あけまして「モバイルリサーチ元年」おめでとうございます

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皆さんは今年のリサーチ業界にどんなことが起きると思いますか?

私は、希望や期待を込めて、今年は我が国におけるモバイルリサーチ元年になると考えています。もちろん、これまでも様々な会社様が様々な形でモバイルリサーチにチャレンジしています。ただし我が国のリサーチ業界を大きく変えるまでには至っていないのが現状ではないでしょうか。しかしながら、今年は、これまでの各社様のモバイルリサーチの取り組みが、一気に花開き、数年後に振り返ったときに我が国のリサーチ業界が大きく変わりはじめた最初の年だったと・・・いうようになるのではないか、またなって欲しいと考えています。それはなぜか・・・本年最初の記事はモバイルリサーチへの期待と可能性について書かせていただきます。

モバイルリサーチ現状のおさらい

 まずは、モバイルリサーチの現状のおさらいです。ご覧になった方も多いかと思いますが、最新のGRIT(GREENBOOK RESEARCH INDUSTRY TRENDS REPORT・・・世界のリサーチサプライヤー/ユーザーへのアンケート調査結果)の結果を以下に紹介させていただきます。

<新しいリサーチ手法、過去2年半(2013Q1-2 ⇒ 2015Q3-4)利用状況の変化>
※ 以下の順番は2015年Q3-4で利用率でソートしています。

1. Mobile Surveys(モバイルサーベイ) : 42%  ⇒ 68%

2. Online Communities (オンラインコミュニティ<MROC>): 45% ⇒ 50%

3. Social Media Analytics (ソーシャルメディア分析) : 36% ⇒ 43%

4. Text Analytics (テキストアナリティクス):  32% ⇒ 38%

5. Big Data Analytics (ビッグデータ分析):  31% ⇒ 34%

6. Mobile Qualitative (モバイル定性): 24% ⇒ 34%

7. Webcam-Based Interviews(Webカメラを使ったインタビュー):  26% ⇒ 33%

8. Mobile Ethnography(モバイルエスノグラフィ):  20% ⇒ 31%

9. Eye Tracking(アイトラッキング):  22% ⇒ 28%

10. Micro-surveys(マイクロサーベイ):  19% ⇒ 25%

11. Behavioral Economics Models(行動経済学モデリング) :  N/A ⇒ 21%

12. Research Gamification(ゲーミフィケーション):  15% ⇒ 20%

13. Facial analysis (顔表情分析): 9% ⇒ 18%

14. Prediction Markets (予測マーケット) : 17%⇒ 17%

15. Neuromarketing (ニューロマーケティング) : 9% ⇒ 15%


最新の結果では、モバイルサーベイがトップになり、モバイル定性が6番目に、モバイルエスノグラフィが8番目にランクされています。我が国でもお馴染みのリサーチ業界の論客Ray Pointer氏によるとモバイルサーベイはすでに「メインストリームな手法」と評され、モバイルを使った定性調査(Mobile Qualitative/Mobile Ethnography)は「広範囲の興味を集めている手法」であると評されています。

http://www.greenbookblog.org/2015/11/19/the-top-20-emerging-methods-in-market-research-for-2015-a-grit-sneak-peek/

なお、このGRITはグローバル(欧米中心)で実施されている調査で、我が国の状況は殆ど反映されていません。では、日本におけるモバイルリサーチの状況はどうかというと、このような調査結果はないので、実情が見えないのが正直なところですが、そんな中でマクロミルさんが、昨年発表された自主調査の結果はかなり興味深いものでした。マクロミルさんのネットリサーチの回答の約35%はモバイル端末からのものだということです(スマートフォン30.9%、タブレット端末4.8%)。

Ray Pointer氏はGreenBook内の「Ray Poynter’s Predictions for 2016」という記事の中で、2016年のリサーチ業界に起こることの予想の一つとしてモバイルリサーチの更なる普及を上げ、以下のようにコメントしています。

http://www.greenbookblog.org/2015/12/18/ray-poynters-predictions-for-2016/

「2016年には、ロケーションベースリサーチ、ソーシャルリスニング、そして特にモバイルリサーチの発展を予測している。オンラインサーベイ(ネットリサーチ)の回答の50%はモバイル(スマホ、タブレット)からになるものと思われる。(モバイルで撮影された)画像や動画を処理するツールが登場してくるであろうし、それはリサーチのオートメーションにつながり、インパクトを与えるであろう。スマートフォンは、現在、そして近未来のツールである。もし、リサーチサプライヤーが現在行っていることが、今後スマートフォンで行えないとしたら、それは絶望的なことである。」

