なぜ一流の定性リサーチャーは プレゼテーションにビデオを活用するのか?

みなさんは、定性調査の結果報告をどのように行っていますか?

リサーチサプライヤーの方はクライアントに対して、リサーチユーザーの方は社内の様々な関係者に対して調査結果を報告する機会が多々あるかと思います。その際にはパワーポイントを使うという方がほとんどかと思います。しかしながら、今回はこの定性調査の結果報告にビデオをもっと活用してみてはいかがでしょうという提案です。



※ 今回は以下の二つの記事を参考にさせていただきました。

「Live feeds and confessionals: Video brings qualitative insights to life」
Ed Knopp
Vice President, Automotive Research at MORPACE International



「Seeing is believing: Video Reports Make a Powerful Storytelling Tool」
Jinghuan Liu
New American Dimensions, llC

※両記事とも現在は削除されています

なぜ一流の定性リサーチャーはプレゼテ―ションにビデオを活用するのか?

Ed Knopp氏は記事の中でこのように書いています。

「ビデオはとてもパワフルなメディアで、プレゼンテーションに命を吹き込むためにとても重要なツールだ。リサーチユーザーの社内プレゼンテーションを考えてみよう。プレゼンテーションのオーディエンスが、プレゼンターのことを無視するのは簡単だが、彼らの真の顧客の声や姿を無視することは簡単ではない。」

またJinghuan Liu氏はこのように書いています。

「ビデオによるレポーティングはパワフルなStory Tellingなツールである。適切に撮影され編集されたビデオはプレゼンテーションの場において、パワーポイントでは表現できない、対象者の顔の表情の変化、ボディランゲージ、意思決定プロセス、感情や痛みといった、詳細かつ本質的な瞬間を描き出す。」

ビデオを使ったレポーティングには、パワーポイントでは伝えることが出来ないことを伝える力があります。そして一流の定性リサーチャーは、定性調査の報告において、このビデオの力を利用してパワーポイントでは得られないような納得感と共感を聴衆から獲得しています。

ビデオの活用が特に有効なのは、何かのプロセスを理解する調査であったり家庭訪問による探索的なエスノグラフィ調査を実施したりしたときでしょう・・・というか、このような調査の報告にビデオは必須ではないでしょうか。

少し前Liu氏は、バーベキュー用のチャコールを販売しているクライアントから、ヒスパニック系消費者においてバーベキューをする機会をもっと増やせないかという相談を受け、その際に行ったエスノグラフィ調査について以下のように書いています。

この課題を解決するために、我々はエスノグラフィ調査を企画し、数名のヒスパニック系消費者を対象とした調査を行った。バーベキューの準備の買い物シーン、用具準備のシーン、チャコールを使って火をおこすシーン、実際の調理シーン、実際に肉や野菜を取り分けて食べているシーン、グリルの火を消すシーン等のビデオ撮影を行い、その行動を観察・分析し、クライアントへの報告会で、そのビデオを編集して見せた。

チャコールから立ち込められた煙、そこで焼かれる様々な肉と野菜・・・大画面に映しだされたビデオをみているプレゼンテーションの参加者は食欲をそそられ、それだけで実際のそのバーベキューをしている場にいるような気分になった。グループインタビューの報告をパワーポイントで聞いているときには、このような気分には決してならないであろう。そして我々とクライアントは、このビデオの中からヒスパニック系消費者に特有なバーベキュー時の行動を見つけ出し、このセグメントのバーベキューをする機会を増やすために刺さりそうなコミュニケーションメッセージを見つけることができた。

またLiu氏はビデオが「ペインポイント(その製品の”弱点/泣き所”)を伝えるとき」、「センシティブなトピックを扱うとき」に有効だと述べています。

例えば、ある家電製品の調査において、対象者の自宅を訪問、対象者が実際にその製品を自宅で使用しているシーンをビデオ撮影しクライアントにそのビデオを見せたそうです。特に有効だったのが、対象者がその製品に対する不満を述べるシーンを編集したビデオ。対象者がその製品を使うのに苦労しながら、

