ゼネラルミルズ : リサーチの80%はモ・バ・イ・ル

※この記事は最終更新日より5年以上経過しており内容が古くなっている可能性があります。

今回はスマートフォンを使った調査、モバイルリサーチについてです。

最近のスマートフォンの普及について今さらここで論じるつもりもありませんが、スマートフォンが、我々リサーチ業界においても大注目のツールであることは間違いありません。とはいえ、我が国において、スマートフォンを使った調査は、最近ようやく、本格的に取り組む企業が出始めてきた感じでしょうか。

もちろん、海外においても、モバイルリサーチは大注目の的です。4月に紹介させていただいたGRITレポート(リサーチサプライヤー/ユーザーへのアンケート調査結果)においては、Mobile Surveyは2番目、Mobile Qualitativeは6番目に、Mobile Ethnographyは10番目に、将来の利用意向が高い結果となっています。


+++What use of these techniques and approaches do you see ahead in your future?
あなたは、これらの手法それぞれの将来の利用についてどのように考えていますか

※ 以下の(  )内の数字は左から順番に、
+ In use「(将来)使う」、
+ Under consideration「検討している」、
+ No Interest to date「今は興味がない」、
+ Don’t ever expect to use「将来的にも使わないと思う」、
+ Not sure「わからない」

1. Online Communities「オンラインコミュニティ(MROC)」(45%、38%、9%、3%、4%)
2. Mobile Survey「携帯・スマホを使った(定量)調査」(42%、45%、9%、2%、3%)
3. Social Media Analytics「ソーシャルメディア分析」(36%、42%、12%、4%、5%)
4. Text Analytics「テキストマイニング」(32%、37%、15%、5%、11%)
5. Webcam-based Interviews「Webカメラを使った(テレビ電話)インタビュー」(26%、38%、23%、6%、6%)
6. Mobile Qualitative「モバイル(携帯・スマホ)を使った定性調査」(24%、41%、20%、6%、9%)
7. Visualization Analytics「ビジュアライゼーション分析」(23%、31%、14%、4%、28%)
8. Eye Tracking「アイトラッキング」(22%、21%、30%、19%、9%)
9. Apps based research「スマホのアプリを使った調査」(22%、45%、19%、4%、10%)
10. Mobile Ethnography「モバイルエスノグラフィ」(20%、40%、21%、7%、12%)

では、海外では(もちろん日本においても)モバイルリサーチにどのような期待が寄せられ、なぜそれほど注目されているのでしょうか。この答えを考えている時に、世界有数の食品会社であるGeneral Mills(ゼネラルミルズ)社が、2014年度までに同社のリサーチの80%をモバイルリサーチの切り替えることを目指しているという話を聞きました。調べてみるとGeneral Mills社は、リサーチユーザーとしては、モバイルリサーチの最先端を行っている企業のようです。そこで今回は、General Mills社のリサーチチームのメンバーが、Market Research in the Mobile Worldというカンファレンスで行ったプレゼンテーションを紹介させていただきながら、今後の我が国におけるモバイルリサーチについて考えてみたいと思います。

なお、以降で、General Millsの話をする前に、そもそもモバイルリサーチとは何だという議論をしておかなければならないのですが、とりあえず、今回はスマートフォンをデータ収集手段として使ったリサーチはすべてモバイルリサーチであるという前提で話させていただきます。上記、GRITにもある定量的なMobile Surveyや、定性的なMobile Qualitativeや、Mobile Ethnography等を全てひっくるめてモバイルリサーチであるとお考えください。

General Milles(ゼネラルミルズ)社

日本で売られているブランドは少ないので、あまり馴染みがない方も多いかもしれませんが、General Milles は米国ミネアポリスに本社がある世界有数の規模を誇る食品会社です。直近の年間売上高は17,774百万ドル(約1.8兆円!)、米国においては100以上のトップブランドを持つ超巨大企業です。

実はハーゲンダッツも同社のブランドだそうで、その他、Yoplait(ヨーグルト)、Cheerios(シリアル)、Green Giant(冷凍野菜)、Old El Paso(メキシカンフード)等のブランドが有名です。

