今、定性ハイブリッド調査がアツい!

今、海外では様々な定性調査を組み合わせる定性ハイブリッド調査が急激に増えているそうです。この定性ハイブリッド調査について、米国20|20社による興味深いWebinarがありましたので、今回はその内容の紹介を中心にさせていただきます。

Strange Bedfellows: How to Leverage Both Traditional and Online Qual
奇妙な仲間:従来型とオンラインの定性調査を両方利用してどのように効果をあげるのか

Isaac Rogers,
CEO of 20|20 Technology

なお、これまでにも何度かハイブリッド調査について紹介させていただきました。しかしながら、それは定量調査と定性調査を組み合わせるハイブリッド調査です。今回、紹介させていただくのは様々な定性調査、特に従来型のフェースtoフェース(以下F2F)でのインタビュー調査と新しいオンライン/デジタルを活用した定性調査の組み合わせについての話となります。

20|20という会社と定性ハイブリッド調査について

最初に私から20|20という会社について少しだけ紹介させていただきます。20|20 Research社は米国テネシー州ナッシュビルを本拠とするリサーチ会社で、オンライン定性調査のプラットフォームの開発・提供と従来型グルインのルーム提供をメインとしている会社です。私の知る限り日本では営業していないと思いますので、皆さまあまり耳にしたことがない会社だと思いますがMROCやWebカメラを使ったオンラインインタビューのプラットフォームには定評があり、米国のオンライン定性調査を代表する会社の一つと言えるでしょう。ちなみに、2015年のGRITにおけるTHE TOP 50 MOST INNOVATIVE SUPPLIERS(イノベーティブなリサーチ会社TOP50ランキング)においては、11位にランクされています(最新では20位に落ちていましたが)。私も、その動向を常に注目している会社で以前にも、この会社の創業者のJim Bryson氏が書いた記事を紹介させていただきました。

<以前の記事:2025年の定性リサーチャー

Rogers氏 によるWebinarは、イントロダクションとして20|20の会社と定性ハイブリッド調査についての紹介から始まります。

※ 以下はWebinarの内容を訳したものですが、わかりやすくするために意訳していたり解釈を付け加えていたり省略したりしている部分が多々ありますのでその点はご了承ください

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最初に少し我々20|20社についてお話しします。我々はリサーチ業界へのサプライヤーとしてかなりのボリュームのデジタル定性調査を提供しています。と同時に我々は、従来型グループインタビューのファシリティを所有していますし、全国規模での対象者リクルート機能を有しています。このような状況から、今日お話しする定性ハイブリッド調査の知見を深めることができました。どのようなメリットがあるのか、どのような点に気をつけなければいけないのか・・・定性ハイブリッド調査はでこれまで得られなかった消費者理解が得られる革新的な方法です。そのようなお話をしたいと思います。

皆様の中には、F2Fの定性インタビュー調査とデジタル定性調査は水と油の関係であり、ひとつのプロジェクトでは両立しないと考えている人も多いのではないでしょうか。もちろん、すべての調査目的において定性ハイブリッド調査が適しているわけではありません。しかし、人間の行動を深く理解したいとき、人間の複雑な感情の変化を理解したいときに定性ハイブリッド調査は非常に役立つはずです。決して水と油ではありません。私のこれまでの経験では、ミルクとチョコチップクッキーのようなベストの関係になると言えます。そして、現在定性ハイブリッド調査が急激に伸びている姿を目にしています。クライアントからの需要は非常に高まっていると感じています。

最初に、今日お話しする定性ハイブリッド調査とは何かということに関しての定義を確認しておきましょう。この定義は「一人の対象者に従来型F2Fインタビューとオンライン/デジタルでのリサーチを実施すること」です。同じプロジェクト/調査目的でで、違う対象者にF2Fインタビューとデジタル定性調査を行うといったことは皆さまもよく実施しているかと思いますが、それはミックス手法と呼ぶべきで一人の同一の対象者に実施するのとは全く別の話です。定性ハイブリッド調査とは同一の対象者に両者(従来型F2Fインタビューとオンライン/デジタル定性リサーチ)を実施することです。例として、従来型グループインタビューの事前課題として、デジタルによる事前課題を行ったり、スマートフォンを使って製品テストのオンラインダイアリーを数週間記録してもらい、その後会場に来てもらいF2Fインタビューをしたりするといったことです。

