警察のインタビューテクニック<コグニティブインタビュー>を定性調査に取り入れる

現在のマーケティングリサーチ手法は、定量調査、定性調査問わず、そのほとんどが人の記憶に頼っています。

「あなたがこれまでに買ったことのある銘柄を、以下の中からお選びください」

この日常茶飯事にように行われている質問に対して、対象者は過去の記憶を呼び起こし回答を行っているわけですが、この記憶再生に多々間違いが起こっているかもしれないと聞くとあなたはどう思いますか?

記憶の間違いが問題になるのはマーケティングリサーチだけではありません。警察がある事件の犯人を逮捕したとします。逮捕の決め手は、目撃者のその犯人を現場で見たという証言です。しかしながら、もしもその目撃者の証言が誤った記憶から生まれたものであれば・・・。

警察において目撃者や被害者の証言を引き出すインタビューは非常に重要なものです。そのインタビューでは目撃者や犠牲者の記憶から犯人逮捕につながる詳細な情報を出来るだけ多く引き出す必要があります。また引き出される情報は、決して誤ったものであってはなりません。正確な事実のみを引き出す必要があります。警察においては、このようなインタビューニーズからCognitive Interview(コグニティブインタビュー/認知面接法)という手法が開発され発展してきました。

このコグニティブインタビューというインタビュー手法、記憶に多く頼る我がマーケティングインタビューの世界にも参考になる点が多いのではないかと思います。そこで今回は、コグニティブインタビューの定性インタビューへの活用について考えてみました。

人の記憶はあてにならない・・・虚偽記憶の存在

アメリカのある研究で、後ほどDNA鑑定で無罪が証明されて冤罪となった300の事件が調べられました。すると、その300の冤罪の4分の3は、目撃者の誤った証言が原因だったそうです。しかしながら目撃者は、目撃証言をする際にウソをつこうと思っていたのではありません。自分が証言したことは、自分が実際に見たと思い込んでおり、事実と異なることを間違って記憶していたのです。

False Memory (虚偽記憶/過誤記憶)という言葉があります。過去のエピソード記憶を語る人が「嘘をつく」といった悪意がなく、「誤った記憶」を述べてしまうことです。この虚偽記憶の存在についてはエリザベス・ロスタフ教授の「ショッピング・モールの迷子記憶実験」が有名です。

24人の被験者に対して、その家族から子供時代のエピソードを聞き取りました。その聞き取りから3つのエピソード選び、そこに「ショッピングセンターで迷子になった」という実際にはなかった偽りのエピソードを加えて1冊の小冊子を作りました。そして、その小冊子を見てもらい被験者に覚えていないエピソードを選んでもらうと、4分の1の被験者がショッピングセンターで迷子になったという偽りのエピソードを覚えていると答えたのです。しかも、その供述があまりに詳細だったそうです。親が、「あの時お前を見つけてくれたのはポロシャツを着たおじさんだったよね」と聞くと「いや、そのおじさんは黄色いTシャツを着ていたよ」と出来事の細部を創作して答えたというのです。

※ エリザベス・ロスタフ教授はTEDで虚偽記憶についてわかりやすく説明してくれています。ご興味のある方はぜひごらんください。(日本語訳もあります)

この虚偽記憶が起こる時に脳に何が起こっているのでしょうか。例えば以下の単語を記憶してみてください。そして、この単語を隠して30秒後に以下の質問に答えてみてください。

  あめ   すっぱい  まんじゅう

   はごたえ   もなか  おいしい

はちみつ  ようかん  

  にがい   きんとん  うまい

<質問1>「あおい」という単語はありましたか?

<質問2>「かまくら」という単語はありましたか?

<質問3>「あまい」という単語はありましたか?

