ここはグルインじゃなくてデプスインタビューでしょ・・・

現在実施されている定性調査の代表的な手法といえばグループインタビューとデプスインタビュー。みなさんは、この二つの手法をどのように使い分けていますでしょうか?

JMRAの2013年経営実態調査を見ると、アドホックリサーチ売上における、グループインタビューが占める割合は8.4%、デプスインタビューが占める割合は3.9%となっていますので、グループインタビューとデプスインタビューが実施される割合は2:1くらいのようです。しかしながら、最近、定性調査を重視/多用しているいくつかの企業様からは「グループインタビューは辞めてしまった」、「最近はグルインからデプスにシフトしている」といった話を聞きました。個人的な感覚では、デプスインタビューが重用される傾向が強まっている気がするのですが皆さんのどうのようにお感じでしょうか。

ということで今回はデプスインタビューに関して、グループインタビューとどのように使い分けるべきか、また、今後デプスインタビューはどのように発展していくかを考えてみたいと思います。

グループインタビューとデプスインタビューの使い分け

そもそも定性調査リサーチャーは、グループインタビューとデプスインタビューをどのように使い分けているのでしょうか? 最初にCarey V. Azzaraという人が、この点に関して20名の定性調査リサーチャーにヒアリングして、その結果をまとめた記事を紹介させていただきます。ただし、ここで書かれていることは、普段皆さんが実践されていることと大差はないかと思います。さほど目新しいことが書いてあるわけではないので簡単にポイントだけピックアップしておきます。


(原文はこちら)
※現在記事は削除されています



グルインではなくデプスを使うとき

デプスインタビューは意思決定の様子を探索するときや、あるグループメンバーの類似性や違いを比較するときに最適である。調査目的が個人の意思決定プロセスを理解することであったり、ある刺激物(例:Webサイト)に対する個人的な反応を理解することであったりするときには、グルインではなくデプスが選ばれる。

デプスインタビューが選ばれるのは;

  • デプスの方が対象者が集めやすいとき
  • コスト的にグルインよりメリットがあるとき
  • グループ(他者)の影響を排除して、対象者の反応を得たいとき
  • データ収集において、プロービングやラダリングが重要な役割を果たすとき
  • 調査目的が特定セグメントの対象者からの直接的な反応を得ることのとき
  • 機器のユーザービリティをテストしたいとき
  • トピックがセンシティブ(病気、離婚等)なとき
  • 対象者が全国に散らばっているとき
    ・・・等



デプスではなくグルインを使うとき

多くのリサーチャーはまずグルインを前提に考えて、必要に応じてデプスに切り替えるというスタンスのようである。そしてその際に最も重要な質問は「ファインディングスを得るためにグループダイナミクスは重要か?」ということである。

グルインが選ばれるのは;

  • 多様な意見を得るためにグループのコンセンサスや議論が必要なとき
  • 議論において多様な視点を得たいとき
  • 人がお互い助け合うことによってアイデアを生み出す等、トピックに対して探索的なアプローチをしたいとき
  • グループで議論することにより議論を活性化させ、トピックが持つ潜在的な問題をあぶりだしたいとき
    ・・・等

また、あるリサーチャーは「グループインタビューは、デプスインタビューよりもクライアントを巻き込みやすい」と述べている。なぜなら、グルインはデプスよりも実査に費やす時間が短く、その間にクライアントを「失う」ことが少ないからである(グルインなら2グループで4時間だけクライアントを拘束すればよいが、デプスを10人すれば、実査だけで10時間かかる。そのすべてにクライアントが付き合ってくれることは稀である)。

<記事はここまで>

私が注目したのは、グルインが選ばれる理由として書かれている最後の指摘です。私の知る限り、デプスよりもグルインの方が、クライアント(とサプライヤー)の時間的(およびそれに伴う費用的)負担が少ないからという理由で、本来はデプスをすべきケースでグルインが選ばれてしまっているケースが少なくないように思います。また、定性調査をするなら「とりあえずグルイン」といったように、あまり深く検討されることもなくグルインになってしまっているケース(これはカーネマンのいうシステム1を使った決定ですね(苦笑))も少なくないのではないでしょうか。しかしながら、これは非常に危険なことです。

グループインタビューとデプスインタビューにはそれぞれ得意とする点があります。調査目的によって両者(もちろん他の手法も含めて)を適切に使い分けしないと、目的を達成できないままに終わってしまいます。例えば、マーケティングの最大の目的は商品やサービスを売ること・・・なので購買行動の解明は、マーケティングリサーチに期待される大きな調査目的な一つです。次に、この購買行動の解明にはグルインではなくデプスを使用すべきであるという話を紹介します。