これだけ巨大な企業なので、年間に実施するリサーチの数も半端ではありません・・・といって、具体的な数を知っているわけではないのですが、以下に紹介するプレゼンでは確か年間数千規模だと言っていたように思います。もちろん社内には、大きなリサーチチーム(いわゆる調査部)があり、各ブランドと連携しながら、General Millsのリサーチのすべてを取り仕切っているようです。そんなGeneral Mills社のリサーチチームが今、目指しているのが、2014年度のアドホックリサーチにおいてモバイルリサーチの比率を80%に引きあげるということです。

何故、General Millsは、それほどモバイルリサーチに着目しているのか、とても興味がありますね。その理由を、General Millesのリサーチチームの2人が、この7月に開催されたMarket Research in the Mobile Worldというカンファレンスにおけるプレゼンテーションで明かしてくれました。

モバイルリサーチをリサーチの中心に据えた理由と経緯

ここからは、Market Research in the Mobile Worldでのプレゼンテーションを紹介させていただきます。まずはJeanine Bassett, Vice President Global Consumer Insightsによる、「Establishing Mobile as Integral Part of Corporate Market Research – General Mills」というプレゼンテーションです。

(こちらで見れます)
http://vimeo.com/72743108

なお以下は、私が、このビデオを見つつ内容を要約したものとなります。大方は間違っていないと思いますが、多少意味を取り違えていたりする部分があるかもしれません。その際は申し訳ありません。もし間違いに気づかれた方がおられましたらお教えいただけると幸いです。



++++++++++++++++++++++(プレゼン始り)+++++++++++++++++++++++++

なぜ、我々がモバイルリサーチに注目しているのかをお話します。

我々リサーチチームは、将来を見据えて、現在の世の中に起こっているトレンドについて、そしてそのトレンドが将来のリサーチにどのように影響を及ぼすのかを話し合っていました。その時にデータマネジメントグループが「以前と比べてメールの利用が20%ダウンしている」というショッキングな報告をしてくれました。これは内部に実査チームがある我々にとって大きな問題です。

また、携帯電話からスマートフォンへのシフトも明らかなトレンドです。それはインターネットへのアクセスがパソコンからスマートフォンにシフトしているということでもあります。幸いGeneral Millsにとってスマートフォンは、消費者へのタッチポイントとしてプロモーションにおいて研究・活用が進んでいるツールでもありました。

我々はオンラインパネルに代表性がなくなってきていることにフラストレーションを感じています。米国においては、ヒスパニック系の人口増加が急激に起こっています。このヒスパニック系の人々は、インターネットへのアクセスにおいて、パソコン利用は少なく、スマートフォンの利用が非常に多い。またパソコン利用からスマホ利用へのシフトにより、メール利用が減ってきているので、インターネットアンケートの招待メールがリーチしない層が登場してきていることもオンラインパネルの代表性に影響を及ぼす大きな問題です。

我々のリサーチニーズについてもお話します。まず、我々はグローバルカンパニーで、世界中のマーケットでビジネスを行っています。だから、世界中の国でリサーチを行っています。特に発展途上国においては、スマートフォンの普及率はパソコンの普及率を圧倒的に上回っています。

また、我々はインストアリサーチを多く行う会社でもあります。そして、インストアリサーチにおいては、まさに購買の瞬間の真実を捉えることが重要だと考えています。そして、我々は、記憶ではない、インストアにおける消費者のエモーションを捉えたいのです。我々は、記憶に頼ったアンケートへの回答ではなく、写真やビデオに写った笑顔のほうがよりインサイトが溢れていると考えています。記憶に頼った回答はrational(論理的)になりがちです。ですが、我々はもっとemotional(感情的)な反応を得たいのです。

この前、シリアルを買ったときに、なぜシリアルを買ったのかをアンケートやインタビューで聞くよりも、今シリアルを買おうとしているときに、なぜチェリオス(General Mille社のシリアルブランド)を買おうとしたのかを聞きたい。以前、チェリオスを食べた時においしかったかどうかを聞くより、今、チェリオス食べているときにおいしいかどうかを聞きたい。我々は、これまでに、記憶による回答結果と、その場での回答結果の違いについて比較検証をしてきていますが、そこには大きなギャップがあることを発見しているのです。