今更言うまでもないことなのかもしれませんが、モバイルは、グローバル的にも、我が国においても、現在のリサーチ業界において無視出来ない存在であることは間違いありません。

なぜ今、モバイルリサーチなのか

「モバイルリサーチのアドバンテージは明確でリアルタイムで真実の瞬間を理解することが可能だということです。対象者が、家にいたら、コンピューターがポケットの中にあるということです。そのコンピューターは単に質問に回答するだけではない様々なことに使うことが出来ます。我々はエスノグラフィでリッチな情報が得られます。我々は消費者に近づくことができる。冷蔵庫を写真撮影してもらったり、調理シーンを撮影してもらったりして、我々の商品がどのように利用されているかが理解することが出来ます。ビデオ撮影によって、彼らがどのような家に住んでいて、どのような家族がいるのかを理解することもできる。音声の録音で瞬時にオープンエンドの回答を得ることも出来ます。それは、タイプされた文字ではわからない、対象者の溜息までを聴くことが出来るものです。」

  Andy Dybvig, General Milles, The Global Manager for Mobile Research

最初にクライアントサイドでモバイルリサーチにとても熱心に取り組んでいる米国ゼネラルミルズ社のリサーチマネジャーの言葉を紹介させていただきました。この言葉をお読みいただければ、なぜ今モバイルリサーチに注目すべきなのかがよくわかると思いますが、補足として以下にモバイルリサーチのアドバンテージについて紹介させていただきます。皆さんご存知のことばかりかとは思いますが、再確認いただければと思います。

<モバイルを使った定量調査、Mobile Surveyのアドバンテージ>

  米国qSample社の記事「Advantages and Disadvantages of Mobile Surveys」より抜粋

※記事は現在削除されています
 

  • モバイルサーベイは若者、社会人といったスマートフォンを頻繁に利用する人にアクセスするためのベストな手段である。
  • モバイルサーベイはターゲットとなる対象者に対してアンケートアプリのダウンロードリンクやスマホ専用に作成された回答画面リンクが貼られたメールを送るだけで簡単に実施することが出来る。
  • モバイルサーベイはスマートフォンのGPS機能を使って、その回答がロボットプログラムによるものではなく、本当にターゲットとしている本人からの回答であることを判断することが出来る(これは知りませんでした・・・)。
  • モバイルサーベイは回答者が写真を送ったり、音声の録音データを送ったり、日記を記入したりと、従来のオンライン調査よりも、より柔軟なサーベイが出来る。これは、特にサーベイが対象者にあるタスクを完了してもらうといったことを求めるときに有効である。
  • リサーチャーはモバイルサーベイで、リアルタイムの、またローカルなインプットを得ることが出来る。リサーチ実施者は、回答者がパソコンにアクセスするのを待つ必要はない。サーベイは対象者が例えば電車に乗っているとき、歩いているときや、レストランで食事を待っているときといった時にでも完了される。


<モバイルを使った定性調査、Mobile Qualitative/Mobile Ethnographyのアドバンテージ>

  Edward Appletonの記事「Mobile Qualitative ? How Does It Fit In The Research Toolkit?」より抜粋

http://www.greenbookblog.org/2014/04/03/mobile-qualitative-how-does-it-fit-in-the-research-toolkit/
 

