ゼネラルミルズ:リサーチの80%はモ・バ・イ・ル・・・の続き

今回は、約2年前に書かせていただいた「ゼネラルミルズの調査の80%はモ・バ・イ・ル」の続きです。2年前の記事をお読みになっていない方は、まずこの記事をお読みいただいてから、今回の記事をお読みいただければと思います。

2年前の記事では、米国ゼネラルミルズ社が2014年、全社のリサーチにおいてモバイルリサーチの割合を80%にすることを目指しているということを紹介させていただきました。そして、時は過ぎ、今は2015年。ゼネラルミルズ社のモバイルリサーチは、その後はどうなったのでしょうか。

2014年度のMRMW(Market Research in the Mobile World-モバイルリサーチ関係者のグローバルカンファレンス)において、ゼネラルミルズ社のRyan Backer氏が「To mobile & beyond – General Mills’ pursuit of richer insights via technology – General Mills」というタイトルでゼネラルミルズ社のリサーチのその後を紹介してくれました。今回はそのプレゼンテーションの内容を紹介させていただきます。

To mobile & beyond – General Mills’ pursuit of richer insights via technology – General Mills
  Ryan Backer
  Global Consumer Insights, Emerging Technologies General Mills, Incorporated

(プレゼンテーションのビデオはこちらです)
https://vimeo.com/109917611

ゼネラルミルズ社リサーチの過去5年の取り組み

今日はマーケティングリサーチの現代化について話をしたいと思います。そしてゼネラルミルズのリッチなインサイトを獲得するための、新しいテクノロジーを使った取り組みを紹介したいと思います。もちろん、その取り組みにおいてモバイルは大きな部分を占めます。しかし、モバイルを超えた新しいテクノロジーもあります。

まずはゼネラルミルズの過去5年間の取り組みを紹介します。2011年、我々はモバイルテクノロジーのマーケティングリサーチ活用の可能性に気づきました。そして、それからの我々の取り組みに関してはAndyが数年前のアムステルダムのプレゼンテーションで紹介した通りです。Andyは様々なサプライヤーと共に我々のモバイルリサーチを進化させてきました。そして2013年の最後には、我々はかなりのことを成し遂げたと感じました。Andyは、このMRMWのプレゼンテ―ションで2014年までに弊社のリサーチの80%をモバイルにすると宣言しましたが、2013年の最後には、この目標にかなり近づいたと思います。そして2014年、我々は新たなステージに進む必要があると考えました。2014年、我々ゼネラルミルズのモバイルリサーチチームは解散し、Andyも職を離れ、私がリサーチチームのヘッドに就任しモバイルの次のテクノロジーを探索するようになりました。

なぜモバイルリサーチなのか?

なぜ、我々がモバイルにフォーカスし、80%というゴールをたてたのか。理由は3つあります。一つ目は、我々が「そうしなければいけない」と感じたからです。世界中のモバイルの普及状況を考えると、消費者にアクセスするためには、この機器を今後使わざるを得ないと感じたからです。例えば2012年、我々のネットリサーチにどのような端末からアクセスしているかを調べたら30%がモバイルでした。しかし、その当時のサーベイは全くモバイルフレンドリーではありませんでした。45問あって回答するのに30分かかる・・・このような調査で、モバイルで回答者が回答を完了せずに途中で脱落していくのを目のあたりにしてきました。またグローバルということを考えても、モバイルを利用する必要性がありました。

二つ目の理由は我々がモバイルを「使いたかった」からです。我々はイノベーションを重視する会社であると同時に、消費者のことを最優先で考える会社です。これをリサーチという視点で考えても、消費者を会場に呼びつけたり、モデレーターや赤の他人が消費者の自宅に踏み込んだりといったことよりも、モバイルを使った方が消費者にやさしいのではないかと考えたのです。同時にモバイルの持つ写真やビデオを使ったコンテクストを理解するリサーチの可能性にも魅かれました。

そして、もっとも重要なことはモバイルでは記憶ではなく記録のリサーチが出来るということです。例えば、我々が新しい朝食用スナックの調査をしようとします。そこで我々が知りたいのは、朝食に何を求めているのか、なぜ、いま朝食にそれを食べているのかということです。それを記憶ではなくin-the-moment、まさにその瞬間に理解したいのです。それが出来るのはモバイルだけです。

