GRIT 『GreenBook Research Industry Trend Report』の 結果を読み解く -後篇-

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今回は、前回の続きで、「GRIT 『GreenBook Research Industry Trend Report』の結果を読み解く」の後篇となります。


※前回記事をお読みになっていない方はこちらをご覧ください

新しいテクノロジーの活用

【レニー】アン、シュレッシンガーは最大の実査企業の1つだと思いますが、その立場から他にお気づきの点はありませんか?


【アン】レポートの中には他にもいくつか興味深い点がありました。バイオメトリックスやニューロ・サイエンス、フェイシャル・コーディングは私たちも着目していた点です。これらは5~6年前に業界で大きく着目されていたトピックで、今でも注目はされていますが、未だ大きなうねりを見せるほどにはなっていません。と言うのは、新しい手法が有効だと証明するのは難しいからです。数週間前に誰かが指摘してくれたのですが、10~12年前のアイ・トラッキングはまさにそのような感じで、着目された後の3~4年はあまり使われていませんでした。しかしながら、今となっては20~30%の企業がアイ・トラッキングを実施するようになっています。最近注目され出している手法も同様の道をたどるのではないかと思います。検証を重ね、消費者を理解し、リサーチ業界で存在意義を見出すことによって初めて成長していくのではないでしょうか。



【レニー】私もそう思います。エドワード、ビジネスにより直結した結果を出したいクライアントと、テクノロジー自体とでギャップがあると思いますが、クライアント側としては、具体的にこのエリア(手法)に着目しているというのはありますか?それとも、手法は二の次でしょうか?


【エドワード】カーネマンの「ファースト&スロー」と言う素晴らしい著書があります。人々が何を思っているのかをより正確にとらえられるかについて書かれており、マーケティングに携わる多くの人々に読まれています。例えばオンライン・コンセプト・テストを実施したとしましょう。そこで、消費者がコンセプトについて本当はどう思っているのかを測るメジャーがなかったとしたら、ギャップが出てきます。そういう意味で、フェイシャル・スキャニングには関心があります。それから、バイオメトリックスの概念全体にも関心があります。人間の脳がどうTVCMに反応しているのか、しているのであればどのステージなのを、もっと正確にとらえるにはどうしたらいいのかはみんなが知りたがっていることだと思います。今後、感情を測ることは、マーケティング・リサーチの鍵になってくると思います。そのうえで、KPIをどのように設定するかが重要になってくるでしょう。例えば、現在のリサーチ業界のスタンダードである「購入意向」というスケールを信用できなくなったとしたら、何と置き換えるべきなのでしょう?このような点がリサーチの大きな課題になって来るでしょう。これは複雑で大変なタスクですが、そこを乗り越えないといけません。


注:上記カーネマンの「ファースト&スロー」は行動経済学の代表作です。以前、このメルマガでも紹介させていただきました。


【レニー】ウォリーへ質問させてください。今の所、フェイシャル・エクスプレション、ニューロ等を取り込んだケースをあまり見かけませんが、今後はもっと増えることになると思いますか?


【ウォリー】個人的には「イエス」だと思います。新たに出現してきているテクノロジーは今市場を動かしつつあります。グーグル・グラス、ナイキのフューエル・バンド、ギャラクシー・ギアと言ったウェラブル商品が出てきていますし、そのような所から情報を集め、集めた情報を従来の調査手法と組み合わせ、意味のあるコンテキストにまとめ上げることが増えると思います。新しいテクノロジーは、従来の社内プロセスを豊かにする役割を持っています。エンド・クライアントは単なるデータではなく、そういう意味のあるコンテキストやインサイトを求めていますので、これらの新しいテクノロジーはそういう機会を増やしていくと思います。


【レニー】アン、あなたの会社ではこれらのテクノロジーに随分投資しているし、取り込んでいますよね。と言うことは、同じようなご意見ですか?


【アン】そうですね。あとは、様々なリサーチ手法やテクノロジーで得られた結果を足し合わせることによって、エモーショナル・テクノロジーのベンチマークを作る必要が出てきています。ブランドはとても複雑ですから、その辺がチャレンジの1つとなってきます。何がスタンダードなのか、データをどうやって統合し、自信・確信につなげるのか…。例えば、我々が確信を得るまで、我々のパートナーであるコーディング専門の会社が5年もかけてノームを構築してきましたから、それだけ時間がかかるということです。


【レニー】エドワード、WARC 2014 Next Generation Market Research Conferenceでユニ・リーバから注目すべき発表があったそうですが、その話をみんなにシェアしてもらえませんか?


