画期的なアイデアを求めるならグルインよりデプスを使え

定性調査を実施する大きな目的の一つに、新製品のアイデアを創出するということがあるかと思います。この新製品アイデア創出に関して、とても面白い論文を見つけましたので紹介させていただいきます。

私の読んだ論文は、BrainJuicerという英国を本拠とする調査会社のCEOが書いた

Creative Sixers – Adding Inspiration to Innovation

という記事です。
※ 現在記事は削除されています。

この、BrainJuicerという調査会社は日本で活動していないので、皆さまあまり馴染みがないかもしれませんが(私も最近まで知りませんでした)、以前紹介したGreenBook Research Industry Trends Reportで、最もinnovativeな調査会社として選ばれている、とてもユニークな会社のようです。

※ 現在BrainJuicer社はSystem1に社名変更しています。

さて、本題に戻りますが、論文は新製品開発におけるクリエイティビティ(創造性)を持った人の重要性と、クリエイティビティを持った人をどのように見つけるかということについて述べています。この会社は、クリエイティビティの豊かさが上位6%までの人をパネル化して、アイデア創出プロジェクト用パネルとしてサービス化しています。この論文はその宣伝用の文章ではありますが、彼らが紆余曲折を経て様々なテストから導きだされた結論と示唆は、非常に興味深いものがあります。

以下に彼らの導き出した結論・示唆を紹介させていただきます。

人がクリエイティビティを持っている度合いは、皆、生まれつき同じではない・・・生まれつきクリエイティビティが豊かな人が存在する

  • 2-10%の人は、残りの90%の人よりも、極めてクリエイティブである

    様々なクリエイティビティを測定するテストから、上位2%の人は、他の98%の人より極めてクリエイティブであり、上位10%の人は、残り90%の人よりもクリエイティブであるという結果が出たそうです(ここで言うクリエイティブとは何を持って言うのかは様々な議論がありますが、そのあたりに関しても論文には記されています)。そして、この上位2%の人は、生まれついてのクリエイティブな素養のある人で、訓練で身につけられるものではないとのことです。まあ、人間は平等だと言いながら、生まれついての能力に差があるのも事実です。私がどんなに努力しても、ウサイン・ボルトのように早く走れるようには決してならないのと同じことで、人間には持って生まれた能力というものがあるようです。クリエイティビティという能力もそのひとつと考えたほうがよいみたいです。
  • クリエイティブな人は、普通の人よりも50-100%以上もの優れたアイデアを生みだす

    これも、アイデア創出能力を測定するテストの結果からです。そして、クリエイティブな人は問題解決の際に、普通の人(いわゆる凡人)とモノを見る視点が違うとのことです。凡人は、解決すべき問題に直面すると、その問題が存在しているフレームワークの中でしか解決策を考えられないが、
    クリエイティブな人はその問題を抽象化しリフレーミングを行い、様々な方向からアプローチを行い解決策を生みだすことが出来るとのことです。

    もう少し具体的に書くと、「おもちゃの象のぬいぐるみ人形がもっと売れるように製品改良のアイデアを考えなさい」という課題に対して、凡人は「耳を大きくする」、「目を大きくしてかわいくする」といった、象のぬいぐるみのフレームワーク内でしか解決策が考えられないが、クリエイティブな人は「抱き枕になるようする」、「車輪をつけて、乗り物になるようにする」といった象のぬいぐるみのフレームワークを超えた発想が出来ます。

    なお、クリエイティブな人のアイデアを生み出す力は、指数関数的で、100人の凡人が生み出すアイデアの数より、1人のクリエイティブな人の生み出すアイデアのほうが、質、量ともに優れているとのこと(ちょっと耳が痛い話ですね)。
  • クリエイティブな人は、チームプレイヤーではなく、個人行動を好む

    これもテストからの面白い発見です。でもよく考えてみると、人類の偉大な発見のほとんどは一人の天才(とその努力)によって生み出されています。これはスティーブ・ジョブズみたいな人を見ていると納得です。クリエイティブな人は、周りに煩わされることなく、自分一人で問題解決することを好みます。他の人の意見を聞くのではなく、自分の内面にアプローチすることによって、問題解決を図ります。彼らは人と違うことをすることを好み、群れることを嫌います。逆に、クリエイティブな人は周り(凡人)から理解されにくいという面もあるかと思います。

    今回のコラムのタイトル、「画期的なアイデアを求めるならグルインよりデプスがよさそう・・・」はこの発見からつけました。1人のクリエイティブと5人の凡人でなされるグループインタビューを想像してみてください。そのグルインは、クリエイティブな人にとって、とても居心地の悪いものになるでしょう。
  • 人のクリエイティビティの度合いは測定できる

