2017年のリサーチ業界を予測する

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毎年、この時期は、あちこちで「今年の○○はこうなる!」、「今後の△△を占う!」といった記事を目にします。リサーチ業界もご多聞に漏れず、海外ではそういった記事が出回っています。そこで今回は、いくつかの記事をピックアップして2017年のリサーチ業界がどうなるかを考えてみたいと思います。

Five Market Research Trends for 2017

最初は皆さまお馴染みのRay Poynter氏による記事です。Rayさんは、2017年のエキサイティングかつチャレンジングなトピックとして以下の5つを上げています。

<原文はこちらです>

https://www.linkedin.com/pulse/five-market-research-trends-2017-ray-poynter

注:以下は原文を端折って訳しております。一字一句正確な訳ではないのでご了承ください。

  1. Automation(オートメーション:自動化)

    オートメーションは過去数年のリサーチ業界における重要なトレンドであり2017年もそうであろう。この動きはクライアントサイドにおいてもエージェンシーサイドにおいても、現時点ではさほど顕著になってはいないものの、裏では確実に進行している。オートメーションは今後数年の間に、その有効性が実証されるはずである。それはリサーチコストを削減し、リサーチスピードを増加させることによって、より根拠(evidence)に基づく意思決定の機会を増やすものである。なお、中にはオートメーション化によってリサーチのクオリティ低下を心配する人もいるが、業務が標準化されることによってクオリティは向上すると考えるべきであろう。

     
  2. Insight Finding(インサイト探索)

    昨今、データを集めるコストは劇的に下がり豊富なデータが手に入るようになったが、データからストーリーを見つける技術はここ30年間何も進歩していない。しかしながら、これは変わりつつある。2017年、我々はOffice ReportsやeTabsといったレポーティングツールの進化や、InfotoolsやTableauといったデータ視覚化ツールの進化や、Rに代表される分析ソフトを使った予測分析の進化を目にするであろう。リサーチ業界は今、更なるデータや新しいサーベイ技術を求められているのではない。インサイトを見つけコミュニケートする方法が求められているのだ。
     
  3. Insights to Action(インサイトをアクションにつなげる)

    インサイトを見つけることは、ビジネスニーズの半分を満たしているに過ぎない。残り半分として重要なことはインサイトをアクションに結びつけることだ。これまで、BrainJuicer社やInSIte Consulting社といったブティック型のエージェンシーが、この点にフォーカスしてきたが、業界内にその動きは広がっているように見える。2017年、様々なリサーチエージェンシーがインサイトをアクションにつなげるアプローチを研究し発展させていくであろう。またクライアントサイドにおいてはインサイトをアクションにつなげるために時間と費用をかけていくことになるであろう。
     
  4. Implicit Measurement(インプリシットメジャメント:潜在スケールによる測定)

    Implicit Measurementとは質問に対して対象者が回答するといった従来のリサーチ手法ではない新しい対象者の測定技法である。過去数年Implicit MeasurementはEEGやfMRIを使ったニューロ系の調査テクニックの一部と考えられてきたが、実はそれだけではない。もっと幅広く奥が深いものである。Raj Sandhuが先日のウエビナーで「Task, don’t ask(タスクを与えて観察せよ。質問するな)」と観察の価値を語っていたように観察手法はその一例である。2017年、従来の質問/回答型のリサーチではなく、エスノグラフィ、パッシブデータコレクション、コンジョイント分析、記号学、計量生物学、ニューロ系のテクニックのような潜在スケールによる測定技術にリサーチ予算は割かれるであろう。
     
  5. AI -Artificial Intelligence(人口知能)

    最近至るところでAIという言葉を耳にするようになった。ただし、AIがリサーチ業界を変えるまでになるには、もう少し時間がかかるのではなかろうか。とは言いつつ、リサーチ業界にいるものは2017年AIの動きを追い続けるべきであろう。そしてチャンスがあれば何か活用してみてはいかがだろうか。

 私は、AIがリサーチ業界において大きなインパクトを与えるのは、テキスト分析、プロジェクトデザイン、サーベイデザイン、データ分析だと考えている。

Other 2017 Thoughts (その他)

 
上記5つに加えて、以下も2017年に予測している。

・モバイルリサーチの更なる発展

・リサーチ価格の下降

・テキスト分析(ソーシャルメディア分析を含む)の発展

・従来型大規模スケールのブランド、広告、顧客満足度に関するトラッキング調査が減っていく

Predicted Market Research Trends for 2017

続いてはMARKET RESEARCH INSIGHTS & BUSINESS INTELLIGENCEというサイトで紹介されている様々な識者による予測です。こちらも原文を端折って訳しておりますのでご了承ください。

 <原文はこちらです>

http://blog.marketresearch.com/predicted-market-research-trends-for-2017

Acceleration of Technological Changes
(テクノロジー進化の加速)

