Google Consumer Surveyのコロンブスの卵

この5月に「リサーチ業界に黒船襲来か?Google Consumer Survey」という記事を書かせていただきました。今回はその続編ということで、Google Consumer Surveyのその後の動きについて書かせていただきます。定性調査ファンの皆様、定量調査の話ですいません。

(前回記事をお読みでない方は、まずこちらをお読みいただければと思います)

5月の記事中では、Google Consumer Survey(以下GCSと略します)が2014年中に日本でもサービスをスタートさせるというPaul McDonald氏(GCS開発責任者)の言葉を紹介させていただきました。その後、どうなったかというと、ご存知の方も多いかと思いますが、GCSは10月にGoogleアンケートモニターというAndroidアプリをローンチし、スマホアンケートモニターの募集を始めています。

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.google.android.apps.paidtasks&hl=ja

米国でスタートしたパブリッシャーと組んだPC利用者を意識したビジネスモデルとは異なるようですが、これからのスマホ時代を見越し、またAndroidというプラットフォームを持つ強みを生かしたビジネスモデルで日本市場を攻めようとしているようです。

そんな中で、GCSが推進しているのが、10問以内の短い調査であるMicro-surveys(マイクロサーベイ)。彼らはアンケート調査の質のこだわるのなら、アンケートでの質問数は10問以内にすべきだと強く主張しています。これは既存のリサーチ会社との差別化を図るための手段として主張しているのだとも考えられなくもないですが、何十問ものアンケートに答えようとしても、5問くらいから既に嫌になってくる、集中力と粘り強さのない(?)私からすると結構、共感出来る面もあります。

とはいえ、一方で、GCSの既存およびポテンシャルのクライアントからは、やはり、「もっと質問数を増やせないの?」という強い要望があるようです。それはそうですよね・・・。

先日、GCSはこの「質問数を増やせないか」という要望に対して、コロンブスの卵的な発想の解決策を発表しました。この解決策を聞くと、皆さんの中には、「なあ~んだ」思う人もいるかもしれませんが、私としては、この解決策を聞いたとき、その柔軟な発想に「すばらしい~」と思ってしまい、本メルマガでぜひ取り上げたくなってしまいました。

今回は、11月に実施された「Google Consumer Surveys 2.0: Deeper Data through Innovation, Not Longer Surveys」というWebinarの内容を紹介させていただき、GCSによるマイクロサーベイの質問数制限の問題に対する解決策を紹介させていただければと思います。

(Webinarはここから見ることが出来ます)
http://www.greenbook.org/marketing-research/google-consumer-surveys-2.0-deeper-data-through-innovation-not-longer-surveys-1015649

Google Consumer Surveyのポリシー

※ ここからはWebinarの内容を私が翻訳させていただいたものとなります。内容について一部端折っている点があること、ご了承ください


「Google Consumer Surveys 2.0: Deeper Data through Innovation, Not Longer Surveys」

+ Monica Plaza
Head of Sales and Business Development

+ Paul McDonald
Product Manager a& GCS co-founder


<Monica>

今日は私、Monica PlazaとGCSのプロダクトマネジャー兼、共同ファウンダーのPaul McDonaldがスピーカーです。今日のタイトルは「Google Consumer Surveys 2.0: Deeper Data through Innovation, Not Longer Surveys」でGCSの今後を紹介させて頂きたいと思います。

最初にお話しさせて頂きたいのは私たちGCSのポリシーです。2012年春にGCSをローンチして以来、私たちはサーベイをシンプルに短くし、対象者が快適に回答できるようにすることによって、調査に対してのエンゲージメントを高めることにフォーカスしてきました。そして、そのことによって品質の良いデータを得ることに注力してきました。一方で、クライアントのいくつかの調査案件において、我々のこのような品質を求める姿勢が、その調査目的を達成するための障害となっていることも理解しています。

クライアントから一番多く言われることは、GCSにおける10問という質問数の制限に関してです。我々はクライアントから「もっと多くの質問が出来なのか?」、「調査票の長さをもう少し長く出来ないのか?」という質問を頻繁にうけます。我々GCSは、このような質問に対して、単純にGCSの回答数制限をなくすことが、最適な解決策だとは考えていません。回答の質を保つために、もっとGoogleならではのスマートな解決策を提供したいと考えています。

我々は「モバイル」+「データテクノロジー」がスマートなサーベイを実現するカギだと考えます。最近、「GRIT2014秋版」が出されました。その中で「2015年のリサーチ業界に最も影響を与えるのは?」という回答に対するトップ3は、ビッグデータ(16%)、テクノロジー(14%)、モバイル(10%)でした。そして我々Googleはこの3つの分野に強みを持っているユニークなポジションにあります。