「これ使いにくいな~」、「この機能は使えない、役に立たない」、「もうちょっと速くならないのかしら。いつもあきらめてしまうわ・・・」

といったシーンはクライアントの大きな興味・関心を引き、早速その改善対策が練られ、また新製品アイデアのヒントにつながったとのことです。確かに、これらの発言内容が、パワポのシート上にテキスト(文字)で書いてあるのを読んでも、クライアントはなかなか共感しにくいですね。それよりも実際の生活者が、顔を歪めながら、また荒々しい言葉やトーンで発言しているビデオを見た方が伝わることは言うまでもありません。

また、ビデオはセンシティブなトピックを扱うときにも有効です(これはプレゼンというだけではなく、実査手法の問題でもありますが・・・)。Liu氏は次のような指摘をしています。

家庭訪問型のエスノグラフィ調査においてクライアントから10名が家庭訪問に参加したいとリクエストされるはよくある話である。しかし、10人もの見知らぬ大群が自宅までやってきて、家の中をジロジロみられたり、写真をとられて、またその大群の前で、プライベートなことをインタビューされることを受け入れる対象者がどこにいるだろうか(そのようなことを許すのは、よっぽど、謝礼の魅力につられた対象者だけである)。ビデオカメラの存在は、観察者の数を最低限に抑えることができる。また三脚を使い、対象者が自分で撮影するスタイルにしたら、対象者のプライバシーを保ちつつリッチなデータを得ることも可能である。このようなスタイルのビデオカメラを使ったインタビューは、特に健康に関すること、ライフスタイルに関すること、宗教に関することといったようなセンシティブなトピックの時に有効である。

会場グループインタビューでのビデオの活用

ここまでは、エスノグラフィや行動観察調査の報告におけるビデオの活用について紹介させていただきました。ただし、先にも書かせていただいたように、このような調査においてビデオ撮影やビデオを使った報告は、当たり前と言えば当たり前で、皆様にとっては、それほど目新しい話ではないかもしれません。では、現在の定性調査で最も行われている手法である会場で行うグループインタビューにおいてビデオをどのように活用すればよいのでしょうか?以下に、会場グループインタビューにおけるビデオの活用について、Ed Knopp氏の提案を紹介させていただきます。

会場で実施されるグループインタビューではその様子がビデオ録画されるのが常である。しかしながら会場で実施されたグループインタビューのビデオを編集しても、必ずしもある製品についての本当の感情を伝えられるわけではない。会場グループインタビューで得られるグループによるフィードバックは、感情的というよりは、理性的なものになりがちで、ビデオによって消費者の真の姿を伝えるのは必ずしも簡単なことではない。また、グループインタビュー会場のカメラは、通常、参加者全員とモデレーターの姿を映しているものなので、編集したビデオは、プレゼンテ―ションの聴衆をインスパイア(刺激を与える)するだけのインパクトに欠けがちである。

では、会場グループインタビューを実施した場合、どのようにしたらインパクトのあるビデオを作ることができるのであろうか。我々は、参加者がプライベートルームに来て告白を行う、人気リアリティ番組、ビッグ・ブラザー
からヒントを得た手法を活用している。

※ ビッグ・ブラザーは昔オランダで放送されたとても人気のあった番組だそうです。ウィキペディアで見ると、テラスハウスみたいな番組のようです(ヤラセがあるかどうかは知りません(笑))。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%BC_%28%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E7%95%AA%E7%B5%84%29

番組内で見られる、参加者のルームメイトがいる時といない時の行動、発言、感情の表し方の違いはとても興味深いものである。キリスト教徒の教会における誰も見ていない中で行われる懺悔も(神様が見ていますが)、ホンネをさらけだすという点で同様に興味深い。これらの原理はシンプルである。我々人間は通常、社会的規範、つまり他の人が自分のことをどう見ているかを意識しながら行動し発言をしている。そして、自分がよく知らないアカの他人の前では、自分のホンネや真の感情をさらけださないのが普通なのである。