三つ目の理由は、我々が「それが正しそう」と感じたからです。(紙と鉛筆のアンケートとグループインタビュー会場の写真を見せながら)この写真をみると1980年代かと思ってしまいます。一方で(スマートフォンで撮ったキッチンの棚の中の商品群を見せながら)こっちの写真をみるとスマートで、モダンで・・・リサーチはこうあるべきだ、このようなリサーチをしたいと感じたのです。

例えば、この写真(先ほどのスマホで撮ったキッチンの棚の中の商品群)・・・我々はNature Valley(ゼネラルミルズ社のグラノーラスナック製品)の競合はどうなっているのかを理解したいと考えていました。それまではアンケートのクローズエンド設問で、競合になりそうな商品のリストを提示してチェックしてもらうといったようなことをしていましたが、このように対象者にパントリーの写真を撮ってもらうと非常に有益でリッチなインサイト溢れる情報が得られます。

それ以外にも我々のショッパーインサイトチームは、常に小売店から、棚をどのように構成したらよいかといった相談を受けます。それまでは、そのような相談に答えるのは簡単ではなかったのですがモバイルテクノロジーを使うことによって、「先週、消費者がお店に行ってフラストレーションを感じたのはこういう棚で、満足度を感じたのはこういう棚で・・・」といった100の例を簡単に示すことが出来るようになりました。

消費者がある瞬間に感じたフラストレーションや不満は、○月△日の15時に●●の会場でといった時間が経ったときに行われるインタビューで理解するのはとても難しいことです。なので、モバイルを使って、その瞬間の気持ちや不満をビデオや写真に残してもらうことは非常に有効です。例えば、我々は家庭で開くホームパーティーでの準備がどのように大変かを理解し、われわれの製品で何か解決できることがないかを探りたいと考えていました。その時にモバイルを使って、対象者に様々な瞬間をビデオ撮影してもらいました。その時のビデオがこれです。(対象者の自撮りビデオを流す)・・・このような有益な情報を得ることができました。

このように我々はモバイルに関して様々な取り組みを行いGEMO(Get Enough Move On)、充分にやったので次に進もうと考えたのです。もちろん完ぺきではありません。でも、モバイルに関してはかなり成し遂げたとも考えました。2013年の最後にはモバイルリサーチチームには6人のフルタイムの担当者がいました。彼/彼女たちは社内のブランドチームの様々なリサーチニーズに対して、このリサーチにはモバイルが最も適しているといったアドバイスを行いながら解決していました。また、モバイルリサーチのパートナーやサプライヤーもみつけ、機能的なモバイルリサーチ実施体制ができあがっていました。また社内で、様々なモバイルリサーチの事例が共有されたりしてモバイルリサーチは、我々のカルチャー(当たり前のもの)になっていました。

モバイルリサーチのアドバンテージと難しさ

モバイルリサーチが特に活躍したのは3つのエリアです。まずは先ほどビデオを見てもらったようなエスノグラフィ。瞬間をとらえることが出来るのでリッチなインサイトが得られるのと共に、地域を選ばないという点も大きいです。全米各地にモデレーターを派遣してインタビューをするなんてことはとても大変です。モバイルは全米、全世界の対象者とこの場で繋がることができます。

二つ目はジオインターセプト。これは、我々にとって最大の変化をもたらしたものといえましょう。例えば、Tesco(スーパーマーケットチェーン)の周りにジオフェンスを張って、モバイルのパネリストがジオフェンス内(Tesco)に来たらモバイルプッシュ通知で「あなたは今Tescoにいますね。調査に参加いただけますか?参加頂くと今日のお買い物に使えるディスカウントクーポンを差し上げます。」といって調査参加を依頼することが出来ます。それによって我々な「自然な」買い物行動を捉えることができショッパーインサイトを理解できる
ようになりました。

最後はInstant A&U(Attitude & Usage)です。瞬時に、2時間以内に消費者の態度や実態を捉えることが出来るようになりました。

一方で、様々な困難に立ち向かわなければならないこともありました。最初の一つは、リサーチのユーザーがこれまでのマインドセットを簡単に変えることができないということでした。例えば、ブランドチームの担当者が、我々のところにやってきて、これまでの45問の調査票はモバイルでできないのか・・・出来ないのなら使えないと主張するのです。モバイルを使うということは従来の手法を180度変える必要があります。そして、それを受け入れる必要があります。また、こんなこともありました。従来のPCで実施していた調査をモバイルで置き換えたところ、ブランド担当者から、「これまでの結果と違う。これダメじゃないの?」って質問もありました。
しかし私はこれまでのPCによる調査結果とモバイルの調査結果が違うことにエキサイトしていました。なぜなら、それはこれまで間違っていた結果が本当の正しい結果(真実)に近づいたということだからです。記憶ではなく、真実の瞬間を捉えたデータを得ることができたのです。

