが、そのような先入観を打ち破って様々な人に興味を持ち話しかけてみよう。

以上が共感力を高める3つの秘訣である。

BBC News Magazineの記事は以上です。

その他、以下のようなサイトにも共感力を高める方法が記されています。共感に自信のない方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

https://www.lifehacker.jp/2015/01/150110develop_empathy.html

https://www.focusvision.com/blog/moderators-voice-series-empathy-muscle/

 ※ 両サイトでは小説(フィクション)を読むことを推奨しています。

定性調査を成功に導くのは共感力

最後に、定性調査と共感の関係についてもう少し触れることにします。

この点に関してKerry Walsh氏という25年の経験をもつモデレーターさんの書いた文章が素晴らしかったので、紹介させていただき、今回の記事を締めさせていただきます。

Focus Group Moderation: How Empathy Creates Surprise

フォーカスグループモデレーション:共感がどのように驚きをもたらすのか

– Kerry Walsh

http://www.greenbookblog.org/2016/12/08/focus-group-moderation-how-empathy-creates-surprise/

私の多くのクライアントは、すっと同じカテゴリーや業界で働き続けている。だから彼/彼女たちはカテゴリーや業界についてのありとあらゆることを知っている。彼らはこれまでに何百ものグループインタビューやデプスインタビューを見ている。特には家庭訪問をして顧客の子供やペットに合ったり、冷蔵庫の中身やクローゼットをのぞいたり、一緒に買い物にいったり、一緒に寝たりさえもする(注:これはアメリカンジョーク)。

そして、イノベーションをもたらすフレッシュなアイデアが現れるのを辛抱強く待ち続けている。多くの場合、彼らは彼らの外を見ているのである。誰かが彼らをスパークするような何かを言ってくれることを期待しながら・・・

しかしながら、これから述べることは、私が今までの経験から学んだことである。

「あなたが持っているフィルターが、あなたが何を学ぶのか、何を学ばないかを決めるのである。あなたが学ぶことは、対象者が言ったことではない。あなたが聞いたことなのだ。そしてもっと重要なことは、イノベーションにつながるような新しくフレッシュな視点をもたらすものは、あなたが何を感じたかなのだ。あなたが感じたこと、つまり共感は新しいオポチュニティを創出するメカニズムなのである。」

私の25年のモデレーターとしての経験を通して、私は常に対象者が言ったり行動したり姿に驚いたり新しい発見をしている。例えば最近は子供を出産して、生活が一挙に変わってしまった新生児のママにデプスインタビューを行った。私は最初、彼女がインタビュー中になぜ泣き出してしまったのか理解できなかったが、話を進めるうちに、彼女は「子供のために正しいことをしないといけない/間違ったことをしてはいけない」という完璧主義のプレッシャーに押しつぶされそうになって不安になっていることを理解した。彼女の周りの人々は彼女に子供が生まれて幸せね・・・と言う一方で、彼女は自分自身を見失っていた。彼女は周りの人々は誰も自分を助けてくれず、孤独で独りぼっちだと感じていた。更にはフラストレーションや失望までも感じていたのである。

このインタビューを通して彼女のアイデンティティに対するニーズへの深く理解することによって、クライアントのマーケティング戦略は大きく変更された。共感が新しい戦略をもたらしたのである。

昨今、共感(empathy)という言葉はリサーチ業界でもよくつかわれるようになった一方で、まだまだ十分に理解され活用されているとは思えない。共感とは

  • 他者の思考、感情、態度を、まさに自分のことのように体験する
  • 他者のパーソナリティに入り込み、彼/彼女の感情を想像的に経験する
  • 誰かの問題を感情レベルで理解する
  • 自分の感情を他人に帰属させる

ことである。

重要なのは共感とは単なる理解ではなく、思いやる気持ちが含まれるということである。また、単に観察するということではなく、没頭するということである。

他者の感情を感じるということは、意識的な努力が必要なことである。自分のシューズを脱ぎ捨てて、他者になりきることである。あなたの価値観や視点はどうでもよい。それはチャレンジングなことである。しかし、先入観を持たずに、あなたの心を開いて、耳を傾けてみよう。そうすれば、あなたに素晴らしい結果をもたらすでしょう。

Kerry Walsh氏の記事は以上です。

今回は定性調査における共感の重要性について書かせていただきました。

定性調査は役に立たないなんて言って実施しようとしないそこのあなた。あなたはサイコパスじゃないですか?

 おっと、このメルマガお読みいただいている方にはそのような方はいないですね。大変失礼いたしました!(笑)