これから定性ハイブリッド調査に関する間違った認識についてお話しします。

<間違った認識1>定性ハイブリッド調査は複雑で時間がかかり、費用が高い。複数の調査を実施したほうがよいのではないか。

⇒ 実際はほとんどの場合、定性ハイブリッド調査は2つの別の調査を実施するよりも安く実施できます。また時間も早く実施できます。その大きな理由はリクルートコスト/時間が抑えられるからです。定性ハイブリッド調査は1回のリクルートコスト/時間が複数のリサーチに分散されます。

<間違った認識2>定性ハイブリッド調査を実施するのに適したグルイン施設やリクルート会社はあまりない。従来型F2F手法に馴染んでいる会社はデジタルの活用に及び腰である」

⇒ これは、以前はそのような傾向があったと思いますが、現在ではほとんどそのようなことはありません。現在多くのF2Fグルイン施設は、デジタルによる事前課題や事後課題ができるサービスを提供するようになってきています。この事実は、リサーチ業界が、定性ハイブリッド調査の重要性、有効性に気付いている証拠ではないでしょうか。

<間違った認識3>定性ハイブリッド調査のような複数で長時間コミットするプロジェクトに参加を希望する対象者は少ない。多くの対象者はグルインに来て、それだけで終わりにしたいものだ。

⇒ リクルート時に、これからどのような調査に参加してもらうかをきちんと説明をして、謝礼が適切であればこのようなことは全くありません。90%以上のコンプリーション率を期待してよいでしょう。

ここで20|20の状況をお話ししておきますが、2011年に定性ハイブリッド調査が全プロジェクトに占める割合は5%でした。それは、前年ほとんどなかったところからの急激なジャンプでした。そして今年度(2016年)は、それが20%を超える見込みです。このように定性ハイブリッド調査は急激に増えています。なお補足ですが、我々はこれまでに積極的に定性ハイブリッド調査を推進してきたというわけではありません。

この成長は、業界のアーリーアダプターの利用による自然な成長なのです。

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このようにRogers氏は定性ハイブリッド調査についての間違った認識について説明してくれています。その中で「現在多くのF2Fグルイン施設は、デジタルによる事前課題や事後課題ができるサービスを提供するようになってきています。」と述べていますが、この点は、我が国の状況とは少し違うような気がします。日本のグルインルームでこのようなビジネス展開をされているところは私の知る限りあまりないように思います。現在、日本のグルインルームを提供されている会社様は、ルーム貸しに留まっているところがほとんどではないでしょうか。

従来型とオンラインは競合関係にあり、同時に取り組むとカニバるみたいな面もあり取り組みにくいのかもしれませんが、今後のことを考えると我が国でも、従来型グルイン施設を提供されている会社様も、オンライン/デジタル定性のプラットフォーム提供にもっと積極的に取り組まれてもよいように思いますがどうなのでしょうね。

定性ハイブリッド調査、急成長の理由

続いて、Rogers氏は定性ハイブリッド調査がなぜ現在急成長しているのか、その3つの理由を紹介してくれました。

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では、この急成長の理由は何なのでしょうか。そこには3つの理由があると考えています。一つ目の理由は定性ハイブリッド調査を利用すると「対象者をコンテクストに沿った深い理解ができる」ということ、二つ目の理由は「結果に対して素早く柔軟な対応ができる」ということ、三つ目の理由は「(複数の別のプロジェクトを実施するよりも)費用が安く、時間がかからない」ということです。

まず「対象者をコンテクストに沿った深い理解ができる」ということについて話します。我々はたった1回だけ他の人に会ったからと言って、その人の全体像を理解するのは難しいということを理解するべきだと思います。