二つ目はマルチメディア・パラリシス(まひ)です。モバイルを使えば、数時間の間に数百の対象者から写真やビデオを集めることができます。しかし、現在、それを分析するのは人間の力に頼るしかありません。何時間もかけて、全ての写真やビデオを見るのはとても大変な作業です。

三つ目はDIYソリューションの登場です。これの何が問題かというと、経験の浅いリサーチャーやブランド担当者でも簡単にリサーチが出来てしまいます。しかし彼らが、あまり考えずにモバイルDIYリサーチを実施すると当然、結果はおかしなものになります。そうすると、モバイルリサーチそのものが、「ゴミのデータしか集められないんじゃないの・・・」という悪評が立ってしまったこともありました。

モバイルリサーチの次のチャレンジ

さて、このような経験を経て、我々のモバイルのチャレンジはピークに達しました。そして次のチャレンジに移るときがきたのです。先ほどお話ししたように、我々の6人いたモバイルチームは解散しました。しかし、これは特別なことではありません。我々はネットリサーチチームがあるわけではありません。紙と鉛筆でリサーチをするチームがあるわけでもありません。モバイルは我々にとってあたりまえの手法になったということです。繰り返しになりますが我々はモバイルを我々のリサーチの80%にするという目標を立てていました。正直に言うと、我々のリサーチの80%がモバイルになったわけではありません。しかしながら、我が社のリサーチに関わる者の80%以上がモバイルを経験したことは間違いありません。また、我々は素晴らしいサプライヤーを見つけました。今は、ブランドチームがそのサプライヤーと直接仕事をすることも増えているので、リサーチチーム内にモバイルのスペシャリストを抱える必要もありません。

とはいえ、我々がまだまだサプライヤーに期待することも多々あります。まず真にグローバルなモバイルパネルを提供するサプライヤーがないということです。我々は、未だにあるマーケットで出現率が低いターゲットの調査で苦労することが多々あります。もっとグローバルなパネルを提供するサプライヤーが現れることを期待します。

二つ目は、これからも、もっともっとモバイルに関する新しいテクノロジーが出てきて欲しい、サプライヤーに提供してもらいたいということです。

三つ目は、サプライヤーにもっとフルサービスを提供する能力を高めて欲しいということです。先ほど述べたように、今、ブランドチームはサプライヤーと直接仕事をするようになったので、これはとても重要です。私の感触では、素晴らしいテクノロジーを持っていて、リサーチ業界に参入してきた企業は、リサーチのスキルが低いと感じています。一方で、従来のリサーチ会社は、リサーチスキルは高いがテクノロジーを取り入れることは遅れている。例えばエスノグラフィを依頼する定性調査会社にはストーリーテリングやインフォグラフィックで報告してもらいたいと思っています。

さて、では我々は次に何をしようと考えているのかをこれからお話しします。(3Dプリンターの写真を示しながら)これは何だかわかりますか?これは3Dプリンターでウエディングケーキを作っている写真です。我々のチームはモバイルだけではなく、3Dプリンターのような新しいテクノロジーをリサーチに取り入れられないかを日々、研究しています。

特に我々のチームがフォーカスしているのは3つです。一つ目はスマートフォンのような既存のテクノロジーの新しい使い方がないかを考えています。例えばゲーミフィケーション。ゲーミフィケーションと言っても、これまでの10ポイントスケールを10個のスマイルによるスケールに変えるといったようなことではありません。対象者がゲームをすることによって、その中にインサイトが見つけられないかみたいなことを考えています。先ほど話したジオフェンシングを利用した対象者のロケーションをベースにしたリサーチにも興味があります。