ここでPaulに、我々がビッグデータ、テクノロジー、モバイルにどのようにGCSに取り入れていくのかを話してもらいます。

<Paul>

Monicaが話したように、我々がGCSを立ち上げてから、最も重視しているのは対象者の経験にフォーカスすることです。対象者が、サーベイに快適に、簡単に答えられ、謝礼を迅速に受け取ることが出来るといったことや、質の悪い回答や対象者は除外するといった技術に注力してきました。このようなGCSのポリシーは様々な副次的なメリットを生み出しています。質問数を制限することで、リサーチャーには、本当に欲しい回答は何なのかを、より真剣に考えてもらえるようになりました。それによって、リサーチの質が向上するという経験をしています。そして、GCSは世界中のどんなリサーチ会社よりも、より多くの対象者にアクセスできるようになりました。

我々はGCSのパブリッシャーネットワークから毎週1000万人のユニークな対象者から回答を得ています。また100万人を超えるモバイルパネルを構築しています。また、GCSならではのビッグデータ解析技術を活用したinferred demographics(類推デモグラフィクス)のおかげで、回答者に余計な質問をせず、回答負担を減らし、回答者の回答経験を高めています。

我々はこれまでに多数の回答を確保してきました。これからは、集めたデータをGoogleのビッグデータ解析技術によって分析していくステージにきており、他の調査会社が出来ないサービスを提供していきたいと考えています。今からMonicaが話しますが、我々はいくつかの大きなクライアントと密接に仕事をしており、彼らのニーズを理解しつつ、そのニーズに応えるために、他の調査会社では実現できない、今までになかったようなGCSならではのソリューションを開発しています。

では、話をMonicaに戻しますが、最後に私が最も強調したいのは、対象者のリサーチ回答経験にフォーカスすることによってリサーチの品質は向上するということです。そしてGoogleのテクノロジーを利用することによって、他の誰も真似のできない今までに出来なかったリサーチが実現可能になるのです。

Google Consumer Surveyが今後提供する4つのサービス

<Monica>

私たちはこれからデータテクノロジーの技術を進化させて、リサーチに活用するステージに来ています。特にGoogleが持つモバイルプラットフォームをリサーチに活用していきたいと考えています。では、具体的にGCSがこれからクライアントに提供していく4つのサービスを紹介させてもらいます。

まず一つ目です。我々がクライアントからよくリクエストされることとして「もっとニッチなセグメントにリサーチできないのか?」ということがあります。マーケティングに関わる人・・・リサーチ会社のリサーチャー、クライアントサイドのリサーチャー、マケーター、全ての人にとって、マーケットのセグメントは非常に重要です。ある種の行動に共通の特徴のあるグループをターゲティングすることはマーケティング戦略の基本となるものです。なのでリサーチにおいても、ターゲットとなるセグメントに属する対象者を見つけ出し、その対象者に対してリサーチをする必要があります。我々はPaulが言ったようにinferred demographicによって、性別、年代、居住地域等のデモグラフィック情報によるスクリーニングを提供しています。それに加えて今後は、Custom Audience Panelを提供していきます。

もしクライアントがターゲット(リサーチ対象)としたい消費者セグメントがある場合、これまでのリサーチでは長いスクリーニング調査を行い、そのターゲットとなるパネリストを特定してから本調査を行うというプロセスを取っています。しかしながら、Paulが先ほど話したように我々には100万人を超えるモバイルパネルがあります。なのでクライアントをと共に、そのターゲットを特定するスクリーニング質問をデザインし、スクリーニングを行いターゲットを特定しパネル化するということを行っています。こうすることによって、次からは、いちいちスクリーニングをする必要はありません。すでにセグメント化されたパネリストのラベルからターゲットを抽出して、調査を行うことができるのです。

具体的な事例を紹介します。我々のあるクライアントはニッチなビデオゲームの利用者をターゲットとしていました。そして、現在の遊んでいるゲーム、ゲームで遊ぶ頻度、使用しているゲーム機器等によってマーケットをセグメントしたいと考えていました。我々はクライアントとセグメンテーションの適切な設問を設定し、GCSモバイルパネルに対して、スクリーニングを行いパネリストのセグメンテーション化を行いました。今、このクライアントが、調査をするときはスクリーニングをする必要はありません。今回は、このセグメントに調査したい、次回はこのセグメントといったときに、我々がそのラベルがついたパネリストを抽出し、そのパネリストに対して調査を行うことが出来るようになっています。

