ワンランク上のカスタマージャーニーマップを作成するための8つの提案

最近、弊社オンラインインタビューにおいても、カスタマージャーニーマップを作成する案件が増えています。また、ネット上でもカスタマージャーニーマップに関する様々な情報が出回っており、定性調査手法におけるひとつのブームになっているように感じています。皆さまの中にも、カスタマージャーニーマップを今後の定性調査に取り入れてみようとお考えの方も多いのではないでしょうか。そんな皆さまのために、今回はカスタマージャーニーマップを作成する際のポイントや気を付けるべきことなどを書いてみました。

カスタマージャーニーマップとは

そもそもカスタマージャーニーマップとは何なのか。ご存じの方も多いと思いますので、ごく簡単に説明させていただきます。まず「カスタマージャーニー<Customer Journey>」という言葉。これを直訳すると「顧客の旅」ですが、Journeyという単語は旅という意味と同時に「行路」、「遍歴」といったニュアンスも含まれています。ですからカスタマージャーニーは「顧客の(購入に至るまでの)行路/遍歴」と考えるとよいのではないでしょうか。そしてMapは言うまでもなく地図/案内図なので、カスタマージャーニーマップとは「顧客の(購入に至るまでの)遍歴(プロセス)を可視化したもの」と考えればよいのではないかと思います。

ただ、このような言葉の説明よりも、実際どのようなものかを見てもらったほうが手っ取り早いですね。ネット上で「カスタマージャーニーマップ」と検索すると様々な作成事例が出てきますので、詳しくはご自身で検索していただければと思いますが、私はネット上で以下の例をよくみかけました。

(引用元)カスタマージャーニーマップを正しく活用するには「おもてなし」と「カスタマーエクスペリエンス」の理解から
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2013/11/14/16305
(引用元)The Anatomy of an Experience Map(adaptive path)
http://adaptivepath.org/ideas/the-anatomy-of-an-experience-map/

余談ですが、カスタマージャーニーマップの事例を見ると何故か旅行の例が多いです。とはいえ、ジャーニーがついているからと言って決して旅行業界においてのみ活用できるというものでありませんので、勘違いしないようにしましょう(笑)

さて、カスタマージャーニーマップの例をご覧いただいたら、どのようなものか何となくイメージをつかんでいただけたかと思いますが、実際問題として、カスタマージャーニーマップはどのように作成し、マップ内にはどのようなことが描くべきなのでしょうか。もちろん決まったルールがあるわけではありません。また様々な人が様々なことを言っていますので一概には言えません。具体的な作成方法はネット上にも多々紹介されていますので省略しますが、作成の際のポイントに関して以下のURL記事が参考になりましたので簡単に紹介させていただきます。

<Customer Journey Map : the Top 10 Requirements: カスタマージャーニーマップ作成の際に重視すべきトップ10の要素>

  Jim Tincher:Heart of the Customer

http://www.heartofthecustomer.com/customer-experience-journey-map-the-top-10-requirements/

カスタマージャーニーマップは・・・
 

  1. 顧客の視点を代表するものであれ

    カスタマージャーニーマップは顧客が経験したプロセスが描かれるべきである。それは、あなたの企業がコントロールできないSNSの利用やネット検索といったプロセスも含む。
     
  2. リサーチを活用して作成せよ

    決して、貴社内のスタッフだけで作成してはならない。カスタマージャーニーマップは顧客に対する定性調査や定量調査を通して作成されるべきものである。
     
  3. 顧客セグメントを代表するものであれ

    様々なセグメントは、様々な購入プロセスを経る。購入プロセスは一つだけではない。
     
  4. 顧客のゴールをマップに含めろ

    ジャーニーの各プロセスには顧客にとってのそのプロセスのゴールがあるはずである。そのゴールをマップ上で明確にすべきである。
     
  5. 顧客の感情にフォーカスせよ

    顧客の感情は次の行動を起こす原動力である。マップ上では、どのような感情が起こって次の行動に至ったのかを明確にすべきである。
     
  6. タッチポイントを代表させろ

    描かれるジャーニーマップは、顧客があなたの商品、サービスに触れるタッチポイントを明確にしたものでなければならない。
     
  7. 「真実の瞬間(moments of truth)」をハイライトしろ

    顧客の購入プロセスにおいては、他のプロセスよりもインパクトがあったプロセスがあるはずである。それが真実の瞬間であり、これがどのプロセスであったのかをマップ上で明確にすべきである。
     