Bob Lederer, Publisher, – Editor & Producer, RFL Communications

絶え間ないテクノロジーの進化はリサーチ業界の仕事にもインパクトを与えている。リサーチ業界はテクノロジーの進化にどのように対応するか、今後悪戦苦闘が続くのではないだろうか。

Increasing Need for Research Amidst Global Uncertainty
(不安定な世界情勢の中でリサーチニーズが高まる)

Joe Newsum – Founder, Kentley Insights

2017年は政治や経済において不安定な状況が高まる。それにつれ世界中の企業はビジネスの変化が求められる。そこでビジネスリーダーたちは、競合状況やマクロトレンドを踏まえつつ新しい顧客を見つけることが出来るようなリサーチ会社を、より重宝するようになるであろう。

Growth of Automation and Artificial Intelligence
(オートメーションとAIの進化)

Ray Poynter – Managing Director of The Future Place and Founder of NewMR

オートメーションとAIが進化する(上述の通り)。

Need for Concise Findings and a Clear Point of View
(簡潔で明瞭なリサーチ結果の報告が求められる)

Dave Santee – Founder and President, True North Insights

昨今、データが簡単に手に入るようになりデータが溢れている。それにともない、そのデータを簡潔、明瞭にプレゼンテーションする能力がリサーチャーに益々求められてきている。リサーチャーはこれまで、数字を扱う「リサーチャー」として教育されてきたが、これからは「コミュニケーター」として教育されることが重要ではなかろうか。

Human Filtering Combined with Automated Market Research
(リサーチの自動化を人間がフィルタリングする必要性が高まる)

Jack W. Plunkett, – CEO, Plunkett Research

リサーチの自動化が進んでおり、大量のデータが簡単に集まり、それを自動的に分析するツールも進化してきている。これらはリサーチに進化をもたらすものであるが、現時点ではそれにすべてを頼るべきではない。自動化された分析には間違いも多い。現時点で最も信頼できる分析は、自動化された分析を人間が見て、間違いをフィルタリングしつつ更なる付加価値となる分析を加えたものである。

Growing Demand for Desk Research
(デスクリサーチの重要性が高まる)

Tatiana Teplova, – Head of Research Department, yStats.com

2017年は以下の3つの理由でデスクリサーチの重要性が増す。1つめはマーケターの興味関心はデジタルに移行しており、デスクリサーチは消費者とマーケットのトレンドを融合させるのに適していること。2つ目は経済の不安定さが予測される中、デスクリサーチによってコスト効率の良い方法が求められるようになること。3つ目は過去数年の間にデスクリサーチに利用できる情報が急激に増えていることである。

Qualitative Research That Can Answer “the Why”
(Whyに答えることができる定性調査のニーズが高まる)

Pam Danziger – Speaker, Author, Market Researcher, Unity Marketing

昨今ビッグデータが話題になっているが、ビッグデータはあくまで過去に関するデータである。ビッグデータは過去について語ることはできるが未来を予測するものではない。多くの企業がビッグデータは、それだけでは使えないことに気づきはじめている。ビッグデータは、who、what, whenに答えられるがwhyには答えられない。Whyに答えられる定性調査が今求められているのである。

Desire for Accurate Research, Not Canned Solutions
(定型化ではない精密なリサーチに対するニーズの高まり)

Kevin Gray – President, Cannon Gray LLC

多くのリサーチバイヤーは、マーケティングリサーがソフトウエアや定型化された自動化ラインから生まれるものではないことに気づき始めている。そのようにして生み出されたリサーチ結果は結局高くついてしまう。リサーチは行動科学、社会科学に基づくものであり、パッケージソリューションではない。

A Move Away from Artifice Toward Realism
(ごまかしから本物へのシフト)

Jeremy Pincus, – Ph.D., Director, Research & Strategy, Isobar

2017年はより観察に主眼を置いたリサーチが主流になるであろう。質問/回答型リサーチの信頼性は低下し、生体反応(表情、眼球、皮膚、心拍数、脳波)を測定するような手法が増える。また30-40分にもなる長い調査票はスマートフォンで回答出来るIn-the-momentを捉えた調査票にシフトしていくであろう。

Market Research as a Continuous Dialogue
(リサーチは消費者との絶え間ない対話に進化する)

Diane Hayes – President and Co-founder, InCrowd

2017年、リサーチは従来のプロジェクトという位置づけから、対象者との絶え間ない対話という位置づけに進化していくであろう。

Demand for Research That Predicts Business Results
(ビジネスの結果を予測できるリサーチが求められる)

Anne E. Beall – Ph.D., CEO, Beall Research, Inc.