※ 日本のネットリサーチ会社様においても、あらかじめターゲティングに使えそうなモニター情報(例:所有している車、患っている疾患等)を取得しておいて、「スペシャルパネル/スペシャルモニター」みたいなパネルを構築しサービスとして提供されていますが、これをクライアント独自のパネルとして構築して提供しますよということかと思います。実際には構築・維持費用と、調査実施本数との兼ね合いでお得かどうかという問題かと思いますが・・・。

二つ目です。我々がクライアントからよくリクエストされる依頼として「あるお店でお買い物をした人に調査出来ないか?/あるイベントに参加した人に調査出来ないか?/私のブランド購入者に調査出来ないか?」ということがあります。もちろん、このようなリクエストに対して、多くのスクリーニング調査し、あてはまる対象者を探して出して調査をするというアプローチもありますが、GCSはもっとスマートな解決策を提供します。それはGoogleのテクノロジーを活用したMobile Geo-location Targetingです。我々はGoogle Mapを持っています。そこで、調査対象となるお店やイベントの場所を特定することが出来ます。これをGeo-fenceと言います。我々は、過去数時間~数日間にそのフェンス内にいた我々のパネリストを特定することが出来ます。そしてサーベイを送り、そのお店の利用満足度を聞いたりすることが出来ます。これはリアルな行動ベース/ロケーションベースのパネルなので、我々は、対象者に、過去にそのお店に行ったかどうかということを質問する必要はないのです。

三つ目です。我々はクライアントから「リアルな行動に基づいたターゲティング(調査対象者の抽出)をしたい」、「WEBサイトである広告を見た人と見なかった人のその後のブランドに対する態度や行動の違いを測定したい」といったリクエストをよく受けます。そこで、我々は今後Remarketing List Targetingというサービスを提供していきます。Google AdWordsになじみが深い人はRemarketing Listという概念はよくご存じだと思います。我々はCookieで誰が、どのサイトを訪問し、どの広告を見たか/クリックしたか等の情報を持っています。そこで、Google AdWordsでは、例えばある広告を見てクリックしたけど、その商品の購入に至らなかった人には、次回、再度その広告を表示したり、購入を即するためのプロモーションの内容(ディスカウント情報の呈示等)を表示したりする機能があります。

※ 皆さんも、あるサイトに載っていた広告をクリックしたら、次から、どんなサイトを見ていても、その広告が現れ続けるといった経験をされているのではないでしょうか?「少し、しつこいんじゃないの(怒)」と思ってしまうアレのことです。

我々はこのGoogleのテクノロジーをGCSにも活用します。Remarketing List、つまりサイト利用者の行動履歴を調査対象者に抽出に利用するのです。我々には、数多くのパブリッシャーネットワークがあります。また先ほど言ったように毎週、1000万人のユニークなGCS対象者がいます。これらのCookieから、莫大なRemarketing Listを構築し、そこから、クライアントが求めるターゲットを見つけて調査を依頼することが出来ます。

最近の事例として、あるクライアントが特定のセグメントに対する調査をしたいと考えていました。また、そのクライアントは、第三者のデータプロバイダーのデータから、100ほどの行動パターンに基づくターゲットセグメントをすでに構築していました。我々は、そのデータを提供してもらい、我々の持つデータとオーバーラップさせて、調査したいセグメントを特定して、我々持つパブリッシャーネットワークで調査をしたという経験があります。

Google Consumer Surveyの質問数制限に対する解決策

最後、4つ目です。これはクライアントから「絶対に」10問以上の質問が必要だとリクエストされた場合の我々の解決策です。繰り返しになりますが、クライアントが望むからと言って、単に質問数を40問に増やしたりすることはしません。我々GCSは、そんなことをして、対象者を疲れさせて、質の悪いデータを集めることには意味がないと考えます。また、そんな長い調査に回答してくれるのは、一部の人だけなので、代表性がなくなり、その点で問題が起こることも心配しています。

我々のこの問題に対するスマートな解決策はMobile Longitudinal Surveyです。例えば、クライアントが40問の調査をしたいとします。もちろん、同じ対象者に40問を聞く必要があります。この場合、まず、この40問を4分割して4セット(A,B,C,D)にします。そして1日目に最初のセットA(10問)の質問をします。そして数日内に、その対象者に次のセットB(10問)を質問します。また、数日内にセットC(10問)を質問し、またその数日内にセットD(10問)をします。こうすることによって、1週間以内に我々のモバイルパネルの同一対象者から、対象者が疲労せずに、データの品質を落とさずに、40問の回答を得ることが出来ます。これは、今現在は実装していませんが、現在準備中であり、もうすぐ提供可能なサービスとなります。