グループインタビューでは複雑な購買行動を理解することは出来ない

「お客様はなぜ自社商品を買ったのか」、「お客様はなぜ自社商品ではなく競合商品を買ったのか」

クライアントからこの点を明らかにしてほしいというブリーフを受けた皆さんはどのような提案をするでしょうか。「ここは定量ではなく定性だな・・・だったら、とりあえずグルインかな」、「本当はデプスの方がよさそうだけど時間がかかって費用も高くなって提案が通らなさそうなのでグルインにしようか」みたいにグループインタビューを提案している人はいないでしょうか?そして実際グルインを実施してみて、購買に関する発言はたくさん出てきたのだけれども、各発言の関係性がわからずになんとなくスッキリしないまま終わってしまったという経験をしたことはありませんか?

これは購買の意思決定という行動が複雑すぎて、グループというセッティングで明らかにするには限界があるからです。Terry Grapentineという人が、この点に関して、購買行動を理解するためには、グループインタビューよりも(会場、オンライン、店頭等での)デプスインタビューが優れているという記事を書いています。興味深かったので紹介させていただきます。

<以下記事の翻訳です。多少、端折っています>

私の経験では、人のある商品やサービスに対する購買行動を明らかにするインタビューを行うには30分~45分が必要である。なぜなら人の購買行動には因果関係が複雑に絡み合っているからである。グループインタビューでは、この因果関係を解き明かすのには時間的に不十分である。仮に120分のグループインタビューで参加者が6人だとしたら、一人が話すのを聞くことが出来る時間は20分間のみである(実際にはモデレーターが話す時間や、自己紹介等のウオーミングアップの時間が含まれるので、本題に関して話を聞く時間はもっと少ない)。これがデプスインタビューであると、30分~60分間じっくり話を聞くことが出来る。

またグループインタビューの形式そのものが、なぜ彼女がそれを購入するに至ったかというストーリーを明らかにすることに適していない。グルインでは、ご存知のようにモデレーターが、一人に少し話をさせて、別の人に話をさせて、また違う人に話をさせてといったように進み、トピックが入れ替わっていく。一人の話を詳しく聞く場ではないのである。これでは、一人の対象者が、ある商品の購入を検討しはじめ、最終購入に至るまでのストーリーを理解することは出来ない。また、グルインには、他の参加者のことを意識して本当のことが言いにくいといった問題点もある。

繰り返すが購買決定は様々な複雑な要素が絡み合っている。その代表的なものとして、「INUS conditions」, 「spurious relationships」, 「attribute importance vs. determinance」、「the relative roles attributes」といったものがある。以下、購買行動におけるこれらの要因を明らかにして、今後のマーケティングに役立つ情報を得るにはグループインタビューではなくデプスインタビューが優れているということを論じる。

+++ INUS condition (不十分/必要/不必要/十分な条件) +++

INUS conditionとはInsufficient(不十分)、Necessary(必要)、Unnecessary(不必要)、Sufficient(十分)の頭文字を取った略語である。これが意味することは、不十分で必要な条件は、十分だが不必要な条件と同じ購買行動を引き起こす可能性があるといったことを意味する。

例えば、ある製品カテゴリーに関して以下の条件(アトリビュート)が満たされている時に製品Xが購入されたとする。

対象者1:
アトリビュートA, B, C, D, E (を満たす製品/サービス) ⇒ 製品購入/サービス利用

対象者2:
アトリビュートA, D, E, F, G  (を満たす製品/サービス) ⇒ 製品購入/サービス利用

対象者3:
アトリビュートA, F, G, I , K (を満たす製品/サービス) ⇒ 製品購入/サービス利用

この製品カテゴリーにおいて、どのアトリビュートも単独では製品の購入には結びつかない。しかしながら、Aというアトリビュートはこの製品カテゴリーの購入に必要であることがわかる。

例えば、上記の例を銀行の利用で考えてみる。多くの銀行の利用において、Aは「便利な場所にある(家の近く、会社の近くにある)」ということであろう。しかしながら、Aだけでは選ばれる銀行になるためには不十分である。サービスのバラエティ、評判、手数料が安いといった様々なアトリビュートが銀行の選択に影響を及ぼしている。そして、これらの様々なアトリビュートの組み合わせごとに、利用者のセグメントが生まれている。

しかしながら、このような複雑な状況をグループインタビューで解きほぐして理解することは簡単ではない。

なぜなら

  1. グループインタビューではすべての対象者がすべてのトピックに対して発言するわけではない
  2. グループインタビュー参加者の中には、他の人に意見に反論するのが面倒なので、適当に同意してしまう場合がある
  3. グループインタビューの限られた時間内で、全てのアトリビュートに関して全員の意見を聞くことは難しい