インストアリサーチに関しては購買実験もよく行います。これまでに購買実験をするには、競合商品を買い集めて、会場に模擬シェルフを作ってと準備が大変でしたが、対象者がいつも行くお店で、買いたいかどうかを検証する方が、よっぽど簡単で、より真実の結果が得られるとも考えています。

では、実際に我々が従来のリサーチ手法からモバイルリサーチに移行するために、どのようなことを行ってきたか、また現在どのようなことを行っているのかを話します。

まず、このような移行には様々な難しい面があります。以前(2000年前後)、モールインターセプト/郵送パネルから、ネットリサーチへの移行時には、モールインターセプトが真実なので、ネットリサーチ結果をカリブレートさせる必要がありました。モールインターセプトや郵送パネルには、これまで築きあげてきたベンチマークやノーム値があります。それらを急に捨てるわけにはいきませんでした。しかし、今パソコンによるオンラインリサーチとモバイルリサーチの結果の違いはあまり気にしていません。我々はどちらが正しい、正しくないという見方はしていません。違うプラットフォームの違う結果としてみているだけです(注:すいませんが、この部分、少し訳が怪しいかもしれません)。

実際、モバイルリサーチに注力しようとしていく中で数多くのベンダーと話をしました。そして、モバイルリサーチを提供するベンダーは大きく2種類に分けられることを発見しました。一つは従来のリサーチ会社がモバイルリサーチに進出しているタイプ、もう一つはテクノロジー系の会社がリサーチに進出してきているケース。我々は後者が、よりクリエイティブで、今までに出来なかったソリューションを持っていると感じています。後者のタイプのベンダーは、これまでのリサーチと比べてよいということではなく、今までのリサーチで答えることができなかった問題に答えるソリューションを提供してくれると感じています。

これまでの移行の経緯ですが、最初の1年(2011年)は約30のパイロットプロジェクトを実施、ある課題の調査を今までやっていた手法とモバイルで、同時に実施して比較しました。重要なのは、そのパイロットプロジェクトにブランドチームを巻き込んで行ったことです。我々の会社のカルチャーがイノベーションを重視することでもあり、多くのブランドがパイロットテストに協力的でした。このことは、後々になって、モバイルリサーチへの移行に関してブランドチームの理解を得るのに役立ったと思います。

2年目(2012年)に行ったことは二つです。一つ目は、特に信頼できる外部パートナを選択し協力関係を構築すること。もう一つは、パイロットテストの規模を拡大し、数百のプロジェクトを実施したこと。ただし、どこまでをモバイルリサーチにするかは慎重に検討しながら行いました。

そして、今、2013年を迎えています。多くのブランドチームがパイロットを実施し、モバイルリサーチで何がどこまで出来るのかが理解できるようになっています。我々リサーチチームは今後どこまで、モバイルリサーチにシフトしていくかを検討していますが、その結論として、2014年には。モバイルリサーチの比率を80%にまであげることを目標としてかかげることにしました。もちろんシンジケート的な調査はこの限りではありませんが、通常のアドホックの定量・定性においてはこの80%を目指すことにコミットしています。

最後に、我々が今抱えている課題やベンダーに期待することを述べます。大きくは以下の3点です。

  1. とにかくパネルです。もっと大きな、もっと代表性のある、もっとグローバルなパネルが欲しい。これには限りがありません。
  2. 写真やビデオをどのように分析しインサイトを得るのか。何百もの写真が集まったと喜んでいてもしかたがありません。多くの写真からインサイトを得るためのツールや分析方法が、もっと必要だと思うし、そのような研究をもっとリサーチ業界に期待したいと思います。例えば顔表情をコーディングするツールだとか、ビデオとテキストを結びつけるみたいなツールを我々は必要としています。
  3. 長い(質問数の多い)アンケート調査を、対象者に負担なくモバイルで実施する技術も必要としています。例えば、質問を分割して、複数の回答者に回答してもらい、それをつなぎ合わせたり、以前に実施した調査結果や、他のデータベースからの結果を、モバイルによるアンケートに結びつけたり、といったような手法・技術が欲しいです。