  8. ブランドプロミスがどう達成されたかを評価しろ

    購入という結果だけがすべてではない。顧客が、その購入プロセスにおいて、あなたのブランドについての態度がどのように変化したかという視点も取り入れるべきである。
     
  9. 時間軸を明確にしろ

    ある購入プロセスは、10分で終わるものかもしれないし、あるものは半年かかるものかもしれない。購入プロセスに費やした時間を明確にすべきである。
     
  10. パワーポイントがすべてではない

    カスタマージャーニーマップはパワーポイント上に書かれることが多いようであるが、社内共有のためにもっと違う手段(例:desktop publishing application)の方が適切ではないかも考えてみるべきである。


※ ちなみに、この記事を書いているJim Tincher氏の<Heart of the Customer-http://www.heartofthecustomer.com/>という会社はカスタマージャーニーマップ作成を専門にしている会社のようです。海外にはこのような会社もあるのですね。

カスタマージャーニーマップの活用事例

さて、ここまでお読みいただいた皆様に質問です。カスタマージャーニーマップは誰が描くべきものなのでしょうか?

皆さんがネット上で目にされるのは、定性調査(時には定量調査も)を行い、その結果を関係者(調査会社とクライアントサイドの関係者)が共同で分析して、チームでカスタマージャーニーマップを作り上げましょうという話がほとんどではないかと思います。しかし、これは調査会社の人間からしたらクライアントを巻き込んでの大プロジェクトになってしまい簡単には取り組むこができません(本来はそうあるべきなのでしょうが・・・)。それとは別に定性インタビュー中に、または定性インタビューの事前課題として「対象者にジャーニーマップを書いてもらう」というのも一つのアプローチです。実際、弊社でも事前課題やインタビュー中に対象者にカスタマージャーニーマップを描いてもらうケースが増えています。

注:以降、定性調査を行いその結果を踏まえて、関係者が作成するマップを「チーム作成カスタマージャーニーマップ」、定性調査前/内で対象者が描くマップを「対象者作成カスタマージャーニーマップ」と記載させていただきます。これは私が便宜上、今回勝手に名付けましたので一般的な言葉ではありません。その点ご注意ください。

さて、この対象者作成カスタマージャーニーマップについて、参考になる事例がありましたので紹介させていただきます。この例を読んでいただくと、対象者作成ジャーニーマップの価値を実感していただけるのではないかと思います。



<USING JOURNEY LINES FOR INSIGHT AND IDEATION:インサイトやアイデア探索のためのジャーニーラインの活用>

 Beverly Freeman:Google Inc.
 Mark Wehner:eBay Inc.


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2014年春、eBay(米国でネットオークションを運営する会社)は、In-store pickup (ISPU-店頭受け取りサービス)を展開しようと考えていた。これはeBayで購入した顧客が、地元の指定店舗で購入商品を受け取ることが出来るサービスである。このISPUの利便性や利用満足度を高めるため、我々はこのサービスを利用する際の顧客インサイトを探りたいと考えていた。

我々は最近このサービスを利用した人を対象者としてデプスインタビューを行った。そこで、ジャーニーマップのテンプレート(横軸に時間軸/縦軸が感情の起伏を記入する)を用意し、対象者に購入に至るまでの各フェーズにおける感情の起伏を記入してもらった。最初から決まったフォーマットではなく、対象者に自由に発言してもらい、自由にマップを記入してもらった。

このマップによって、私たちは消費者の生々しい購入プロセス、例えば焦って家族の誕生日プレゼントを用意する様子や、パソコンが故障して急遽替わりを買わなければならなかった様子とそれに伴う感情の起伏といったものを目のあたりにし、ISPUをどのように進化させていかなければいけないのかを理解することが出来た。対象者視点でのISPU経験を理解することにより、様々な驚きや今まで我々が気が付いていなかった進化の機会を見つけることが出来た。

ジャーニーマップに描かれた感情の起伏ラインは我々に二つの重要な点をもたらしたと思う。一つ目の重要な点は、テンプレート上に描かれたラインはリサーチャー(インタビュアー)と対象者の相互理解を深めさせたということである。つまり両者は購入プロセスにおいて、対象者に何が起こって、その時どのような感情になったのかをクリアに共有できたのである。そしてインタビュアーは、感情のピークや落ち込んだ部分について、入念にプロービングをすることが出来たのである。二つ目の重要な点はジャーニーラインが関係者(分析者、ブランドチーム等)に、対象者のストーリーを明確にすることが出来たということである。定性リサーチャーにとって難しい点は、デプスインタビューで得られたリッチなファインディングスを関係者(特にインタビューを閲覧することが出来なかった人)にどのように伝えるかということである。しかしながら、描かれたジャーニーマップは、インタビューを閲覧していたチーム関係者の記憶をリフレッシュしたり、閲覧していなかった関係者に、対象者に何が起こっていたのかを明確に伝えたりすることができたのである。
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対象者にインタビュー前/中にカスタマージャーニーマップを描いてもらうことは、インタビューにストーリーテリングの要素を加えることではないでしょうか。そしてそれはインタビューに様々な利益をもたらします。インタビューの内容を活性化し、かつ関係者の理解を促進する効果があります。また、対象者作成カスタマージャーニーマップは現在皆様が行っているインタビュー調査にとても簡単に取り入れることができます。極論を言えば、紙とペンと1分の時間があれば実施できます。これなら、次回のインタビュー調査に取り入れない理由はないですね。