※ Webinarでは数日おきに依頼するという話でしたが、スマートフォンのアンケートであれば、朝、昼、夕方、夜みたいに1日で終わらせることも可能ではないかと思います。

なお、セットAを回答してセットDまで回答しない人のドロップアウト率がどれくらいだという質問がありますが、これは今、様々な角度から検証していて最適なモデルを探しています。ただし、GCSモバイルパネルの調査協力率は、他の調査モニターパネルと比べて極めて高いので、この点に関して大きくは心配していません。

最後に、来年に向けてのGCSの大きな施策の方向性を紹介しておきます。

  1. 最先端の/大規模な利用をしてもらえるクライアントにはPremiumなオファーを提供していく。
    ※ ディスカウントをしますよ・・・という意味かと思います。
     
  2. GCSは単純なDIYのリサーチツールと差別化を行い、最先端のリサーチプラットフォームとして進化してく。
     
  3. 調査のカスタマイゼーションを(人力で時間をかけて行うにではなく)テクノロジーで行えるように進化していく。
     
  4. リサーチユーザー企業が、会社規模で支払が出来たり、案件管理が出来たりするようにする。
     
  5. 重要なクライアントにはプレミアムなサポートサービスを提供していく。

     

以上です。GCSはこれまでベータ版といった感じでしたが、来年以降、本格稼働していきます。本日はGCSの今後に向けての動きを紹介させていただきました。ご清聴ありがとうございました。(パチパチパチ・・・)

<Webinarはここまで>




皆さんは、GCSが主張する「質問数の制限をして回答の品質を保つ」という主張についてどう思われますか?最終的には今後リサーチユーザーの皆様がどのように考えるかでしょうが、もしリサーチユーザーサイドにこのGCSの考え方が広まっていくと(少なくともGCSは今後もこの考えを大々的に布教していくことでしょう)、現在のネットリサーチ業界への影響はかなり大きいのではないでしょうか。

私、現在は、もちろん定性調査の仕事をメインにさせていただいていますが、たまに定量調査のお手伝いをさせていただくこともあります。

先日、40問程度のネットリサーチのデータを分析する機会がありました。その調査票には後半部分で、いくつかのブランドに関して、アトリビュートをずらっと並べて「とてもあてはまる~まったくあてはまらない」の5段階で聞いていく質問があったのですが(マトリクスで聞いていくよくあるタイプの質問です)、そのデータを分析していたら、10%以上の人が、全てのアトリビュートに同じスコアをつけているのを発見してしまいました(あるブランドのすべてのアトリビュートに対して「4.あてはまる」をつけるみたいな)。長いアンケートだったので、途中で答えるのに飽きてきて、適当に答えてしまう対象者が出てきてしまったのだと思われます。このような長い調査票の回答を見てしまうと、「回答の質を保つためには質問数は10問までに制限すべき」というGCSの主張、あながち間違いではないなと思えてきます。

また、これから主流になってくるであろうスマートフォンによる調査。皆さんご承知のようにスマホでのアンケート調査はPCより画面が小さく回答の際の負担が大きいということがあります。また回答されるのが、通勤途中や仕事の休憩中みたいな「すきま時間」であったり、テレビを見ながらとか、彼と二人で喫茶店にいるのだけど彼の話がつまらない時みたいな「何かをしながら」だったり・・・ということもあります。これらのスマホで回答される際の特性を考えると、どうしても質問数は少なくせざるを得ないと思われます(GCSの提案するMobile Longitudinal Surveyは、その名の通りスマホでの回答を意識したものです)。

とはいえ、やはり調査を実施する側からすると、調査目的を達成するためにどうしても数十問の質問をせざるえないケースが多々あるかと思います。なので、GCSの提唱するMobile Longitudinal Surveyは、このようなジレンマを解決するための、シンプルかつ納得感の高い方法論だと思うのですが皆さんはどう思いますでしょうか。

5月にGCSの記事を書かせていただいて以降、今後GCSは質問数制限の問題をどうしていくのだろうと気になっていました。Googleのすることなので、難しいデータ解析技術か何かを使ったアプローチを提案してくるのかなんて考えていたのですが、その解決策は、私にとっては、まさにコロンブスの卵でした。頭を柔軟にすることの大切さを思い知らされた次第です。