<<スーツを着て、スマートフォンを操作している写真を呈示しながら>>

この男性を見てもらうと、たぶんプロフェッショナルな仕事をしていているという側面は理解できます。でもそれはこの人の一面しか見ていません。そして、これはシングルフェーズのリサーチでは、それだけしか得られないということです。しかしながら、この人をあなたのブランドを購入するかもしれない消費者、生活者という視点でみるならば、それだけでは不十分です。

<<この男性のとなりに子供が映っている写真を呈示して>>

この男性には子供の親という別の側面があります。あなたがコーヒーショップでこのスーツを着た男性に会って15分話をしたとすると、この男性についての何らかのイメージができあがるでしょう。しかし、次の日に彼が子供のサッカーチームを指導している姿を1時間観察すると、全く違う人だという印象を受けるかもしれません。定性ハイブリッド調査では、人を様々な角度から多面的に理解しようとするのです。1回だけの接触で人は、その人を十分に理解することは出来ません。人は複雑なのです。複数の接触が必要なのです。

定性ハイブリッド調査を実施することによって、人はコンテクストによって様々な姿を見せるということが理解できます。人が変化するということを理解できます。しかしあるリサーチャーはこの変化に恐怖を感じます。従来の1回の接触によるリサーチではこのような変化を見ることがなかったので・・・そして「何を信じればよいのだ」と。例えば、第一弾のオンライングルインではこの製品を買いたいといっていたのに、第二弾の会場F2Fインタビューになって興味がないと言い出すかもしれません。そのことにとてもナーバスになるリサーチャーもいます。しかし、我々はその変化を恐れてはいけないと思います。むしろその変化こそが重要だと考えます。ブランドマネジャーやリサーチャーは6月16日の木曜日の19時にグループインタビュー会場に集まった「静止した」消費者が真実だと考えてはいけません。我々が対応しないといけないのは、日々変化するダイナミックな消費者なのです。日々意見や評価が変わる消費者なのです。なので、どのようなシーンでその製品に対してポジティブで、どのようなシーンでその製品に対して評価が低くなるのかを理解しなければならないのです。

我々20|20は、このコンテクストとオピニオンの変化との関係について面白い研究をしています。今、この研究結果をまとめていて、その結果はもうすぐリリース予定ですが、その中で見つかった面白い結果の一つを紹介します。この研究でリサーチの結果はそのリサーチが実施された曜日や時間によって影響されるということがわかってきました。例えば、多くの人の感情の起伏は朝に最もポジティブに高くなるということがわかりました。私は朝方人間ではないので、少し信じられなかったのですが、多くリサーチプロジェクトの回答された時間帯と回答結果との関係を分析すると、朝に回答された結果は1日のなかで最もポジティブな結果になるという傾向がみられました。また、リサーチに回答された曜日に回答傾向が大きくことなるという発見もしました。平日においては、水曜日が最も回答者のテンションが下がる曜日のようです。このようなテンションの低下はリサーチに回答結果にも影響を及ぼすことも考えられます。同じ製品でも評価を月曜日にするのと、水曜日にするのでは、月曜日のほうがよい結果が得られる可能性があるのです。このように調査の時間や曜日がバイアスになる可能性もあるのです。

対象者との1回だけの接触ではバイアスのかかった結果しか得られていないかもしれません。我々は複数のレンズで対象者を見なければならないのです。ひとつの定性調査手法でパーフェクトなものはありません。ひとつの定性調査手法だけで複雑な人間は理解できないのです。なので、複数の手法を組み合わせるのです。例えば、会場での従来型グループインタビューを実施する前に、ビデオダイアリーを収集してはいかがでしょう。会場での従来型デプスインタビューを実施したのなら、そのあとにオンライングルインでフォローアップしてはいかがでしょうか。

定性ハイブリッド調査が急成長している二つ目の理由、「結果に対して素早く柔軟な対応ができる」ということに話を移します。定性調査の準備にはとても手間や時間がかかります。適切な対象者をリクルートして、インタビューガイドを精査して・・・そのようにして準備したグループインタビューで当初の仮説と違う結果が得られたとしても、従来はそこまでです。その結果に対して、新たなリサーチを実施しようとすると、新たにまた対象者をリクルートして・・・となるとさらに時間がかかります。我々は、様々なクライアントの数多くの定性ハイブリッド調査をサポートしてきました。その中で、多くのリサーチが第一弾のリサーチ結果が、続いてのリサーチの方向性に大きな影響を与える様子を目にしてきました。例えば第一弾のリサーチで、新商品コンセプトに対して対象者から全く予期しなかったような反応を得たとします。すると、その反応を反映してコンセプトを変更して、第二弾のリサーチで検証をするのです。