カスタマージャーニーマップ作成時にありがちな落とし穴

さて、ここまでカスタマージャーニーマップとは何か、そして活用事例を紹介いたしましたが、作成や活用にあたっての落とし穴もあります。以下にClay Walton-Houseという人が書いた「カスタマージャーニーマッピング作成の際に避けるべき3つの落とし穴」という記事から3つの注意点を紹介させていただきます。なお、この記事はチーム作成カスタマージャーニーマップを想定して書かれているものですが、対象者作成カスタマージャーニーマップにもあてはまると思いますので、そのような視点でお読みいただければと思います。


<3 pitfalls to avoid when customer journey mapping:カスタマージャーニーマップ作成の際に避けるべき3つの落とし穴>

 Clay Walton-House:Lenati



落とし穴1:間違ったフレームワークでマップを作成してしまう

カスタマージャーニーマップの基本は、マップ作成プロセスにおいて描かれたアウトプットそのものがフレームワークであるということである。そのフレームワークそのものが、どのようなインサイトを発見することができるかを決める。このフレームワークには無数のパターンがあり、特定のビジネス課題にはこれが適しているといった公式はない。なので、その都度、どのフレームワークを使うべきかを判断しなければならない。しかしこのフレームワーク選択を間違えてしまうと、ミスリーディングな結果を招いてしまう・。

あなたが作成するカスタマージャーニーマップには競合戦略を明らかにし描くことが重要なのだろうか?チャネル(オンライン、店頭等)の情報をどの程度含めるべきだろうか?あなたのビジネスにおける顧客のライフサイクルはLinear なのだろうか、circularなのだろうか(サブスクリプション型か、売り切り型か)?これらの点を考慮しながらマップのフレームワークを考えなければならない。これらが正しくなければ、あなたはせっかくカスタマージャーニーマップを作成してもあなたが進むべき方向を見失しなってしまうであろう。

落とし穴2:企業視点でマップを作成してしまう

有益なカスタマージャーニーマップは、顧客調査とその分析をベースに作成される。しかしながらマップを作成する企業は、顧客の全体的な経験をマッピングするのではなく、自分が提供しているタッチポイント(小売店、Webサイト、カスタマーサービスセンター等)を中心にマップを作成しようとしがちである。これは、よくありがちな落とし穴である。

例えば、顧客のジャーニーは、その企業の提供しているタッチポイントに触れるずっと前から始まっていることが多い。また、タッチポイントでの経験ではコントロールできないレベルでの意思決定や感情の起伏が起こっていることがしばしばである。このようなインサイトの欠けたマップは、その企業に、顧客についての全く新しい視点をもたらさないであろうし、顧客ニーズの理解もバイアスのかかったものになるであろう。

落とし穴3:顧客のジャーニーは一つだと思ってしまう

有能なマーケターは、様々な種類の顧客セグメントが存在しており、各セグメントに対応した戦略を打つことが重要であることを理解している。しかしながら、それでもマーケターは顧客の購買プロセス(ジャーニー)は一つであり、多様ではないと考えてしまいがちである。この間違いは、マーケターの、「自分は顧客のことを完全に理解しており、その購買プロセスに関しても知らないことはない」といった過度の自信から起こる。また、顧客ジャーニーの進み方が曲がったり戻ったりするということを理解せずに、常に一直線に進むという間違った考え方に基づく場合もある。それぞれの顧客は、そのジャーニーにおいてそれぞれ独自の道を進むということを忘れてはならない。そして、マーケターのチャレンジは、その進み方の共通パターンを見極め、出来るだけ少ない数のマップで全顧客のジャーニーを表現することである。

ワンランク上のカスタマージャーニーマップを実現する8つの提案

さて、最後にこれまでに書かせていただいたことを踏まえて、今後皆様がカスタマージャーニーマップを作成/利用する際に検討いただきたい8の提案をさせていただきます。なお以下の提案にはチーム作成カスタマージャーニーマップを想定しているものもありますが、対象者作成カスタマージャーニーマップを定性インタビュー調査に取り入れる際にも考えていただきたい項目も含まれています。ぜひご参考にしていただければと思います。