    この発見が、この論文が一番言いたいことなのでしょうが、クリエイティビティの度合いは測定でき、その結果は正規分布に従うとのこと。だから、わが社(BrainJuicer社)はパネルを作りましたという話です。

    ちなみに、私が以前、勤務していたリサーチ・インターナショナル(現カンターリサーチ)には、スーパーグループという同じような発想のリサーチサービスがありました。クリエイティブな人を10数人集めて、2日間くらいブレインストーミングセッションを行いながら、新製品のアイデア創出を行うグループワークです。その当時は、ネットリクルートというものがなかったので、リクルートチームは大変苦労していたようです。10年以上前の話なので、今もあるのかどうかは知りませんが。でも、BrainJuicerからすると、このグループワークは間違い・・・というのが次の話です。

マーケターは人々のクリエイティビティに違いがあることを認め上手に利用すべき・・・ブレインストーミングの幻想は捨てろ!

新しい新製品アイデアを生みだそう・・・そうなると真っ先に思い浮かぶのがブレインストーミング。またグループインタビューも一種のブレインストーミングと考えてよいかと思います。しかしながら、BrainJuicer社では、上記のファインディングスから一般的に考えられているブレインストーミングの価値や方法論に対して、以下のような疑問を呈しています。そして、これは、グループインタビューに対してもあてはまるものかと思います。


ブレインストーミングの常識1=「すべての参加者、すべてのアイデアは同じ価値がある」
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BrainJuicerの発見1=クリエイティビティの豊かさは個人差が極めて大きく、クリエイティブな人であればあるほど、クリエイティブなアイデアを生み出す力がある。


ブレインストーミングの常識2=「チームで考え、様々な人のアイデアを積み上げよう」
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BrainJuicerの発見2=クリエイティビティが平均以上の人は、一人で考えることを好み、通常よいチームプレイヤーではない。そして、クリエイティビティが豊かな人が一人で考えたアイデアは、クリエイティブで優れた問題解決策であることが多い。


ブレインストーミングの常識3=「自分のアイデアをすぐに評価・否定すべからず」
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BrainJuicerの発見3=クリエイティビティが平均以上の人は、最初の、もっとも明らかな答えを否定する力を持っている。そして、それ以上にクリエイティブな解決策を考え続けることが出来る。


ブレインストーミングの常識4=「質より量を大事にしろ(出されるアイデアは多ければ多い方がよい)」
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BrainJuicerの発見4=究極的には、質が最も重要。そして、たくさんのアイデアを出し続ければ、その中から優れアイデアが生まれると考えがちであるが、凡人が出し続けるアイデアは、いくら数があっても平凡なものばかりである。


ブレインストーミングの常識5=「突飛なアイデアを大事にしよう」
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BrainJuicerの発見5=突飛なアイデアとクリエイティブなアイデアは違う。ブレインストーミングで生み出される突飛なアイデアは役に立たないものばかりである。


以上なのですが、皆さんいかがでしょうか。これが本当なら、凡人を集めたグループインタビューは、いくらやっても、平凡なものしか生まれない・・・そこからクリエイティブなアイデアを得ようなんて、虫が良すぎるといったことが結論のようです。

クリエイティティブな人に、クリエイティブなアイデアを生み出す環境を与えろ!

最後に、この論文を読んでの私のコメントを付け加えさせていただきます。

クリエイティブなアイデアが欲しければ、クリエイティブな人を探すのが最初にすべきことというが、この論文の主旨でありますが、まったく同感です(もちろん、その方法がキモなのですが)。そして、この論文には書かれていませんが、クリエイティブな人に、クリエイティブなアイデアを出してもらうためには、そのような環境(調査手法)を準備することも重要だと思います。

もちろん、それは会場に来てもらってグループインタビューをするといったことではありません。また、どこか日常を感じさないホテルみたいなところにネクタイを外し、ジーンズを履いて集まることでなさそうです。

個人主義者であるクリエイティブな人々にはデプスインタビューが向いていると言えましょう。また、それは1時間のインタビューを一回すればよい・・・みたいなものでもないかと思います。テーマを与え、時間(数日間)を与え、インタビューを行い刺激を与え、また時間を与え、さらにインタビューを行うといった、潜在意識を上手に刺激するようなプロセスの繰り返しが必要なのではないかと思います。

このようなプロセスを実施するには、対象者が自宅にいて、コンタクトがしやすく、また対象者がリラックスしてインタビューに参加することができオンラインインタビューが適しています。

クリエイティブなアイデアが欲しいときは、

① 「まずは、クリエイティブな人を見つける」、
② 「オンラインインタビューを使い、アイデアを創出するセッションを行う」
といった試みをしてみてはいかがでしょうか。

最後は少し強引なまとめとなりましたが(苦笑)、とりあえず私は、この論文をとても興味深く読ませていただきました。皆様もよろしければ、ご一読ください。