+++++++++++++++++++++(プレゼン終わり)+++++++++++++++++++++++

以上、Jeanineが、General Millsがなぜモバイルリサーチにシフトしようとしている理由と、これまでのトランジションについて語ってくれました。

記憶ではなく真実:消費者理解のために、どのようにモバイルリサーチを活用してるるのか

続いては、Andy Dybvig, the Global Manager for Mobile Researchによるプレゼンテーションです。AndyはGeneral Millesで実施しているモバイルリサーチの具体例を紹介してくれました。


(ビデオはこちら)
http://vimeo.com/73207095



+++++++++++++++++++++(プレゼン始まり)+++++++++++++++++++++++

我々は、新しい考えや概念を、マーケティングリサーチ業界にもたらさなければなりません。

我々は、過去2年間で2-3百のモバイルプロジェクトを実施してきました。モバイルリサーチのアドバンテージは明確でリアルタイムで真実の瞬間を理解することが可能だということです。対象者が、家にいたら、コンピューターがポケットの中にあるということです。そのコンピューターは単に質問に回答するだけではない様々なことに使うことが出来ます。我々はエスノグラフィでリッチな情報が得られます。我々は消費者に近づくことができる。冷蔵庫を写真撮影してもらったり、調理シーンを撮影してもらったりして、我々の商品がどのように利用されているかが理解することが出来ます。ビデオ撮影によって、彼らがどのような家に住んでいて、どのような家族がいるのかを理解することもできる。音声の録音で瞬時にオープンエンドの回答を得ることも出来ます。それは、タイプされた文字ではわからない、対象者の溜息までを聴くことが出来るものです。

これから、スマートフォンを使った二つのリサーチプロジェクトの事例を話させていただきます。

最初は、モバイルを利用した誕生日に関するエスノグラフィ。これはスマートフォンとても簡単に調査できました。まず、今後5週間以内に子供の誕生日パーティーを企画しているお母さんをリクルートして調査を行いました。そして、子供の誕生パーティーをどのように企画して、どのようなケーキを準備して、どこで材料を揃えるかを聞いておいて、それから実際にお店にいってもらって、どのようなものを買ったか、実際にケーキを作ったか、そのケーキのデコレーションを誰がやったか・・・といったリッチなデータを取得しました。最後に実際のパーティーを開いているところを、何枚も写真撮影してもらい・・・例えば子供がろうそくの火をけしているところや、人がケーキの周りでどのようにインタラクションを行っているかを取得しました。このモバイルエスノグラフィによって、我々は、パソコンにログインして回答してもらうより、またエスノグラファーがパーティー会場にお邪魔するよりもリッチなデータが得られたと思います。また、これは、1-2サンプルの話ではなく、複数の全米全土のマーケットで、数十サンプルで実施しました。これだけの規模のエスノグラフィはモバイルでなければ実施出来なかったでしょうね。

二つ目の例です。これは、広範囲のリーチに関するよい例です。クイックで簡単な全世界的な調査です。「今日の晩御飯はなに?」 というテーマで晩御飯を2-3分のビデオに撮影してもらい、何を食べているのか、だれが食べているのか、どうしてそのメニューなのかのデータを取得しました。8つのマーケット(国)を2-3日で実施。単純にこういうビデオを見るだけでも、マーケターはエンパシーが起き、インスパイアされます。もちろん、英語を話さない国のビデオは何を話しているかはわからないけど、通訳する必要もありません。ビデオを見るだけで十分。この国のキッチンはこうなっている、この国の人の調理は、こういう特長があるみたいなことが一目瞭然です。ビデオや写真のアドバンテージは、こういった翻訳の必要がないこと。百聞は一見にしかずとはこのことだと思います。

我々は、モバイルによる消費者調査に関しては、小さなプロジェクトも大きなプロジェクトも実施しています。モバイルは簡単な数問のアンケートを実施するのに適しているが、一方で大規模なアンケートも出来ます。とは言うものの、30分のアンケートが出来るというわけではありません。なので、我々は、30分の調査を分割して複数の人に回答してもらい、組み合わせるような手法を研究しています。私は30分のオンラインアンケート調査は死んでいると考えています。人は回答時間が10分を超えると、真面目に回答してくれないと考えています。そして10分を超えるアンケート調査の回答は信用することが出来ないと考えています。でも、モバイルは、リコール(記憶)ではない、リアル(真実)なリサーチ。だから、今後オンライン調査はモバイルに急激にシフトしていくと信じています。