二つ目は新しいデータストリーム。今、米国ではモニターがスマートフォンで買い物のレシートをスキャンすればその情報が集まりデータベース化される・・・IRI社やニールセン社が提供しているのと同じようなデータを提供する会社があります。それと共に商品のフィードバックも一緒に集めることができれば、我々にとってそのデータの価値は計り知れないものになると考えています。また、そのデータと各モニターのダイエットやフィットネスや天気の変化に関するデータを組み合わせたりすることが出来ればとても面白いものになるのではないかと考えています。

三つ目は新しいテクノロジーです。(写真をみせながら)これは何か知っていますか。約3センチの正方形の機器なのですが、30秒間隔で自動的に写真を撮ることができます。これをエスノグラフィに使えないかと考えています。また(次の写真をみせながら)冷蔵庫の前面にiPadが設置されていて、iPadで冷蔵庫の中身の移り変わりを記録したり、iPad上にメニュー提案が出たりするようなものですが、こういうテクノロジーもリサーチに活用できるのではないかと考えています。

このように、これからリサーチに活用出来そうなテクノロジーは、世の中に沢山あふれています。それはSFの世界の話ではありません。現実なのです。そして、我々は新しいテクノロジーを活用して新しいチャレンジを行い時代に進むべきなのです。従来のアンケート調査やフォーカスグループから卒業すべきなのです。そうすれば、もっと短い時間で、もっと安価に、よりリッチなインサイトを得ることができるようになるでしょう。

(プレゼンテーションはここまで)



以上、昨年行われたMRMWにおけるRyan Backer氏のプレゼンテーションを紹介させていただきました

最後に私の方から何点か補足させていただきます。まずはゼネラルミルズ社について。ゼネラルミルズ社の概要は以前の記事で紹介させていただいているので省略しますが、世界中のリサーチ関係者は同社をとてもイノベーティブな会社と考えているようです。おなじみのGRIT(Greenbook Research Industry Trend study)の最新版によるとゼネラルミルズ社は、Most Innovative Market Research Clientsのランキングで Procter & Gamble社、Coca Cola社、Google社、Unilever社に次ぐ5位にランクされており、以下のように紹介されています。

「ゼネラルミルズは自らが新しいテクノロジーを積極的に採用するのみならず、他の会社が新しい技術やテクノロジーを利用するためのベンチマークを作ろうとしているという点で、他社とは一線を画す存在であると認識されている。また同社は、そのアプローチが大胆かつリスクを取るという点で、そしてそれはイノベーションを起こすのにとても重要な側面であるという点で、多くのリサーチ関係者からの称賛を集めている。」

二つ目は3Dプリンターについて。ゼネラルミルズ社は3Dプリンターをリサーチにどのように活用できると考えているのでしょうか。この点に関してはプレゼン終了後のQ&Aセッションで聴衆からもう少し詳しく教えてという質問があり、Backer氏が次のように答えていました。

「3Dプリンティングの使い方・・・例えばカリフォルニアに簡単に自動販売機を作成できるような3Dプリンターを扱っている会社がある。これを、例えば対象者に利用してもらい、理想のチョコレートの自動販売機をデザインしてもらったりしたら・・・これはとても簡単で楽しい作業なのだが・・・どのような機能やデザインが求められているのかといったインサイトを得ることができる。そう、このような利用方法は消費者とイノベーションを繋ぐパイプラインといえるでしょう。」

ちなみに、この3Dプリンター私も注目しています。といいつつ、3Dプリンターのことを詳しく知っている訳ではないのですが(苦笑)。前回の記事でIDEO社が行っているプロトタイピングについて書かせていただきましたが、このプロトタイピング作成に3Dプリンターは大いに役立つのではないかと思うのですがどうなのでしょう。上手く活用できればリサーチ会社もIDEO社みたいなリサーチが出来るのではないかと(たぶん)。

三つ目は、プレゼンの最後に出てきた30秒間隔で写真が撮れる約3センチの正方形の機器について。これは、キングジムさんが出しているレコロみたいなものだと思います。

http://www.kingjim.co.jp/sp/recolo_ir7/

レコロは確かにエスノグラフィに使えそうな気がしますね。また、売り場を終日撮影させてもらって、その売り場に来た客数や購買者数、それが男性なのか女性なのかをカウントするみたいな、これまで苦労していた調査も簡単になりそうな気がするのですがどうなのでしょうか。

以上、今回は「ゼネラルミルズの80%はモ・バ・イ・ル」の続きの話を紹介させていただきました。