クライアントのリサーチのROIに対する関心が非常に高まっている。彼らは、リサーチ結果によって得られた顧客の意識や態度が彼らのビジネスに当てはめられ、数字(売上)が向上することをリサーチに求めているのである。また、昨年の大統領選ではサーベイがリアルワールドを予測できないことを証明した。クライアントは、彼らのビジネスを予測できるリサーチを今求めている。

Increasing Use of Online Reporting Tools
(オンラインレポーティングツールの利用増大)

Rudy Nadilo – President North America, Dapresy

クライアントのマネジメントはリサーチ結果を視覚的に、かつ簡潔に提案されることを求めている。そこで、従来のSPSS、エクセル、パワーポイントといったような労働集約によって作成される従来の報告ツールの利用は減少し、より効率的なデジタルプラットフォームの利用が増大するであろう。

A Focus on the Personal Dimension
(人間を見ることにフォーカスする重要性が高まる)

Kelley Styring – Principal and Founder, InsightFarm

3次元の世界を見るには、目は一つより二つの方が間違いなく良い。より消費者のデータが集まる現代において、スマートなマーケターは行動科学を含む定性調査を戦略的に活用する。

そして

  • 消費者の真の行動パターンを観察、理解し
  • 製品やサービスがリアルワールドでどのように利用されているかを理解し
  • 消費者のマインドセット、価値感、興味、信念に入り込み
  • 消費者の持つストーリーを反映し
  • 彼らに共感する

 私はビッグデータの陰に潜むWHYを理解しようとするマーケターが増えているのを目の当たりにしている。彼らは、より人間を掘り下げ理解することによって、インパクトのある商品、サービスを生み出そうとチャレンジしている。

A Strong Shift to Empathy Building
(共感創造へのシフトが起こる)

Rob Volpe – Founder and CEO, Ignite 360

定性調査は、対象者とのエンゲージメントを強化し、より共感することによって彼らを理解する方向にシフトしていくように思う。インコンテクストエスノグラフィ、コクリエーション、これまで以上に密なセッション等が増えるであろう。

Research That Keeps Pace with Product Development
(新製品開発の速度アップに対応するリサーチの速度アップが起こる)

Kent Stones – CEO, Stones Insight

2017年のリサーチ業界のドライバーはここ数年から引き続いての、スピード/クオリティ/安さの追求である。クライアントの経営幹部はよりスピーディーかつ高頻度の製品開発を主導しており、リサーチ業界はそれに追いついていかなければならない。これからは大規模で高価で唯一無二の回答を探し出すようなリサーチから、「我々は正しい道筋にいるのだろうか」という問いに常に答えられるような柔軟なベイズ理論的なアプローチが求められるであろう。

Top 40 Predictions about Insights & Analytics for 2017

最後はGreenBookで紹介されているTop 40 Predictions about Insights & Analytics for 2017という記事です。

こちらでは40名の識者による予測を紹介していますが、すべてをここで紹介すると長くなりますので、私が興味を魅かれたものをピックアップして紹介させていただきます。その他の予測にご興味がある方は、ぜひ原文をご覧ください。

<原文はこちらです>

http://www.greenbookblog.org/2016/12/27/top-40-predictions-about-insights-analytics-for-2017/

Parry Bedi – Co-Founder & CEO at GlimpzIt

現在リサーチ業界に起こっている大きな波の一つはオンラインパネルとサーベイである。二つ目は日記調査等の定性手法がモバイルプラットフォームへ移行が進んでいることである。これらの手段によって集まったデータを人間が分析するのは莫大な手間暇が必要である。しかしながらAIの技術はこの状況を完全に変えつつある。

例えばAIはマシンラーニングによって写真や動画を分析することを可能にしつつある。それは、ビジュアルの内容のみならず、その中にある人間の感情をも分析可能にしつつある。近い将来、この技術はオーディオ、テキスト、その他の非構造化されたデータを統合して、消費者を構造化された包括的な姿として描きだすことが出来るようにするであろう。2017年はAI技術の応用が飛躍的に進む年になるであろう。

Rebecca West – Global Vice President, Marketing Research Services at Civicom

2017年はバーチャルリアリティ(VR)の技術活用がリサーチ業界において大きく進むであろう。リサーチャーは人々が製品やサービスにどのように関わっているのかを分析するために積極的にVRを活用するようになるであろう。また2017年、リサーチャーは、様々なデータを活用するようになるであろう。IoTの進化によって、従来にはなかった様々なデータが収集可能になってきており、リサーチャーはこのようなデータを生活者理解に活用できるようになってきている。

このように様々な新しい技術が進化する一方で従来型リサーチも存続し続けると思う。多くのクライアントは、彼らの顧客を理解するためのベストな方法は、顧客に直接会って話を聞くことだと考えている。今後、従来のリサーチ手法が無くなっていくと考えている人もいるが、私は決してそのようなことはないと思う。