また、繰り返しになりますが人は状況によって意見や態度が変わるということも覚えておくべきです。そして、そこ事実を受け入れ、また積極的に活用すべきです。人は定性調査の中で新しい情報に触れたり、グループバイアスや、曜日や時間のバイアスや、またこれは重要なことですが、インタビュアーに慣れてくると、意見や態度が変わるのです。これらのことを受け入れるべきです。例えばあなたは、お店である洋服を見てとても気に入って買おうと思ったのですが、たまたま手持ちのお金を思っていなかったのでその場では買いませんでした。そこで、後日、もう一度お店に行ったら、やっぱり、ちょっと自分には合わないかも、やめておこうなんて思ったことはありませんか。最初のグループインタビューで、「これ発売されたら買います」といっていた人が、第二弾のオンラインインタビューで、「昨日TVCMで違う見た製品を見て、そっちのほうがよさそうだったからやっぱり買わない」ということがあるのです。このように、対象者に複数回接触することによって消費者のリアルワールドの姿を理解すべきなのではないでしょうか。

三つ目の「(複数の別のプロジェクトを実施するよりも)費用が安く、時間がかからない」ということについて話を移します。ただ、これは定性ハイブリッド調査のメリットの副次的なもので、この点だけにフォーカスしてほしくはないと思います。定性ハイブリッド調査で費用が安く時間がかからない大きな理由は、先ほども述べたようにリクルートの費用と時間が、二つの定性調査プロジェクトを別個に実施するよりも圧縮できるかからです。もちろん、ハイブリッドへの協力率は個別プロジェクトより少し低くリクルートコストは少しあがり、謝礼もアップする必要はありますが、2つのプロジェクトのためにリクルートを2回別個で実施するよりは遥かに安い費用で実施できます。ハイブリッドは結局費用が高くなると勘違いしている方をよく見かけますが決してそうではないことを理解していただきたいと思います。

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リサーチを実施する曜日や時間とそのリサーチ結果との関係についての話は面白いですね。この点については、後で触れさせていただきます。

定性ハイブリッド調査の事例

最後に、Rogers氏は定性ハイブリッド調査の事例を3つ紹介してくれました。いずれの事例もその調査設計は明日からでもすぐに使えそうなものです。今後の調査企画のご参考になるかと思います。

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最後にケーススタディを3つ紹介します。最初にお話ししたいのですが、これから紹介するのは弊社20|20で実施した事例です。しかし、20|20だけが実施できるユニークな事例ではないと思います。みなさんが普段お付き合いしているサプライヤーでも実施できるような事例だと思います。弊社の強みを紹介するというよりは、ハイブリッドリサーチの価値を理解してもらうために紹介したいと思います。

最初のケーススタディは中学生向けの学習補助プログラムに関する事例で、とてもシンプルな事例です。とある教育サービスを展開している企業が数学や科学が苦手な子供のために自分で勉強ができるプログラムを開発しました。学習プログラムといっても、オンライン上で学習するもので、そこにゲームの要素を取り入れ、楽しみながら数学や科学の実力が身につくといったようなものです。しかし、このプログラムを成功させるのは、様々な要素を洗練させる必要があります。購入に興味を持ち購入(プログラムへの入会)決定するのは、子供の両親なので、両親を説得するようなマーケティングプログラムを考える必要があります。しかしながら、そのプログラムを実際に利用するのは子供です。当初は子供が数か月でプログラムに興味を失ってしまい、せっかく入会した人が退会してしまうケースが多発していました。