いかがでしたでしょうか。質問1と2を間違える人はあまりいないそうですが、質問3「あまい」に関しては約8割があったと答えるそうです。これは脳が実際に見たものと、そこから連想されるものとの区別が出来なくなってしまうからだそうです。

目撃証言においても、事件の後で、何度もそれを証言させられたり、「○○な感じだったんじゃないですか?」「○○だったのでしょう?」とか誘導尋問されていると、そのイメージと本当に見て体験したイメージが混乱してしまって、記憶が書き換えられてしまうということが起こるのです。

なお、この虚偽記憶、使い方によってはマーケティングにも活用ができそうです。広告によって、消費者の脳に虚偽記憶を植え付けることが出来れば、その製品の売り上げアップにつなげることが出来てしまいます。SF映画の世界のように記憶を操作しているようで、ちょっと怖いですが・・・。

 <広告で生まれる「ニセの記憶」:研究結果 - WIRED.JPより>

以上、虚偽記憶について紹介させていただきました。もし自分が、このような誤った記憶(目撃証言)に基づいて逮捕されたら、たまったものではないですね。警察も虚偽記憶に基づく冤罪をどれだけ防げるかというのは重要な課題です。そんな中で目撃証言の信ぴょう性/有効性を確保するために様々なインタビュー技術が研究されてきました。その中で生まれたインタビュー手法のひとつがコグニティブインタビュー(認知面接法)です。 

コグニティブインタビュー(認知面接法)とは

コグニティブインタビュー(認知面接法) は1980年代後半に米国の心理学者Fisher, R. P.とGeiselman, R. E.により開発された、警察における目撃者や被害者に対する認知理論に基づいたインタビュー手法です。

Wikipediaでは、このコグニティブインタビューを以下のように紹介しています。

コグニティブインタビュー/Cognitive interview(CI)は、目撃者や被害者に対して事件現場で起きたいたことをインタビューするためのインタビュー手法である。4つの記憶再生テクニックを使って、現場で起こっていたことをすべて取り出そうとする。CIは、従来の警察でのインタビューで起こりがちであった、誤認や不正確さを最小限にすることに役立つ。

なお、この4つの記憶再生テクニックとは

  1. Mental Reinstatement of Environmental and Personal Contexts:文脈復元(視覚、聴覚、嗅覚、触覚的な情報を含む、出来事の文脈を再現してもらう)
  2. In-depth Reporting:悉皆報告(些細なことでもすべて報告する)
  3. Describing the TBR (to-be-remembered )Event in Several Orders : 逆向検索(出来事を逆順で思い出す)
  4. Reporting the TBR Event from Different Perspectives:複数視点からの想起(犯人からは何が見えたか等を思い出す)

です。この具体的なテクニックに関して次のセクションで紹介させていただきます。

コグニティブインタビューの実際

ここからは、コグニティブインタビューの具体的な進め方についての紹介です。

英国ポーツマス大学Becky Milne教授による「The Enhanced Cognitive Interview A step-by-step guide」にコグニティブインタビューの進め方が詳しく記載されています。この文章61ページもあるので全部紹介するわけにはいきませんが、ポイントとなる部分を以下に紹介させていただきます。

<原文は以下でダウンロードできます>

https://www.how2ask.nl/wp-content/uploads/downloads/2011/09/Guide-cognitive-interviewing.doc

コグニティブインタビュー は以下の7つのフェーズから構成される。

フェーズ1:挨拶とラポール形成

フェーズ2:インタビュー目的の説明

フェーズ3:フリーレポート(自由な再生と証言)の促進

フェーズ4:質問をする

フェーズ5:多様で詳細な記憶の取り出し

フェーズ6:捜査上重要な質問

フェーズ7:サマリー

フェーズ8:クロージング

以下に各フェーズのポイントを記す。

<<<フェーズ1:挨拶とラポール形成>>>

  • 実際のインタビューを始める前に、インタビュアー(あなた)はインタビュイー(目撃者/被害者)とのコミュニケーションを成功させるための基礎を築くために信頼関係を構築する必要がある。あなたは、相手にとっては赤の他人なのである。なので、相手はあなたにインタビューされることを不安に感じているかもしれない。相手の不安を取り除くためには、まずあなたが(インタビュアー)が自己紹介をして、また相手の名前を呼んで親密度を高めることが重要である。