【エドワード】1月にロンドンで行われたカンファレンスで、プレゼンテーションのひとつがユニ・リーバとミルウォード・ブラウンとの共同プレゼンでした。フェイシャル・スキャニングのツールを活用していたのですが、私が受けた印象では、ユニ・リーバはその手法が有効で数量化が可能だととらえていて、インサイトをいち早く得ることができると考えているようでした。全世界的に数多くの調査を実施したということでしたので、私にとってみれば公の場でフェイシャル・スキャニングの信頼性を確約してくれたようなものでした。

リサーチ会社が今後進むべき方向

【レニー】ビッグデータ・アナリティクス、テキスト・アナリティクス、メディア・アナリティクスと言った成長分野や、これから伸びるフェイシャル・スキャン、バイオメトリックスと言った分野を見ると、従来のリサーチ企業ではないサプライヤーが新たなテクノロジーを開発しています。こういう企業は、自分たちがマーケティング・リサーチ業界の一員であると思っていません。無数のテクノロジー会社が存在し、いろいろなソリューションを提案してくれる今、自分たちがマーケティング・リサーチのサプライヤーだと認識している企業にとっての成長の道とはどのようなことが考えられるでしょうか?


【アン】グーグルが今後どのように世界を支配するのか聞きたいのではないですよね?(笑)。

我々はテクノロジー会社ではなく、リサーチ・プロセスの一部であるデータ・コレクション会社です。我々は様々な分野のテクノロジーを導入しなければなりません。リサーチのテクノロジーに限らず、です。「リサーチ以外の他業界では何をやっているのだろう?」と言うことを客観的に考えなければならないのです。

単にA地点からB地点へ早く行くだけだったらそこまでしなくてもいいのかもしれませんが、オープンな気持ちを持ち、いろいろ試すことによって個性が出てくるのです。例えば、我々はストーリー・テリング・テクノロジーを試しています。高詳細テレビを使ってフォーカス・グループ・インタビュー等の様々なビッグデータを集め、点と点とを結び付け、社内や同じ部署の人間と繋がります。分かりやすいビジュアルを見せることで、世界中の誰もがリサーチの周辺で何が起きているかを分かるようにしていますので、包括的な環境となっています。このテクノロジーはリサーチとは直接関係ないことではあるのですが、ストーリー・テリングで1つ1つのかけらを一緒にすることがリサーチの役に立つのです。今まで業界内でこういったことを考えた人はいなかったと思います。

【レニー】その考え方には賛同します。エドワード、非リサーチ企業からデータを安く、効率的に入手できるケースもある中、あえてリサーチ専門の企業を選ぶポイントは何でしょう?クライアント側からの視点で教えてください。

【エドワード】我々にとっての付加価値は、ビジネス上の決断を手助けしてくれることにあります。テクノロジーがあるかどうかも大事かもしれませんが、集めたデータをインスピレーションを使って何らかの意味がある物にしてくれることのほうがもっと重要です。テクノロジーに特化した人々は、本来のマーケティングやブランディングからは少し距離があるかもしれません。テクノロジーに期待することは、コストの削減と質の向上です。例えば我々がつきあっているロンドンの会社は新しいテクノロジーを使うことによってリサーチの設問数を少なくし、コストを安くしつつも高品質なデータを提供しています。


【レニー】ウォリー、テクノロジー・プロバイダーであるコンファーミットについて考えてみましょう。新たな企業が競合として登場してきているわけですが、それは新しいパラダイムを生み出しているのでしょうか?従来のモデルと全く異なる構造を見せる場合、どうしたらいいのでしょう?


【ウォリー】これまでも設問数の削減等は追及されてきたので、必ずしも新しいパラダイムだとは思わないです。自社でテクノロジーを開発して、社内で使ってきていた会社もありますし・・・。ここで何に着目すべきかと言われれば、価値です。テクノロジー・プロバイダーだろうが、リサーチ・サプライヤーだろうが、価値を提供し、クライアントがその価値を享受できれば、どちらでもいいのではないでしょうか。クライアントは、期待する価値やインサイトが、期待するスピードで提供されさえすれば、調査が長かろうが、短かろうがどうでもいいのです。従来、調査会社は提供するものの質が高いことを追求してきたため、調査の長さがどんどん長くなってしまっています。一方、マイクロ・サーベイは、直接的な質問をして、すぐ終了する仕組みになっています。
もちろん、イン・デプス・スタディのように何層も検証を重ねた情報が必要な場合もあります。そのような調査はこれまでも存在していましたし、今後も存在し続けます。ビッグデータの時代に突入した今となっては、従来のトラッキング調査の手法に当てはまらないものも出てきます。先ほども申しあげたとおり、これからは単一のデータソースではなく、複数のデータソースから収集されることも増えてきて、そういう意味でパラダイム・シフトが起こってきます。ここで着目しないといけないのは、「データはどこから得られたか?」「単一のデータソースなのか、複数のデータソースなのか?」という点です。ですので、今回のレポートで面白かったのは、グーグルが「最もイノベーティブなマーケティング・リサーチ会社だと思うのは?」という設問でトップ5にランクされていることです。それはグーグルに特別なリサーチ手法があるからではなく、彼らがテクノロジーのある会社に依頼をかけたり、一緒に手を組んだりしたからです。例えば、グーグル・グラスがMITと手を組んだように。ここに次のパラダイムが誕生するのではないかと思います。ビッグデータはバイト・サイズ・インフォメーションの時代を先導するのでしょうが、バイト・サイズ・インフォメーションは様々なデータソースから得られるのです。


【レニー】ビッグデータの時代となった今は様々なデータソースがありますので、リサーチでは以前のように多くの質問をせず、「Why(なぜ)」だけに集中できるようになりました。一方で、ヨーロッパではプライバシー面が厳しくなっています。ウェラブルと言ったテクノロジーが出現してきたので、課題になってきています。アン、その辺で何かコメントはありますか?