今から、大規模な調査や小規模な調査を我々がどのように実施しているかを紹介します。

まず大規模な調査について。我々は数多くのコンセプトテストを実施します。数多くの様々なコンセプトについて、その受容性が高いのか、低いのかを常にリサーチしています。我々はこのコンセプトテストのやり方を変更しつつあります。これまでは、パッケージデザインがこれで、価格が2.99ドルで、この売り場に売っていて、こんな特徴があって・・・と記入した、パワーポイントで作ったコンセプトボードを対象者に見せて、「あなたは買いますか?」とパソコン上で聞いていました。今は、スマートフォンを使い実際の購買シーンの文脈において、コンセプトテストを実施しています。

実際のその商品カテゴリー(例えばシリアル)を買おうとしている/買いに来た消費者に、このコンセプトの商品が、この棚に並んでいたらあなたは買いますか?と聞きます。彼らは、実際にシリアルを買いに来た消費者なので、より真実の回答が得られます。また、買わないのであれば、替わりに何を買うのか写真を取って送ってもらいます。また、このコンセプトの商品に、最も似ている商品の写真を撮って送ってもらったりもします。

このような、単にレーティングだけではない、とてもインタラクティブなリサーチを実施しています。また、これからまさに買い物に行こうとする人に対して、このコンセプトのシリアルがあれば買いたいかどうかを聞くことができます。今シリアルを食べている人に、このコンセプトのシリアルがあれば、こちらを食べるかどうか、を聞くこともできます。今シリアルを買おうとしている人、今シリアルを食べている人に聞くことは、そうでない人に聞くのと回答のシリアスさが全く異なります。このようなリサーチが可能なモバイルリサーチはリアル(真実)であり、リコール(記憶)によるオンラインリサーチとは異なります。

次はクイックなポール(投票)について。我々は、大規模なリサーチは必要ないけど、数問だけ簡単に消費者に何かを聞きたいといったシーンがよくあります。このような時もモバイルは優れています。オンラインリサーチと比べると回答が集まるスピードがとても速いので、使わない手はないです。

これまで、主に家庭内の調査について話してきましたが、つぎにインストア(店頭)リサーチでの活用について話します。これに関して我々はuSamp(米国のオンラインパネル会社)のパネルを活用して、成果を上げています。

インストアリサーチには二つの方法があり、一つはプレリクルートを行い、対象者に店頭に行ってもらいミッションを行ってもらう方法。この方法は、事前の対象者設定が正確に出来るにで、我々がターゲットとしている対象者の行動を正しく理解することが出来ます。もう一つの方法はGeofencing(ジオフェンシング)を利用した方法です。調査対象店舗に対象者が入ってきたときに自動でスマホのアプリが立ち上がり、あなたはこの調査に協力しませんかという招待が出てきて、許諾した人は店内でスマホ上の質問に回答する仕組みです。この調査手法に関して、対象者が回答してくれる時間は、我々の経験では5-7分までです。なので、調査設計時には、まずインターナルクライアント(ブランドチーム)に、5-7分以内で何を知りたいのか?を明確にしてもらいます。

よくある調査課題はfindability(視認性)に関する調査です。例えば見つけてもらいた自社商品の写真をスマホ上に呈示し、これを見つけてくださいとお願いします。そして見つかれば、証明写真を送ってもらい、見つけやすかったかどうかを回答してもらいます。この場合、見つけるのにどのくらいの時間がかかったかは、さほど重要ではありません。他のカテゴリーの買い物があったり、歩くスピードが違ったりするので、費やした時間はあまり重要ではありません。見つけるのが難しかったか、簡単だったかの回答が重要です。また見つかった人には、たどり着くまでにいくつの棚を探したか、好きか/買うか/おいしそうか/誰が食べるのか等の一般的な質問をします。また、店の他のどこの棚にあればよいかを質問するのも有効です。