※ 下記に記載している提案は、以下の記事を参考にしております。

<How journey maps can help you get closer to your customers>
  Jim Tincher: Heart of the Customer

 
<カスタマージャーニーマップだけじゃない! 顧客理解を深めるために使い分けたいツール>
  棚橋弘季: ロフトワーク

  http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2013/12/18/16557


提案1:カスタマージャーニーマップを作るフレームワークを明確にする

上記の落とし穴にあるように、カスタマージャーニーマップ作成において、そのフレームワークを決めることがとても重要です。それは、カスタマージャーニーマップを使って何を明らかにしたいのか/何を理解したいのかを明確にするということと同義語です。ひとつの商品・サービスに関しても様々な顧客のジャーニーはあります。例えば自動車保険サービスに関するマップを作るのであれば、自動車保険に初めて入った時のマップを作るのでしょうか。もしくは、ある保険に加入してから次年度に再契約するまでのマップを作るのでしょうか。もっと細かいレベルのWEBサイトで見積もり取り契約するまでにフォーカスした(サイトのユーザビリティに関する)マップを作るといったことも考えられます。カスタマージャーニーマップが流行っているからとりあえず次回の調査に取り入れてみようといったスタンスでは役に立つマップを作ることは出来ません。最初に、カスタマージャーニーマップを作ることによって何を理解したいのかを明確にするようにしましょう。


提案2:どのような定性調査手法がよいかを考える

ここまであまり触れてきませんでしたが、カスタマージャーニーマップを作成するための定性調査手法としては何が適しているのでしょうか。デプスインタビューが一般的のように思いますが、「マップを作ろう!」→「じゃ、デプスインタビューをしよう」と短絡的に考えてはいけません。例えば、グループインタビュー中に、対象者作成カスタマージャーニーマップを描いてもらうと、対象者は、他の対象者のプロセスを見たり聞いたりすることにより、自分の記憶から抜け落ちていたプロセスを思い出すことが出来、より正確なマップを描いてくれる可能性があります。

また、場合(テーマ)によっては行動観察調査を取り入れることが出来ないかも検討してみてはいかがでしょうか。例えば自動車ディーラーの訪問した顧客が商談を行い、購入決断に至るまでのプロセスをマッピングし可視化したいといった場合、その様子を観察(撮影し)、あとでインタビューと組み合わせると、単純にインタビューするだけよりも、遥かに詳細かつ正確な情報が得られ、その後のマップ作成に役立つことでしょう。

提案3:トラッキング調査を取り入れる

提案2と同様に、これもマップ作成のための調査手法に関することです。これまでも多々このメルマガでも指摘させていただいておりますが、人の記憶にどこまで頼っていいものなのでしょうか。あなたは、半年前にどのような情報に触れて、どのような気持ちだったかなんて覚えていますか?そんなことを当たり前のように聞いて、それを信じているのが現在の定性インタビュー調査です(定量調査も同じですが)。

これも場合(テーマ)によりますが、購入プロセス段階でトラッキング調査をするというのも検討する価値があるのではないでしょうか。例えば、自動車保険の更新(継続契約/他社への乗り換え)・・・これは、ある対象者にとっては3か月後に確実に実施しなければタスクであるということがわかっています。であれば、その3か月の間、日記調査や週1回の頻度でインタビュー調査を実施し、更新に至るまでのプロセスを都度理解していくというのも一つのアプローチとして考えてもよいのではないでしょうか。もちろん調査そのものが、顧客ジャーニーにバイアスを与えないように慎重に調査設計する必要がありますが。

提案4:マップには顧客の生々しい感情を表現する方法を考える

最初に紹介したように、カスタマージャーニーマップには顧客の感情の起伏を表現することがとても重要です。感情が次の行動を起こす原動力になっているからです。更に言うと、この感情の起伏を理解し、それをコントロールするアクションにつなげることがカスタマージャーニーマップを作成する真の目的ではないかと思います。

この顧客の感情を表現する手段として、ジャーニーラインを描くとともに、その時々の顧客のナマの声を取り入れることも効果的です。具体的には、インタビュー調査内の対象者の発言/コメントをマップ内に組み入れることです。また可能であれば、マップ内のジャーニーラインをある場所をクリックしたら、対象者がその時の感情を語る動画が再生されるみたいな仕組みを準備出来ると、よりよいでしょう。このように、顧客の生々しい感情が表現されたカスタマージャーニーマップは、単にラインが描かれているものよりもインパクトがあり、後により効果的に活用されるものになることでしょう。