では、どうするのか。我々リサーチャーは、調査の参加者に、他の人が自分を見ているという社会的規範のバリアを取り除き、ホンネが言える環境を作り出してあげる必要があるのである。そのためには、会場グループインタビューを実施する時には、対象者が自分でビデオ撮影を行うことができるようなブースを用意し、誰も見ていない環境で30-60秒の「告白」をしてもらうといったことを組み合わせて行っている。参加者は、ブース内で、こちらが投げかけた質問に対して、自分でビデオの録画ボタンを押して、自分で停止ボタンを押して、質問に対する回答を「告白」してもらうのである。

この手法は、新しいパッケージデザインを評価してもらうといったような製品テストにおいて特に有効である。ビデオ撮影ブースの机の上にシートをかけたテスト製品を置いておき、対象者に録画ボタンを押してもらい、その後、そのカバーを取ってもらい、そのテスト製品について感じたことを語ってもらうのである。

このように撮影されたビデオには、グループインタビューでは得ることができない、対象者のユニークなキャラクターや、テスト製品に対する率直なリアクションや意見が表現されていることが多い。そして、このビデオ映像は調査結果の報告プレゼンテーションにおいて、とても使いやすく、また聴衆をインスパイアするインパクトを持っているものになっているのである。

ちなみに、最近は自撮りした映像をYouTubeにアップするみたいなことも当たり前になってきているので、対象者も、我々が実施しているこのビデオ撮影を結構楽しんでやってくれている。

インパクトのあるビデオストーリーの作り方

ここまでは、定性調査結果の報告におけるビデオの有効性について書かせていたあだきましたが、実際に、プレゼンテーションにはどのようなビデオを準備すればよいのでしょうか。最後に、Liu氏が紹介している、調査結果報告プレゼンテ―ションで使うビデオ作成のためのTips(コツ)を紹介させていただきます。

Tips1:ストーリーを作ろう

あなたの作るビデオはストーリーを語るものでなくてはならない。このストーリーは、例えば、普通の生活者が、日常生活の中で、ある製品やサービスにどのように関わっているのかというようなものである。プレゼンテーションに参加している人はストーリーを記憶に残す・・・記憶に残るのは戦略やスローガンや製品のタグラインではない。オバマ大統領が全米の国民に医療保険制度の改革を訴えたときのことを覚えているだろうか。彼は、仕事を解雇されて保険を失ったため充分な医療を受けることが出来なかったという、ある女性のストーリーを利用して国民を説得することに成功したのだ。

Tips2:最初の30秒に集中しよう

あなたは、プレゼンテーションの参加者が、あなたが思っている以上に忍耐強くないということを覚えておかなければならない。特にビデオを使ったレポーティングでは最初の30秒が重要だ。あなたはこの最初の30秒で、あなたが、そのプレゼンテーションを通して伝えたいメッセージを伝えなければならない。例えば、今回調査されたその化粧品は、今回の対象者であるハナコさんにとっては、単に肌をケアするものではなく、自分に対して自信を与える存在である・・・みたいな。

それには、対象者が悩んでいることや、疑問に感じていることからスタートするのがよい。対象者が悩んでいることや疑問に感じていることを大胆な言葉で表現しよう。

例えば・・・

  • 「私の夫と私は貯金口座を別々にしている。なぜなら・・・」
  • 「私は禁煙したいと思っている。でも、禁煙サポートのツールは役に立たないと思っている」
  • 「私は、すべてのヨーグルトはどれも同じだと思っているのだが・・・」
  • 「この製品のこの機能はどう使えばいいの?」
  • 「このサービスはいくらするのだろう?私でも利用できるのだろうか?」

ビデオがこのようなタイトルからスタートすると聴衆をひきつけることが出来るであろう。

Tips3:聴衆が対象者に共感しやすい映像を撮影しよう

対象者を撮影する際には、ビデオカメラの位置を対象者レベルに合わせることを意識しよう。特に子供を撮影するときは上からの角度になりがちだが、子供の目線に合わせて撮影しよう。また、あなたが話を聞いているシーンを撮影するときは、辛抱強く対象者の話を聞くように心がけよう。あなたはビデオの最初に、対象者の紹介を入れたいかもしれない。紹介シーンでは、対象者の笑顔のシーンを利用しよう。また対象者紹介では、デモグラフィク情報(例:年齢25歳、年収300万円)や趣味みたいな情報をテロップで入れることも聴衆が対象者を理解し共感することに役立つ。対象者の家族を紹介したいときは、単に言葉だけで対象者に紹介してもらうのではなく、対象者に家族で映っている写真を借りて、それを見ながら紹介してもらおう。