    (例)
    「あなたは●●さんですね。私の名前は・・・」
     
  •  目撃者が不安を感じていると思い出せることも思い出せなくなってしまう。インタビューの際には目撃者の不安を最大限取り除くことが重要である。なぜなら、不安は目撃者が記憶を再生するために必要な最大限のパワーをそいでしまうからである。
  • あまりにもきっちりとしたインタビュアーの服装(制服)は、目撃者を緊張させてしまうので避けるべきである。
  • 目撃者とのラポールを築くには、単なる機械的な質問を続けるのは避けるべきである。「職業は?」「お子様はいる?」・・・このような質問を繰り返すと、あなたと目撃者の関係は、質問者と被質問者という関係になってしまい親密さを築くことが出来ない。
  • 最初にあなたが自分自身のことを語ることも、時には有効である。インタビュアーがオープンな態度であればあるほど目撃者もオープンになる。
  • 目撃者は様々なレベルの言葉を使う。あなたは、目撃者と言葉のレベルを合わせることが重要である。
  • ラポールを形成する基本は、共感である。インタビュアーは目撃者に共感を示すことが最も重要である。

<<<フェーズ2:インタビュー目的の説明>>>

  • 最初にあなたが目撃者に、何のためにインタビューするのか、どのようにインタビューが進むのか、何が期待されているのかを明確に伝えることが重要である。人は予期できないことに対して恐怖を感じる。最初にこの恐怖を出来るだけ取り除くことによって最大の記憶の再生が期待できる。
  • 最初にインタビューの目的を理解してもらう必要がある。

    (例)
    「あなたは、今なぜここにいるのか、インタビューされようとしているのかわかりますか?」

    このような質問は最初のきっかけとして有効である。
  • 最初に、これから始まるインタビューに対しての疑問や不安がないかを質問をすることも重要である

    (例)
    「今の時点で何か不安に思っていたり、聞いておきたいことはありますか」
  • 詳細な最大レベルの記憶の再生は目撃者の「集中力」が非常に重要である。この集中力を削がない環境を整えることが重要である。同時に、目撃者への協力を依頼する言葉も投げかけるべきである。

    (例)
    「あなたが見たことを思い出すのはとても難しいことだと思います。そして、それは大変なことはだと理解しているので、とても申し訳ないのですが、今日は出来るだけ頑張って思い出してもらいたいです。」
  • あなたは目撃者が自発的にすべてのことを思い出して話してくれることを期待してはいけない。あなたがそれを期待していることを目撃者に明確に伝えなければ、決して最大限の記憶を再生してはくれないであろう。

    (例)
    「あなたは今朝の事件の目撃者です。あなたが見たことをすべて話してください。あなたが重要だと思わないこと、このことは事件と関係ないと思うようなことも話してもらいたいです。また部分的にしか思い出せないことは、一部だけでもよいです。時間はたっぷりあります。あなたが思い出せることをあなたのペースでよいので話してください」

    注:これは4つのテクニックのひとつであるIn-depth Reporting:悉皆報告の例です。

    目撃者は「このことは警察は、すでに知っているだろうから話さなくてもよいだろう」と勝手に判断してしまいがちである。このような目撃者の勝手な判断を避けるために上記のような依頼を最初にすべきである。
  • テレビドラマの影響からか、目撃者はあなた(警察)から次々に質問をされて、それに答えるということを期待されていると考えがちであるが、コグニティブインタビューはそのようなスタイルではない。あなたの役割は質問者ではなく、「ファシリテーター」である。あなたの役割は、質問することではなく目撃者の記憶の再生を手助けすることである。
  • 目撃者に詳細を語ってもらうためには、あなたは目撃者にそのように伝えなければならない。例えば次のように伝えるのは有効である。

    (例)
    「事件が起こった時に私はその銀行にはいませんでした。だから何が起こっていたのか、どのような状況だったのか全くわかりません。でも、あなたはそのことのすべて知っています。だからあなたが知っていることのすべてを私に教えてもらいたいのです。」