そこで実施した定性ハイブリッド調査は次のようなものです。まず、会場で両親に集まってもらい従来型F2Fグループインタビューを実施しました。そこでは、このプログラムに対する興味や実施している入会キャンペーンの評価などがディスカッションされました。そして、このプログラムの無料体験クーポンを渡して、4週間その子供にプログラムを体験してもらいました。そして4週間後にWEBカメラをつかったオンラインインタビューで親と子供に、そのプログラムの評価を聞きました。WEBカメラをつかったオンラインインタビューにしたのは、親と子供に一緒に会場に来てもらうのは大変で協力率が下がると考えたからです。オンラインインタビューだと、親子は自宅からインタビューを受けることができるので、協力率が高くフォローアップインタビューが実施できました。また、このフォローアップインタビューによって、この企業はプログラムのメカニズムに問題があることを理解し、改善すべき点を見つけることができました。

次のケーススタディは我々が「Supercharged Shop-along/スーパーチャージドショップアロング」と呼んでいるものです。実際、このようなスタディはとても多く実施しています。ショップアロングという手法は、コンテクストを踏まえて購買行動を理解するためのグレートな手法です。このケースではある食品メーカーが、ある食品カテゴリーの店頭購入決定がどのようになされているのかと、その購買行動に普段の調理スタイルがどのように影響しているのかを理解したいと考えていました。単発の調査では、店頭での購買行動と、自宅での調理スタイルの両方を理解することはできません。従来のショップアロングだけでは、店頭の購買行動は理解できても、それが自宅での調理スタイルがどのように影響しているのかが理解できないのです。

そこで実施したのがビデオダイアリーとショップアロングの定性ハイブリッド調査です。まずはビデオダイアリーで、1週間の調理を記録してもらい、どのようなシーンでどのようなメニューを選びどのように調理しているのかを理解しました。そして、その後ショップアロングを実施しました。ここで大事なのは、まずはこのビデオダイアリーを30人実施して、その中からショップアロングに参加する人を3名選んだということです。ビデオダイアリーなしでショップアロングだけを3名実施していたのであれば、その3名からどれほど有益な情報が得られたか保証はできません。そかしながら、最初の30名のビデオダイアリーから、3名のショップアロング参加者を選択することによって、3名すべてから有益な情報を得ることができました。リサーチャーとクライアントは第一弾のビデオダイアリーで、様々な調理スタイルがあることを理解できました。引き続きのショップアロングで彼らは、それぞれの対象者がこのような調理スタイルだから、このような店頭での購買行動になるということを結び付けて理解することができたのです。

3つめのケーススタディはあるアウトドア用品メーカーのケースです。そのメーカーは、消費者の中に自社ブランドと競合ブランド間違って認知されたりして混乱が起きているのではないかという懸念をもっていました。そこで、まずは定量的なインターネットリサーチを行い、自社ブランド、競合ブランドの認知やブランドに対する好意度やイメージを測定しました。そしてその後、自社ブランド所有者と競合ブランド所有者、各30人を招いて、オンラインジャーナルや掲示板ディスカッションを行いました。その際に実際に家にある当該カテゴリー製品の写真収集を行い、認知の間違いや混乱の実態を確認しました。最後に、収集した写真から自社ブランドと競合ブランドを所有しているのがわかった対象者を会場に呼んでF2Fインタビューを行い、両ブランドに対する認識や混乱の理由を確認しました。このプロジェクトを通してクライアントは混乱の実態を理解し、解決のためのプログラムをスタートする必要性を痛感しました。

以上、定性ハイブリッド調査の3つのケーススタディを紹介させていただきました。この3つのケーススタディから定性ハイブリッド調査の有効性をご理解いただけたのではないかと思います。

最後に、今日のまとめです。ハイブリッド定性は、我々にとって新しいオポチュニティです。そこには大きなドアが開かれています。デジタルテクノロジーの進化は、様々なリサーチ手法の組み合わせを可能にし、それよって今までは出来なかった消費者理解が可能になってきています。私は、近い将来、ほとんどの定性調査プロジェクトは定性ハイブリッド調査になると考えています。また、多くのリーディングクライアントが、定性ハイブリッド調査の価値に気付いてきている様子を目にしています。定性ハイブリッド調査は、我々をインサイトの新しい世界に導き、今までわからなかったことを理解させてくれることでしょう。

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今、定性ハイブリッド調査がアツい!