提案5:グループ分け/セグメンテーションを行いペルソナを活用する

これは、前述の落とし穴を見ると言うまでもないですね。顧客のジャーニーは一つだけではありません。顧客をいくつかのタイプに分け、複数のマップを作るという前提で事前リサーチを進めましょう。また、分けられた各タイプを代表するペルソナを作り、そのペルソナのマップを作ると、皆がイメージしやすく、わかりやすいマップとなります。

提案6:非購入者のマップも作る

カスタマージャーニーマップを作成しようとすると、自社の商品、サービスを最終購入した人のマップだけを作りがちです。もちろん購入者のマップも重要ですが、非購入者(他社の商品、サービス購入者)のマップは、活用次第で、購入者マップ以上に価値のあるものになるかもしれません。他社商品の購入プロセスにおいて、自社商品は検討されていたのか、検討されていても、なぜ最終購入には至らず、他社商品になったのかといったことが描かれたマップは、今後の戦略を考える上でとても貴重な情報となることでしょう。

提案7:カスタマージャーニーマップからのアクションプランを考える

よい調査を実施してすばらしい「チーム作成カスタマージャーニーマップ」や「対象者作成カスタマージャーニーマップ」を作成したとします。特に調査会社の人は(?)それだけで満足してしまいがちですが、話はそれで終わりではありません。カスタマージャーニーマップはそれを作ることが目的ではなく、作って活用する(=次の戦略を考える)ことが目的です。では、作成したカスタマージャーニーマップをどのように活用すればよいのでしょうか。これには、先ほど紹介したえーBayのISPUの続きの話が参考になりますので紹介させていただきます。

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対象者作成カスタマージャーニーマップによって顧客のストーリーを収集したら、我々は全インタビュー終了後にチームがインサイトを消化しアクションプランを考えるためのブレインストーミングアクティビティを実施することにした。チームが二人一組のペアに分かれ、先ほど行われたインタビュー時に描かれた対象者作成カスタマージャーニーマップのコピーを各ペアに渡した。そして、ブランク(白紙)のマップ・テンプレートも渡して、その白紙マップに顧客の最高のストーリーを書きなおすように求めたのである。シングルマザーや大学院生にとって、e-BayのIn-store pickupはどうなれば、ジャーニーラインが落ち込むことなく常に高い位置をキープ出来るのであろうか・・・それをペアで考えてもらったのである。このブレインストーミングにおいて難しいのは、参加者が現実を考えてしまうことである。「こんなこと出来っこない」、「今と全然違う」そんな考えが彼らのクリエイティビティを阻害しがちであったが、そんなときは、彼らに顧客の理想の体験に集中して理想のジャーニーマップを作成するように求めた。我々は、このエクササイズをペアを変えて何回か行った。そして、現在のe-Bayにおいて実現できる最高のジャーニーライン、1年後のe-Bayにおいて実現できるであろう最高のジャーニーライン、5年後のe-Bayにおいて実現できるであろう最高のジャーニーラインを作成してもらった。このブレインストーミングアクティビティによって、我々はISPUの顧客プロセスを最高にするために短期で何をすべきか、長期で何をすべきかのアイデアを得ることが出来たのである。
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これは、活用方法のあくまで一例ですが、これだとかなり簡単に実施できそうですし、効果も高そうなので、皆さまも取り組みやすいのではないでしょうか。


提案8:プロトタイピングを行う

提案7で紹介したようにカスタマージャーニーマップから今後のアクションプランを生み出すことが出来ます。しかしながら、そのアクションプランを実行すると本当に顧客プロセスを最高にすることが出来るのでしょうか。実際に実行に移す前に検証する必要があります。そこで有効なのが、IDEOが説くプロトタイピングです。プロトタイピングによって新しい顧客プロセスのシミュレーションを行い、その評価を顧客から得て、このまま進めるべきか、更なる改善ポイントはないのかを探る・・・カスタマージャーニーマップの作成プロジェクトにおいては、最初から、プロトタイピングの実施までを計画をして進めるのがよいのではないでしょうか。




以上、今回はカスタマージャーニーマップについて書かせていただきました。すでに数多くの作成プロジェクトにかかわっている方にとっては、ご存知のことばかりだったかもしれませんが何か一つでも新しい発見があったなら幸いです。また、これまでにカスタマージャーニーマップ作成プロジェクトにかかわったことのない方には、何となくでもカスタマージャーニーマップについてのイメージをつかんでいただけて、次回の定性調査で利用を検討していただけたのなら幸いです。