からである。


+++Spurious relationships(疑似因果関係)+++

因果関係のあるように見える二つの事象が単なる偶然であったり疑似的なものであったりすることがある。グループインタビューでは、真の因果関係と疑似因果関係の違いを明らかにするのは難しいが、デプスインタビューは、この違いを明らかにすることが出来る。

例えば、ドライドッグフードのグループインタビューで、ブランドXを買うのは「品質がよいから」という発言があったとする。別の対象者からは「パッケージデザインがよい」という発言もあったとする。すると、そうするとブランドXの購入決定要因は「品質のよさ」と「パッケージデザイン」であるといった結論で終わってしまいがちである。

しかしながら、ブランドXに対して消費者が知覚している「品質でのよさ」は、そのパッケージデザインの要因でもある。なぜなら、ブランドXのメーカーは、消費者に知覚されている「品質のよさ」をアピールするために、パッケージをデザインしているからである。逆に、パッケージデザインが、そのブランドの知覚品質を上げる大きな要因になっている可能性もある。このような因果関係の方向性を見つけたり、見せかけの因果関係を見破ったりすることはグループインタビューで各対象者からの様々な発言を聞いても難しいのではなかろうか。

+++Attribute importance vs. determinance(重要なアトリビュートと、決定要因となるアトリビュート)+++

私たちは、ある製品アトリビュートが重要アトリビュートなのか、選択決定要因となっているアトリビュートなのかを見分けなければならない。しかしながら、インタビューの対象者は通常、この二つを区別して回答をしない。

※ ここでいう重要アトリビュートとは、我々が普段ハイジーンファクター/衛生要因/不満足要因といった呼び方をしているものかと思います。

例えば、芝刈り機に関するインタビューでは、新しい芝刈り機を購入したキッカケは、それまでに使っていた芝刈り機において、スタート時のエンジンがかかりにくくなったということを言う人が多い。なので、新しい芝刈り機を購入する際に、「スタート時にエンジンがかかりやすい」ということが重要だと言う人が多数いる。しかしながら、よくよく聞いてみると、新しい芝刈り機の候補を検討した際には、全ての製品が「スタート時にエンジンがかかりやすい」という基準を満たしており、製品選択の決定要因にはなっていないことがわかる。製品選択決定要因は別のファクター、「価格が安かった」であったり「操作性に優れている」であったりする。このようなこともデプスインタビューでじっくりと話を聞かなければわからないことである。

+++ Relative roles of attributes(アトリビュートの相対的役割)+++

マーケターは個々のアトリビュートが、購買決定プロセスにどのような役割を果たしているかを明らかにすることに興味を持っている。しかしながら、購買決定プロセス、それ自体を理解することは、個々のアトリビュートの役割を理解する以上に複雑である。我々は、消費者がアトリビュートの情報をどのように活用して購入決定を行っているのかを理解しなければならない。この購買決定プロセスに関して、一般的な2つのモデルがあることを理解しておく必要があろう。

<Compensatory models(補償モデル)>

あるアトリビュートの評価が低くても、他の高いアトリビュートの評価によってそれはカバーされ購入に至るというモデルである。例えばあるドッグフードブランドは、購買チャネルが限られ(獣医でしか買うことができない)るという不便さがあるが、このネガティブは品質が優れているという評価によってカバー(補償)され、購入に至る。

<Non-compensatory models(非補償モデル)>

あるアトリビュートの高い評価が、他のアトリビュートの低い評価をカバー(補償)しないというモデルである。食品スーパーで売られている、ある食卓塩のパッケージデザインをどれだけ魅力的にしても、他の食卓塩と比べてプレミアムの価格をチャージすることは難しいというのは、この一例である。

以上、消費者がある製品を購入する際に起こりうる様々な代表的な購買決定プロセスを紹介してきた。マーケター/リサーチャーは、消費者がある製品の購入に際してどのようなプロセスが起きているのかを理解しなければならない。そのためには、対象者に、その製品を購入したときの状況をプローブを繰り返しながら丁寧に聞いていかなければならない。このような、購買プロセスを明らかにしていくリサーチにはグループインタビューではなく、デプスインタビューが適しているのである。