Jim Bryson – President, 20|20 Research

2017年、定性調査は、従来のスローで複雑なものから、クライアントのビジネス意思決定のためのスピーディーでシンプルかつ価値あるものに進化を遂げるであろう。昨今、莫大なデータがマーケターのもとに集まるようになった。しかし、そのようなデータの山はストーリーの一部を語っているに過ぎない。そこで定性調査で、データの深い意味を探るべきなのであるが、残念ながらこれまでの定性調査はスローで手間暇がかかり、そのニーズに対応しきれていなかったと思う。なので、多くのマーケターは定性調査をスキップする傾向があった。しかしながらテキスト分析を始めとする新しいツールはその状況を変えつつある。今や定性調査はリクルートから分析まで1週間以内で完結させることが出来る。定性調査はビジネスのスピードにキャッチアップしつつあるのだ。2017年、定性調査はビジネスのスピードに対応することにより、より利用が増えるようになるであろう。

Todd Kaiser – Marketing Insights Strategist, Association of National Advertisers

無回答バイアスと対象者にエンゲージメントの低さが、良質なデータを取得するのを難しくしている。そのような中で私はMROC利用の流れが続くと思う。MROCとショートサーベイの組み合わせがインサイト取得に役立つであろう。定性ディスカッション掲示板はカスタマージャーニーについて、よりスピーディーで信頼できるデータを収集できる。

リサーチャーのスキルセットに関しても大きな転換期を迎えるであろう。マーケティングのテクノロジー進化は消費者行動を益々複雑にしている。このような状況でマーケティングとテクノロジーの両面に明るい人材が今後益々必要になってくるであろう。

Gregg Archibald – Managing Partner, Gen2 Advisors

クライアントサイドのリサーチ部門は急速に変化している。彼らは、ビジネスイシューに対応するためにプライマリーデータ(リサーチデータ)、CRMデータ、その他の外部データを統合し理解分析することが求められている。彼らは従来のマーケティングリサーチ部門から、戦略立案機能を持つ部門に進化することが求められているのである。この変化が、どのような意味を持つのかを、リサーチサプライヤーも考えるべきであろう。

もう一つ指摘したいことは定量と定性の区分があいまいになってきている状況である。定性、定量という名前はもう古いのではないだろうか。私は、今後Deep Quant.という言葉を使っていきたいと考えている。

Leonard Murphy – Executive Editor & Producer, GreenBook & Senior Partner, Gen2 Advisors

2017年は、新しいものが登場するというよりは、ここ数年の流れが加速、大きく進化する年であると思う。特に以下の5つの進化、変化には要注目である。

  •  Consolidation & Investment:(リサーチ業界の再編と投資)

    プライベートエクイティファンド主導によるM&Aやベンチャーキャピタルによるベンチャー企業への投資が進むであろう。
     
  • Automation & AI:(オートメーションとAI)

    オートメーションとAIはゲームチェンジャーである。それらは従来リサーチの非効率さを破壊し、リサーチを早く、安く、十分なクオリティなものに進化させるものだからである。リサーチクライアントはこのベネフィットを無視することは出来ないので、彼らの予算やプロジェクトの多くは、オートメーションやAIを活用する新しいプレイヤーや、この分野にシフトする従来のプライヤーに向けられるであろう。
     
  • Qual:(定性調査)

    様々な定性手法、MROC、F2Fインタビュー、モバイルエスノ、オンラインエスノグラフィ等がオートメーションで集まったデータに意味を与えるために益々重要になるであろう。
     
  • Nonconscious:(無意識データ)

    カメラ、センサー、行動測定、生体反応といった無意識データがスピーディーかつ安価に収集できるようになってきている。
     
  • VR:(バーチャルリアリティ)

    VRの本格的なリサーチへの活用技術が今年現れるのではなかろうか。VRによる模擬店舗がCLT、グルイン、MROC等に活用されると思う。

以上、2017年にリサーチ業過に何が起きるかということで様々な識者のコメントを紹介させていただきました。皆さまはどのような感想を持たれましたでしょうか。ちなみに、紹介したのはすべて日本人以外の方なので(Kevinさんは日本におられますが)、ややガラパゴス化している日本のリサーチ業界にそっくりそのまま当てはまるかどうかはわかりませんが、注目すべき点も多々あるのではないかと思います。
 

個人的には2017年度、定性調査の重要性が高まるとのコメントが多く嬉しかったです。そして、なんといってもAI(人口知能)。2017年、リサーチ業界に係わるものはAIに注視すべき年になりそうです(リサーチ業界以外の方々も同様ですが・・・)。でも、いったいAIは、どのような形でリサーチ業界、特に定性調査に影響を与えるのでしょうか?次回はこの点について書かせていただく予定です。