もちろん、この調査は前述のプレリクルート方法でも可能です。プレリクルートした対象者に、次の買い物で、このグリーンジャイアントを見つけて買ってきてくれとお願いをし、その様子を写真撮影してもらい、アンケートに回答してもらうといったことも実施可能です。

このデータは、ブランドチームにフィードバックされます。写真があるので、調査対象のパッケージが棚の中で、どのように目立つのか、目立たないのかが一目瞭然で理解でき、ブランドチームにとって非常に有益な情報になります。このデータは、真実で、信用でき、具体的なので、彼らは自信をもって次のアクションを起こすことが出来ます。オンラインリサーチでトップ2ボックスがどれだけある・・・みたいな結果よりもよっぽど役にたつデータとなります。

店頭におけるプロモーション活動の有効性を理解するのにも役立ちます。パソコンの前で、シェルフの写真を見せて、2.99$でこの商品が、ディスカウントされて売られていたら、あなたは買いますか?と聞くよりは、実際のシェルフにプロモーション価格が呈示されていて、それを見てもらい、あなたはこの商品を買いますか?ときいた時の反応のほうがよっぽど真実味があります。

このようなストアウォークについては、uSampとデータ収集や分析をより素早く、簡単にするための専用アプリを開発しています。以前は、対象者に写真をメールしてもらい、それを整理してと、いろいろとデータ処理が大変だったのですが、今は自動的に送られた写真が、瞬時にソートされたり、まとめられたり出来るようになっています。例えば「おいしそう」というキーワードで、検索すると、そのタグがついた写真がすべて呈示されるみたいなことが出来るようになっています。

また最近のuSampとの取組として、我々のリサーチャーにスマホを渡して、例えばファーマーズマーケット(米国のスーパーマーケットチェーン)で今、どのようなプロモーションが行われているかを調査してきてくれとお願いするようなことも行っています。そして瞬時に全米の数百での店舗のプロモーションの様子がわかるようになっています。

最後にモバイルリサーチのサンプルサイズについて話しておきます。我々はモバイルリサーチでは、これまでのオンラインリサーチほどのサンプルサイズは必要ないと考えています。モバイルリサーチの一人のデータはリアルなので、オンラインリサーチの一人のデータよりも価値があると考えています。100の観察結果は、400のラジオボタンのクリックよりも価値があるのではないでしょうか。

とはいうものの、今後もっとマーケティングサイエンスが、モバイルリサーチのデータに関する研究をしてほしいと考えています。我々クライアントサイドとしては、モバイルデータにもっと自信を持ってよいことを、リサーチサプライヤーサイドに証明してもらいたいと考えています。

+++++++++++++++++++++(プレゼン終わり)+++++++++++++++++++++++

我が国におけるモバイルリサーチの今後を考える

以上、2014年度にモバイルリサーチの比率を80%にあげるということを目指しているGeneral Mills社のリサーチチームによるプレゼンテーションを紹介させていただきました。

ここからは、少し私の感想を書かせていただきます。

当然ながら、今後、我が国のリサーチ業界においてもモバイルリサーチが利用される割合は「それなり」に上がっていくと考えます。その理由は、上記プレゼンで話されていることの受け売りですが、以下の3点が大きな理由です。
 

  1. パソコンによるオンラインパネルの代表性の問題

    若者のパソコン離れが厳しいと聞きます。ネット調査において、10代、20代のサンプルを集めることに苦労するのは皆さんご存知の通りです。この解決策として、スマートフォンを使ったリサーチ今後益々重要になっていくものと思われます。
     
  2. 海外リサーチでの活用

    国内需要が頭打ちの日本をあきらめて、海外で勝負しようという企業が増えている現状において、海外リサーチのニーズも確実に高まってきているかと思います。特に、日本企業の現在の注目は中国や東南アジア。これらの国でのリサーチを考えるとパソコンよりもスマートフォンという選択肢にならざるを得ないかと思います。
     
  3. 記憶<真実

    アンケート調査やインタビュー調査は記憶に頼った調査です。その記憶による反応から得られたデータと、生活文脈、行動文脈の中での反応から得られたデータを比べて、どちらが将来を予測できるのか、どちらがインサイトを得られるかを考えると。後者だと考えざるを得ません。得られるデータのクオリティという点で、スマートフォンが利用されるリサーチが増えていくのではと考えます。