Tips4:対象者の行動背景を意識して撮影を行い、ストーリーを作ろう。

もしもあなたが食品に関するプロジェクトを行っているのであれば、対象者のキッチンやパントリー、冷蔵庫の中も一緒に撮影しよう。もし、洗濯用洗剤のプロジェクトを行っているのであれば、洗濯機のある部屋全体を撮影して、どのように洗濯機を設置しているのかを撮影しビデオで紹介しよう。また出来る限り、対象者だけではなく家族全員を撮影して、対象者の行動背景が理解できるようにしよう。例えば、対象者に小さい子供がいる場合は、洗剤を子供の手に届かないところに置いてあるみたいな。パンケーキミックスの調査において、もし対象者が卵をレシピにある2つではなく3つ使ったら、その理由が理解できるようなビデオを作ろう。卵を3つ使うことによって、もっと栄養価を高めたいの?もっとしっとりさせたいの?家族が好きだから?家族が好きなのであれば家族にも撮影に加わってもらって、なぜ好きなのかを語ってもらいそれを撮影させてもらお

Tips5:あなたの全体ストーリーを、いくつかのチャプターに分けて構成しよう。また、各チャプターをそれぞれのBGMでスパイス付けを行うことによって、各チャプターの違いを明確にしよう。

例えばあるスポーツウエア会社のクライアントに対して、あなたはエクササイズが人々の生活とどのように結びついているかというストーリーを表現したいと思うかもしれない。その場合、最初のチャプターはある対象者の日常のエクササイズの習慣から始まるかもしれない。次のチャプターは、これまでに彼女が行ってきたワークアウトの歴史となるだろう。そして、これまでにワークアウトが彼女にどのようなポジティブな変化を与えてきたかを紹介する。次のチャプターでは、これまでのワークアウトの歴史がどのようにスポーツウエアブランドの選択に影響を及ぼしてきたかを紹介する。そして最後のチャプターでは彼女の様々なスポーツウエアブランドに対する好みやパーセプションに関するインタビュー映像を流す。「来月参加予定の○○マラソンでは、A社のウエアにするわ!」。

各チャプターのビデオには、そのストーリーのムードや雰囲気によって、アップビート、メランコリー、トランセンデンタル等のBGMを加えよう。BGMは話されている言葉と、言葉にならないイメージのギャップを埋める。またビデオ全体を楽しく、また記憶に残るものにする。

以上、今回はなぜ一流の定性リサーチャーがプレゼテ―ションにビデオを活用するのかと、ビデオ活用における様々なポイントを紹介させていただきました。この記事を読んでいただいている一流リサーチャーの皆様、次回の定性調査のプレゼンテーションではビデオを活用しようと思いましたでしょうか?

ただし、ここで大きな問題がひとつ残っています。ビデオの編集は難しく、面倒くさいということです。ビデオの映像編集は特別なソフトがないと出来ませんし、手間がかかる作業なので、慣れていなければとても時間がかかります。多忙な一流リサーチャーには、自分でビデオを扱って編集をしている時間はありませんね・・・

大丈夫です。

定性調査維新の会では、多忙な一流リサーチャーの方々に代わって、定性調査ビデオの加工・編集をさせていただきます。ビデオ編集に手慣れたスタッフによる、低料金な定性調査の撮影ビデオの映像編集・加工サービスは、これまでに数多くのお客様にご利用いただいております。次回のプレゼンテ―ションでビデオを活用したいと考えている一流リサーチャーの方は、ぜひ弊社までご相談ください。

あっ、自分はまだ一流ではないと思っている謙虚なリサーチャーの方からのご相談も大歓迎です(笑)。