<<<フェーズ3:フリーレポート(自由な再生と証言)の促進>>>

  • 様々な研究においてコンテクストが記憶の再生のための最も強力なツールであることが証明されている。目撃者を、事件が起こった場所に連れていくと警察所内のインタビューで思い出されなかったことを思い出すことが出来ることが多々ある。目撃者の記憶再生のためにはコンテクストを活用することがとても重要である。
  • ただし、事件現場に目撃者を連れていくと、目撃者が事件の被害者であった場合それがトラウマを引き起こしたり混乱させたりすることもあるので、目撃者を現場に連れていくべきかどうかは慎重に判断すべきである。もし現場に連れていくことが出来ない場合は、インタビュールームで使える以下のようなテクニックがある。

    (例)
    「あなたが事件を目撃した現場に戻ったと想像してください。あなたは、その現場に何か忘れ物をして、それを探すためにその場所を最後に訪れた時のことを一生懸命の思い出す時のように現場のことを思い出してください。私はあなたに心の中にその場所の絵を描いてもらいたいのです。あなたは、その場所のどこにいましたか?その時にどのような気分でしたか?どのような物音がしていましたか?どのようなニオイを感じていましたか?その場にいた人のすべてを、そして、その場所に置いてあったもののすべてを心の中の絵に描いてください。すべての絵が描けたら、そこに描かれているもののすべてを私に伝えてください。」

    注:これは4つのテクニックのひとつであるMental Reinstatement of Environmental and Personal Contexts:文脈復元の例です。
  • 目撃者が思い出そうとしているイベント(事件の現場)のコンテクストを再構築することが出来れば、次にすべきは、目撃者に出来るだけ自由にその様子を語ってもらうことである。この時点で重要なことは、出来るだけ、目撃者の再生(語り)を邪魔しないことである。なので無用な質問をしてはいけない。一方でエコープロービングテクニックを使った「アクティブリスニング」は積極的に活用したい。

    (例)
    目撃者「彼は拳銃を持っていた。大きな拳銃です」
    あなた「大きな拳銃?」
  • エコープロービングと共に使うべき「アクティブリスニング」テクニックはサマライジング(目撃者が話したことを要約して伝え返すこと)とクワイアリー(「今あなたが言ったことは○○という理解で間違いないですか」と伝え返す)である。サマライジングは目撃者にあなたのことを正しく理解していますよということを伝えることが出来るとともに、目撃者の証言を自分の記憶に定着させる効果がある。クワイアリーも、目撃者にあなたの話を正しく理解していますよというメッセージを伝え、目撃者に安心感を与えることができる。
  • 目撃者の発言に対してはうなずきながら「うんうん/なるほど/へー」といった相槌を忘れずに、常に興味と感心を示すべきである。ただし、それは「よいですね/正しいですね」といったフィードバックであってはいけない。
  • 常に、目撃者が話してくれたことに対して感謝する姿勢を忘れないようにすべきである。

<<<フェーズ4:質問をする>>>

  • フェーズ4ではフェーズ3で行った目撃者に「自由な再生と証言」に基づき質問を行い、目撃者の証言を明確にしたり広げたりする。
  • 質問は基本的にはオープンエンド形式で行われるべきである。オープンエンド形式に対する回答のみが証拠となり得る。

    (例)
    「あなたは犯人は男性だと言いました。どのような男性だったかを、もう少し詳しく話してもらえますか。」
  • 目撃者はあなたの態度から、あなたがどのような答えを期待しているかを想像してそのように答えてしまう可能性がある。あなたがもし、クローズエンドの質問を繰り返すと、次に何を質問されるかを想像してしまう。その結果、あなたがインタビューの後半においてオープンエンドによる詳細な答えを期待していても、短い回答しか得られなくなってしまう可能性がある。出来るだけオープンエンドの質問をすべきで、クローズエンドの質問は避けるべきである。
  • 「なぜ」という質問は避けるべきである。「犯人はなぜそうしたの?」そのような質問をしても、その答えは目撃者の想像でしかない。また目撃者=被害者の場合、その人は自責の念を感じていることも多い、そのような人に「なぜ」を聞くと、自責の念を強めて記憶の再生を妨げることがある。
  • 質問は出来るだけ簡潔にシンプルにすべきである。また一度に複数のことを聞いてはならない。以下のような質問は避けるべきである。