とはいえ、上に「それなり」にと書かせていただいたように、
今後、我が国においてモバイルリサーチが本格的に普及するためには乗り越えないといけない、いくつかの大きな壁があると考えています。


まず一つ目の壁は、General Millesの二人も指摘していますが、分析の問題。モバイルリサーチの大きな魅力(的になりそうなこと)は写真やビデオが簡単・スピーディーに大量に集まること。とはいえ、現時点では、大量に集まった写真や動画ビデオを分析する技術や手法が確立していないので、せっかく集まった写真や動画の扱いに困ってしまうのが現状かと思います。10サンプル程度の定性的な分析ならともかくとして、数百サンプルから集まった写真・動画を定量的かつ定性的に分析するような技術や手法の開発が望まれます。

二つ目の壁は、日本において小売店頭で実査をすることの難しさの問題。上記の通りGeneral Milles社がモバイルリサーチにシフトしようとしている大きな理由として、同社がインストアリサーチを重視していることがありますが、我が国で、同じようなリサーチを行うことは、現状かなり難しいように思います。

日本の小売店頭で、General Mills社が行っているように、対象者が許可なく棚や商品を、写真/動画撮影すると、かなりの割合でお店からクレームが発生することでしょう。現状、そのようなトラブルを避けるために、調査会社としては、クライアントから、このような調査のリクエストがあっても、お断りしてしまうものかと思われます。

余談ですが、このあたりの小売店の感覚は、日本と米国では大きく異なるように思います。数年前にアメリカのスーパーマーケットの店頭でインタビュー調査(買い物客をその場でリクルートして、その場でインタビュー)を実施した経験があります。日本の感覚だと、本部に許可をとって(というか、許可が中々おりない)、事前にお店に挨拶してと、かなり大変なのですが、現地で委託していた調査会社は、前日に店長に挨拶するだけで、当たり前のように許可を取って、簡単にインタビュー調査を実施してしまいました。


もちろん、写真撮影や動画撮影をどれだけ行っても全く問題なし。その時は小売店の感覚が日本とは全く違うことに驚きました。

三つ目の壁は定量的なアンケート調査における回答時間の問題。正直、現在20-30分のパソコンによるインターネット調査が当たり前になってしまっているリサーチユーザーが、今後10分以内の調査に満足できるとは考えにくいです。また、サプライヤー側も、積極的に30分の調査を10分以内にしようとするインセンティブはありません(というか、出来ればそうはしたくないかと・・・)。

10分を超えるアンケート調査の回答をどこまで信用してよいものなのかは、一概には言えませんが、30分のアンケートが、あまりよろしくないことは、我が国の多くのリサーチユーザーやリサーチャーは気づいていることかと思います。だからと言って、サプライヤー側からしたら、30分の調査をいまさら真実ではないので、止めましょうとは、いまさら中々、言いにくいでしょうし、質問数が減れば、その分、売り上げが下がることになるので、現在パソコンでのオンラインリサーチを積極的に推進しているサプライヤーさんは、なかなか、モバイル定量リサーチを推進しにくい立場かと思います。また、ユーザーさんの中には、リサーチ結果は社内プレゼンの後押しする結果が得られれば、それでよいと考えている方がいることも事実かと思います。そのようなユーザーさんにとっては10分以降の回答が信用できるか出来ないかは、極端に言えば問題ではありません(そうではないユーザーさんが今後増えることを願っていますが・・・)。このような状況を考えると、パソコンによるオンライン定量リサーチが、今後モバイル定量リサーチにとって替わられるのは、ごく一部のケースになってくるように思いますが、皆さんはどのように思われますでしょうか。

以上、今回はモバイルリサーチについてのお話しでした。上記の通り、スマートフォンを使ったモバイルリサーチが本格的に普及するには、いろいろな壁があると思います。一方で、スマートフォンは、リサーチ業界に様々な可能性をもたらすリサーチツールであることも間違いありません。このコラムでは、今後もスマートフォンを活用したリサーチについて、色々と紹介させていただきたいと思います。