<記事はここまで>

これからのデプスインタビュー

ここまで、デプスインタビューの重要性について書いてきましたが、もちろん現在、行われているデプスインタビューという手法が完璧な手法であるということは全くありません。前述のように、グルインと比べての実査負担の大きさが、この手法の利用を妨げるケースが多々あります。また、これまでもこのメルマガで何度も指摘していますが、現在会場で実施される(いわゆる従来型)デプスインタビューは、生活文脈から切り離されてしまっているという欠点があります。加えて、これも何度も書いていますが記憶に頼ったインタビューという手法そのものが、どこまで有効なのかという議論もあります。これらを踏まえると、デプスインタビューという手法は今後まだまだ進化していく必要があるのではないでしょうか。

最後に、少し宣伝モードとなって恐縮ですが、弊社が取り組んでいるオンラインインタビューは、今挙げさせていただいた従来型デプスインタビューの課題解決に有効であり、今後のデプスインタビューの進化のひとつの形であるということを紹介させていただきます。

実査負担の軽減

繰り返しになりますが、デプスインタビューの一番の弱点は実査負担が大きい(時間がかかる、なので費用がかかる)ということではないでしょうか。例えば10名のデプスインタビューを実施しようとしたら、まるまる二日間の時間がかかってしまいます。クライアントが二日間ずっと、外部デプス会場に張り付いているという負担はかなりのものです。このクライアントの負担を何とか軽減できないものでしょうか?

この点に関しては、インタビューをクライアントのオフィス(会議室や自分のデスク)で見ることができれば、かなり軽減することができます。クライアントが、外部会場にまで足を運ぶとなると、その2日間は、その他の業務を全てストップさせなければなりませんが、オフィスでインタビューを見ることが出来れば、インタビューが実施されている時間以外はその他の業務を行うことができます。

弊社のオンラインインタビューは、基本的にはお客様の会議室を利用して実施しており、「見るのがラク」、「関係者が集まりやすい」という点でご好評をいただくことが多いです。また、オプションの「遠隔閲覧サービス」をご利用いただくとオフィスの自席や自宅で見ていただくことも出来、このオプションをご活用いただくケースも増えてきております。最近では会場でのインタビューを、お客様のオフィスで見ることが出来るサービスも始めており、こちらのご利用も増えております。

生活文脈と結びついたインタビュー

対象者をインタビュー専用会場という普段の生活から隔離された空間に押し込んで実施する現在のデプスインタビューは、対象者を生活文脈から全く切り離してしまいます。しかしながら、インタビューの対象となる商材の多くは、対象者の自宅で使われるもの。なので、対象者が自宅(生活現場)でインタビューに参加すると、よりよい情報が得られることは言うまでもないかと思います。

例えば、最近、あるヘアケア製品のホームユーステスト(自宅でその製品を使用してもらい、その後オンラインインタビュー)を実施させていただきました。そもそも、一般的なデプス会場でヘアケア製品を使ってもらって、その評価をインタビューすることは出来ませんし、出来たとしてもそれは普段の自宅とは違った環境での使用です。この調査では、普段、自宅で使用している他の製品と同時にテスト品を使ってもらうことにより、様々な発見をすることが出来ました。

トライアンギュレーション

最近、海外で、トライアンギュレーションという言葉がリサーチのキーワードになっているようです。トライングル(三角形)という言葉が元になっているこの言葉、調査対象を多方面から見てその結果の信頼性を高めたり、深く理解したりするといった意味で使われます。代表的なものとしては、調査目的を理解するために定量調査と定性調査を組み合わせるといったことが挙げられますが、インタビュー調査に観察調査を組み合わせるといったことも、その一例です。

何度も書いていますが、記憶に頼ったインタビューという手法はそれ自体、生活者を理解するための完璧な手法ではありません。なので、例えばインタビューに観察調査を組み合わせて、対象者が発した言葉を検証する、より深く理解するといったことが今後ますます活用されていくべきではないでしょうか。

例えば弊社オンラインインタビューを使うと、主婦にインタビューをしつつ、冷蔵庫の中を見せてもらうといったことが可能です。「家族の健康を考えて、食事は出来るだけ手作りをしています」と発言している対象者の冷蔵庫に冷凍食品が溢れていたといったことはよくあることで、このように物事を多面的に見て生活者を理解していくことが今後重要になっていくのではないでしょうか。

以上、今回はデプスインタビューについて書かせていただきました。もちろんグループインタビューにはグループインタビューのよさがあります。しかしながら調査目的によってはグループインタビューよりもデプスインタビューの方が適しているケースは多々あります。そのようなときに「とりあえず」や「実査負担が少ない」との理由でグルインを選んでしまうことは避けたいものです。今回の記事が、皆様の、今後のグルインとデプスの使い分けの参考になりましたら幸いです。