    (例)
    「共犯者がお金を盗んでいるときに、その拳銃を持った男は何をしていたのですか?」
    「あなたは彼を見ましたか?」「彼は立っていましたか?」「彼はコートを着ていた?」
  • 否定的な質問は避けるべきである。否定的な質問は否定的な回答を誘導する。以下のような質問も避けるべきである。

    (例)
    「あなたは犯人の髪の色を覚えていないのですよね」
  • あなたが専門用語を使うと、目撃者はあなたから疎外されている感情を持つようになる。更には知らないという恥ずかしさを避けるために肯定的な反応しかしないようになる可能性がある。
  •  不適切な選択肢しかない質問をすると、不適切な回答しか得られない。

    (例)
    あなた「あなたが見た犯人は白人ですか。黒人ですか。ヒスパニックですか。」
    目撃者「ヒスパニックだったような気がします」(でも本当はアジア系かもしれないけど・・・)
  • 誘導的な質問は避けるべきである。もし、現場検証であなたが犯人が、青いフォードエスコートで逃げたことを知っていても目撃者がそのことを証言していなければ

    「犯人が乗っていたのは青いフォードエスコートだった?」

    と聞いてはならない。
  • 目撃者の記憶の保有の仕方は様々である。なので、よい質問プロセスはあらかじめ決まった質問を、決まった順番で聞くことではなく、目撃者の記憶の仕方によって質問内容や順番はアジャストされなければならない。また、質問は目撃者の記憶の再生を促進するような流れでなければならない。例えば、あなたが目撃者に犯人の姿を思い出すようにお願いしたら、次の質問は「その犯人の服装を教えてください」という質問が続くべきで、急に「ところで犯人の乗っていたのはどんな車でした」といった質問を挟んではいけない。これは目撃者の記憶の再生を阻害する大きな要因となる。

<<<フェーズ5:多様で詳細な記憶の取り出し>>>

  • 目撃者が思い出そうすればするほど、思い出すことは増える。だから目撃者に思い出すための動機づけをすることが大切である。ふつうの目撃者は、ひとつのことを思い出すとそれで思い出すことをやめてしまう。
  • 思い出すことを促進するテクニックとしてReverse Order Recallがある。出来事を起こった順番に思い出すのではなく、逆の順番に思い出してもらうのである。

    (例)
    「これから、あなたが思い出すことの手助けをします。あなたにお願いしたいことは思い出す順番を逆にしてもらいたいのです。それほど難しいことではありません。まずは、その出来事で最後に起こったことを教えてください。・・・その直前に起こったことは?・・・では、その前に起こったことは?」(目撃者が見た最初の場面にたどり着くまでこれを繰り返す)

    注:これは4つのテクニックのひとつであるDescribing the TBR (to-be-remembered )Event in Several Orders:  逆向検索の例です。
  • 記憶というのは構造的で、人がある出来事を思い出すように頼まれると、その思い出されることは事前の知識や期待されてそうなことといった様々な要因に影響される。ある出来事を自由に思い出してほしいと頼まれると、ほとんどの人はその出来事をリアルタイムであるかのように、もしくは起こった出来事の順番に時系列に思い出そうとする。しかしながら、それだと時系列に沿わない情報が思い出されないまま抜け落ちてしまうケースが多い。Reverse Order Recallを活用すると、記憶の再生に新たな視点を取り入れることが出来、時系列に思い出す際に得られなかった新たな情報を思い出すことが出来る。ある研究では、ある出来事を時系列に2回思い出すように依頼された目撃者と、時系列と逆時系列の2回思いだすように依頼された目撃者では、後者が約2倍の情報を思い出すことが出来るという結果が出ている。
  • 人はある出来事を自分の視点(Psychological perspective)で語る傾向がある。コグニティブインタビューでは他人の視点でその出来事を語ってもらうというテクニックがある。