以上、20|20社のWebinarより、今、海外では「定性ハイブリッド調査がアツい」という話を紹介させていただきました。個人的にはクロージングでRogers氏が語っていた「近い将来、ほとんどの定性調査プロジェクトはハイブリッドになると考えています」という言葉が印象的でしたが皆さまはどう思いますか。

最後に、私の方から3点補足をさせていただきたいと思います。

一点目は、複数の定性調査を組み合わせるということ自体は決して新しい発想ではないということ。ご存知のように、これまでも、従来型グループインタビューやデプスインタビューにおいて事前課題として紙で日記を記入してもらうといったことはありました。ただ、その準備や実施に結構手間や時間がかかるためタイトなスケジュールや予算に見合わず、その有効性は認識されつつもそれほど頻繁には実施されてこなかったというのが実情ではないでしょうか。

それが様々なオンライン手法の登場により簡単に実施できるようになりつつあり、それが、現在(米国において)定性ハイブリッド調査がアツくなっているのだと考えます。定性リサーチャーにとっては、様々な消費者理解のための武器が簡単に手に入るようになった良い時代が来たと言えるのかもしれませんね。余計な仕事が増えて大変な嫌な時代になったと考えるオンライン否定派の定性リサーチャーの方もいるかもしれませんが(苦笑)。

二点目として、従来型+オンライン定性のみならず、デジタル/オンライン定性同士の組み合わせによるハイブリッドも有効であるということを指摘させていただきたいです。Rogers氏はWebinarで定性ハイブリッド調査とは「一人の対象者に従来型F2Fインタビューとオンライン/デジタルでのリサーチを実施すること」と定義しましたが、これは20|20社が従来型グループインタビューの施設も運営しているという大人の事情(?)からの発言かと想像します。従来型F2Fインタビューを組み合わせることなくとも、様々なオンライン定性手法の組み合わせにおいても同様に、「深い理解」、「柔軟性」、「コストや時間の節約」が得られるのではないでしょうか。弊社のWEBカメラを使ったオンラインインタビューも他のオンライン手法(オンライン日記やモバイルエスノ等)と組み合わせが増えております。それこそコミュニティーメンバーに様々なオンライン定性調査を実施するMROCは、定性ハイブリッド調査そのものと言えるのではないでしょうか。

三点目は、リサーチを実施する曜日や時間とそのリサーチ結果との関係について。この問題は、現在のリサーチ業界ではほとんど無視されているかと思いますが、今後、定量においても定性においても、もっと考えないといけないかもしれない課題のように思いました。そういえば、以前紹介した「アカウントプラニングが広告を変える」という本の中に以下のような話がありました。

「クエルポというテキーラのブランドが、、クエルポがクラブやノリノリのパーティーで若者に飲まれることを意識した「GET NAKED-裸になれ」」という広告キャンペーンの調査を行った。水曜日の朝、サンディエゴのショッピングモール。この時間にショッピングモールにいる人はどのような人なのか想像してほしい。彼らが35歳以下でクエルポを飲んでいるとしても広告がターゲットとする若者たちのオピニオンリーダーだとはどうしても思えない。オピニオンリーダーたちはもっと違う場所でずっと面白いことをしているであろう。百歩譲って彼らがオピニオンリーダーだったとしても、水曜日の10時だ。金曜日の夜とは気分がまるで違うのは容易に想像がつくというものだ。GET NAKEDという情感に訴える広告が、理性的な尺度によって無味乾燥な場所で、間違った時間に、調査員にふさわしくない人々(大柄で感じの悪いオバちゃん)の手によってテストされたのだ。このような調査でよい結果が出るわけがない。」

今後発表される20|20社の研究結果の発表が楽しみです。

以上、今回は定性ハイブリッド調査についてのお話しでした。タイトルのように、今海外では定性ハイブリッド調査がアツいようです。このアツさが、日本にも伝わる日も近いと思いますが、皆さまどう思われますか。