  • モバイル定性調査は、何かが起こったまさにその瞬間の写真やリアクションやその経験に対する言葉を得ることが出来る。意味のある瞬間はしばしばリサーチャーがその場にいないときに起こる。モバイルはその壁を打ち破ることができる。
  • モバイル定性調査は、定量調査やグループインタビューで捉えることができない「”aha”(なるほど!)」の瞬間をとらえ、描き出すことが出来る。
  • モバイル定性調査は、他のリサーチ手法の補完的な役割を果たすことが出来る。従来の会場における定性調査では出来ないような、その場での経験を理解することによるインサイトを得るために効果を発揮する。
  • モバイル定性調査はリサーチャーを普段行くことが出来ないエリア、例えばスーパーの陳列棚の前であったり、自宅のキッチンであったり、パブやレストランであったりに連れていくことが出来る。 従来ではこれらの場所での経験を理解するためには対象者の記憶に頼っていたが、リサーチャーはその記憶の曖昧さや間違いから解放される。
  • モバイル定性調査は、対象者の回答に社会的要素やコンテキストの要素を加えることが出来る。対象者から、その場所、オケージョン、雰囲気、周りにいる人といった要因を考慮した回答を得ることが出来る。
  • モバイル定性調査はクイックで、信頼でき、対費用効果が高いリサーチが出来る。リサーチャーにとっての大きな武器である。

マーケティングリサーチのイノベーションについて考える

さて、僭越ながら、ここで私がモバイルリサーチになぜ注目しているのかを少し紹介させてください。もちろんモバイルリサーチには上記で紹介させていただいたような様々なアドバンテージや可能性を感じるからですが、もうひとつ補足させていただきたいことがあります。それは、モバイルというツールが今後ハイブリッドリサーチ(定量リサーチと定性リサーチを組み合わせたリサーチ)を促進する可能性が大きいということです。

少し話は横道にそれますがマーケティングリサーチの「イノベーション」について考えてみました。皆さんは「イノベーション」という言葉が大好きで、よく使うと思います。このイノベーションとはいったいどういうことなのでしょう。今、日本語では「技術革新」みたいな言葉に置き換えられることが多いですが、イノベーションという概念を最初に提唱した経済学者シュンペーターは、この概念について、初めは「新結合」という言葉を使っていたそうです。これが意味するのは、イノベーションは、「技術革新」である必要がないだけでなく、新しいものである必要もないということです。すでに存在し、ひろく知られている複数のモノやサービス、あるいはアイデアを結合させて新しいものを生み出せば、それもイノベーションになるということです。

よくイノベーションの代表的な製品と言われるソニーのウォークマン(少し古いですが) 。ウォークマンは、何か新しい技術革新によって生まれたのではなく、当時すでにあったカセットテープの再生機とステレオイヤホンを組み合わせ、小型化した商品です。それでも、人々の音楽を聴くスタイルを変化させるというイノベーションを起こしました。また、現在のイノベーションといえばだれもが思い浮かべる思い浮かぶ製品であるiPhone。もちろん指で操作するという画期的な技術が採用されたことも事実ですが、その革新性の本質は「携帯電話」と「インターネットができる小型PC」と「音楽プレーヤー(iPod)」という従来の技術を組み合わせたことにあるのではないでしょうか。

イノベーションとはどういうことか、どのように起こるのかということを考えると、マーケティングリサーチに今後起こるであろうイノベーションは決して新しい技術革新によって「のみ」もたらされるのではないと考えられます。もちろん、技術革新によってもたらされるものもあるでしょうが、今ある技術の「新結合」によってもたらされることも十分にありえるのではないでしょうか。

ただし、結合されたものが、結合されることによって、お互いの価値を増幅させ1+1=2ではなく1+1=3や4になるようなものでなければイノベーションにはなりません。では、我々が現在提供しているリサーチサービスで結合して価値が出るものは何かと考えると・・・私が最初に頭に浮かぶのは「定量調査」と「定性調査」を結合させることです。「定量調査」と「定性調査」の結合、いわゆる「ハイブリッドリサーチ」が今後のマーケティングリサーチのイノベーションの一つになると考えているのですが、皆さんはどう思いますか。

ハイブリットリサーチを促進するモバイルリサーチ

「近年、我々は、クライアントからのインサイトの要求求められている。そして例え定量調査であっても、より消費者の声を捉える必要性に迫られている。」

「私は、ハイブリッド調査という言葉を聴くと、より深い結果を得ることが出来る多面的なコミュニケーションの組み合わせによるデータ収集だと考える。」

「定量と定性のコンビネーションは、1+1=2以上のものが生まれるパワーがある」

「ハイブリッド調査は、定量調査に命を与える。大規模な定量調査を実施した時に、2000ものオープンエンドの回答をもらっても処理しきれないし必要もない。欲しいのは深さだ。」