    (例)「では、あなたの記憶を助けるための別の手法を使います。その出来事は○○<例:犯人>からはどのように見えていたと思いますか。犯人が見ていたものを教えてください。」

    注:これは4つのテクニックのひとつであるReporting the TBR (to-be-remembered )Event from Different Perspectives:複数視点からの想起の例です。

    ただし、このテクニックを使う際に推測を挟まないように語ってもらうことは重要である。
  • 記憶を呼び起こすのをサポートする際のテクニック(Memory Jogs)も活用するのもよい。例えば人は他の人の名前を思い出すのが出来ないことが多い。そのような時・・・

    (例)
    「それはよくある名前だった?珍しい名前だった?」、「短い名前だった?長い名前だった?」、「名前の最初の文字は何だったでしょうかね。A・・・?B・・・?C・・・?・・・」

<<<フェーズ6:捜査上重要な質問>>>

<<<フェーズ7:サマリー>>>

<<<フェーズ8:クロージング>>>

この3フェーズは一般的な事項なので省略します。

定性インタビュー調査にコグニティブインタビューを活用する

以上、コグニティブインタビューの考え方と、方法論について紹介させていただきましたがいかがでしたでしょうか。このコグニティブインタビューは最初に紹介したように警察が目撃者から正確かつ詳細な記憶を引き出すために研究・開発されている手法ですが、同じく人(対象者)の記憶に大きく頼るマーケティングリサーチのインタビューにも大いに学ぶべき点があるのではないでしょうか。

今回、紹介させていただいた「The Enhanced Cognitive Interview A step-by-step guide」は、そのままデプスインタビューの教科書に使えそうなところも多々あるように思います。

例えばフェーズ1と2で紹介されているインタビューの導入や心構え的な部分。子細なことかもしれませんが、ここで紹介されているようなことがなおざりにされて進められているグルインやデプスインタビューをよく目にします。このような点に気をつけるだけでもっと対象者から良質な情報が引き出せるように思います。

また個人的に良いと思ったのは、Describing the TBR Event in Several Orders: 逆向検索です。前回の記事で書かせていただいたカスタマージャーニーマップ作成の際に、このテクニックは使えるのではないでしょうか。カスタマージャーニーマップ作成のためのインタビュー時には、購入時のジャーニー(認知~購入)までを時系列にインタビューしていくのが常ですが、インタビュー時には、対象者の記憶から抜け落ちてしまったり、よく覚えていなかったりする事項が多々あると思われます。これを逆向検索を使い、抜け落ちたものが再生することが出来れば作成するジャーニーマップはより信頼性が高く有益なものになることでしょう。

コンテクストを活用するMental Reinstatement of Environmental and Personal Contexts:文脈復元も大いに活用出来そうなテクニックだと思います。現在の多くの定性インタビューは、生活者(対象者)のコンテクストから切り離されたインタビュールームで実施されています。これは対象者の記憶再生に大きな支障をもたらしているのではないでしょうか。なので、弊社は自宅等で実施できるオンラインインタビューの有効性を主張しているのですが、どうしてもインタビュールームでインタビューを実施しなければいけない場合、この文脈復元を使うとより正確かつ詳細な情報を対象者から引き出すことが出来るのではないかと思いますがいかがでしょうか。

以上、今回は警察で実施されているコグニティブインタビューについて紹介させていただきました。グルインやデプスインタビューを実施していて、対象者が「それは昔のことだからよく覚えていないですね・・・」と言われてどうしようもなくなった時、もしかして対象者が語っていることが悪意のない創作ではないかと気になる時、そんな時はコグニティブインタビューのことを思い出してみてはいかがでしょうか。解決のヒントが得られるかもしれませんね。