※米国iModerate Research Technologies社によるリサーチャーへのアンケートのOA結果を抜粋


もちろん、これまでにもハイブリッドリサーチという考えはありました(というか現在進行形ですが)。ネットリサーチの前にグループインタビューを行い仮説構築をする、ネットリサーチのあとにデプスインタビューを行い定量の結果を深堀するといったように定量調査と定性調査を組み合わせることは過去も今も普通に行われていますし、その価値はここで言うまでもなく皆さまよくご存じだと思います。とはいえ、このようなハイブリッドリサーチが現在頻繁に行われているかというとそれほどでもないというのが事実でしょう。それは今行われているハイブリッドリサーチの時間と費用が1+1=2になっているからではないでしょうか。

今、リサーチ会社に100万円の定量ネットリサーチと100万円の定性グループインタビューを実施しようとして見積もりを依頼すると、たぶんその費用は単純な足し算で200万円の見積もりが出てくることでしょう。また、両方を実施するための期間も単純な足し算・・・例えばネットリサーチに2週間、グルインに2週間必要であれば、両方実施するには4週間かかりますというのが一般的なリサーチ会社の対応ではないでしょうか。これは、オンラインパネルを使って実施されるネットリサーチと、グルインという会場を使って対象者に来てもらうという方法で実施される全く異なる方法を二つ実施するので、またリサーチ会社側も定量調査の運営部門と定性調査の運営部門がまったく分かれていたりしているので、仕方のないことです。しかしながら、今後、これが、100万円の価値のある定量調査と100万円の価値のある定性調査を組み合わせることによって、その費用が120万円くらいで実施可能で、期間も4週間必要だったのが2.5週間程度で実施できるようになれば、今後のリサーチサービスは大きく変わるのではないでしょうか。



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Q: 従来型マーケティングリサーチの新しい手法へのシフトが継続していく中で定量調査は今後定性/定量のハイブリッドになっていくのか、もしくは全く新しいものになっていくのか、どう思いますか。

A:
Simon: 定量調査という定義は今後変わっていき、今後は定性/定量ハイブリッド、ビッグデータ、ソーシャルメディア分析という意味に変化していくと思います。10年後には、これらの区別が無くなっていき、一般的な手法となっているのではないでしょうか。

Lenny: Simonが言った通り。現在の定量、定性といった二分法は、様々な手法による全く新しいパ
ラダイムにシフトしていくと思います。
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  Predictions for 2013 Part 2: Leslie Townsend, Simon Chadwick & Lenny Murphyより


これは、2012年の年末に2013年のリサーチ業界を占うというGreenBookにあった記事の一節です。2013年度には、すでにこのような予想が出始めていましたが、2016年の今になっても、(少なくとも我が国のリサーチ業界は)この予想通りにはあまり進んでいないように思います。しかしながら、ここにきて、モバイル、およびモバイルリサーチがかなり普及してきました。このことにより、ハイブリッドリサーチへの方向性が一気に加速するのではないかと考えられます。なぜなら、従来、全く別リソースで実施されてきた定量リサーチと定性リサーチが、モバイルというツールひとつで完結してしまう土壌が出来て来たからです。スマートフォンを使えばリサーチャーはオフィスにいながら対象者の自宅に行く事が出来ます。スマートフォン上にインタビュールームを作る事も出来ます。定量調査(ネットリサーチ)をスマートフォンで実施、その回答者からスマートフォンで写真や動画を取得するエスノグラフィを実施、更にはスマートフォン上で、その回答者にオンラインインタビューを実施・・・このようなハイブリッドリサーチを実施することが可能になってきたのです。そして、定量+定性を組み合わせてリサーチの価値を1+1=3や4にしつつ、費用は1+1=1.2、期間も1+1=1.2で済ませることが実現可能になりつつあります。

すでにモバイルは(定量)ネットリサーチにおいて無視できないツールになりつつあります。同時に、定性調査でのモバイル活用の可能性も着実に広がりつつあります。であれば、モバイルを使って定量と定性を組み合わせが増えてくるということは自然な流れではないでしょうか。そして、今年は、その流れの加速が始まる元年になるのではないかと思いますが、皆さまはどう思われますか。

弊社も微力ながら今年はこのハイブリッドリサーチへの動きを加速すべく、リサーチ業界のイノベーションに貢献していきたいと考えております。本年もよろしくお願いいたします。