【アン】プライバシーは私たちにとって常に大きな課題です。規制等があるため、様々な課題を乗り越えないといけないところです。確かにヨーロッパの規制は厳しいですし、これからもっと厳しくなると思われます。単一のデータソースの話をするときにデータは消費者の物だという概念がありますが、アメリカとヨーロッパでも受け止め方に差があります。現在、我々は対象者から意見をもらうのに謝礼を差し上げていますが、今後は行動データも同様に謝礼を上げないといけない時代が来るかもしれません。行動イコールプライバシーですから、謝礼が必要になるということです。特にヨーロッパでは。まあ、そうなるまでに時間はかかるでしょうし、全員にと言うことにはならないでしょうが、そういう流れが来ていることは確かです。


【エドワード】我々は今、実験ステージにあると思っています。次の2年間でどうなるのかを見守っていくべきでしょう。ただビッグデータに関して言わせてもらうとデータ・マイニングはもっと重要になって来るでしょう。最初のスライドに戻ると、新しいリサーチ手法のうち3つ、ソーシャル・メディア・アナリティクス、テキスト・アナリティクス、ビッグデータ・アナリィテクスがアナリティクス関連です。以前は、調査をすることでもっと情報を得ないといけないと思われていました。今はどうかと言うと、データを寄せ集め、きちんと統合できれば、新たな情報価値を引き出せるのではないかと思われています。ヨーロッパでも、そしておそらくアメリカでもアナリティクスは難しいとは思うのですが、価値を付加していかないといけないのです。

プライバシー面は、世代によって違うのかもしれません。若者はSNSを通して膨大なデータを共有しています。ですが、いつか、「あれ?これって法律に反するのでは?」となりかねません。「私はフェイスブックやツイッターで何をやっているんだろう?」となり、行動を制限したり、気持ちをひるませたりします。インターネットに何らかを書き込んだら、長年残り、いずれは誰かの目に留まる可能性があります。

モニタライゼーションについてですが、個人個人が自分の意見や行動といった価値あるデータを持っているのですから、それぞれがどう扱われるかを知っておいた方がいいです。ツイッター等で書いたこと等の情報が誰にどう使われるか知っている人は少ないはずです。好きなブランドについてであればいくらでも回答してくれるでしょうが、そこまででない場合、あまりシェアしてもらえないでしょう。「これってどうなるの?誰が使うの?最終的に誰の手に渡るの?」と言った疑問にきちんとした回答がなされていない場合、消費者にとっては怖いことです。実際、UKの35%の人々はオンライン広告にブロックをかけているそうです。

【レニー】リスナーから質問が来ているので、答えていただきます。「タブレットのように新しいテクノロジーに非対応の発展途上国ではどのように適用すればよいのでしょうか?」


【ウォリー】調査の目的にもよると思います。我々には、グローバルな調査を実施するクライアントがいます。ヨーロッパでは携帯電話を持っているのが当たり前ですが、アフリカやアジアの一部の国では、1つの携帯電話をコミュニティー全体でシェアしていることもあります。なので、1つの手法の固執することなく、調査の目的に立ち返って、何を得たいのかを考え直さなければなりません。


【レニー】次の質問です。「CATIが伸びているという話がありましたが、本当でしょうか?電話調査の将来はどうなるのでしょうか?」


【ウォリー】電話調査は、B-to-Bの分野、調査対象条件が厳しいようなケースでは伸びています。伸びていると言うよりは、低め安定で推移しているといった方がよいでしょう。調査によっては、この手法でないと成り立たない場合もあるのです。


【アン】同意見です。伸びているかどうかまでは分からないのですが、特定の条件の人をリクルートしたり、インタビューしたりする場合に必要なことがあります。eメールとも、ファックスとも、フェース・トゥー・フェイスとも違いますし、依然としてコスト効率が高い手法でもあります。我々は時々、定量、定性、電話調査等を織り交ぜて調査することがありますが、電話調査が最適で、付加価値を与えてくれる場合もあります。


【レニー】アンには2問質問が来ています。1問目は、「医薬品に関するエリアでは次に何が起きるのでしょうか?」2問目は、「あなたの会社のような所へクライアントシフトが起きるのかどうか」を知りたいそうです。


【アン】1問目についてお答えします。ヘルスケア分野はどんどん変化しています。より特化した薬が出たり、法律が変わったりと言った様々な変化は出てきますが、今日はそこまでは踏み込まないでおきます。もちろん、これらの変化が調査にも影響し、丸っきり新しい環境になるでしょう。

二つ目の質問に関して、クライアントがデータ・プロバイダーと直接仕事をするケースはよく見てきました。レポートにもあったように、イン・ハウスでデータ分析を行う企業が増えてきましたし、彼らはフル・サービスでない企業がデータ収集できることにも気づき始めています。イン・ハウスのスタッフはプロバイダーの所に行って、テレホン・リクルーティング、オンライン・パネル、CATI等を依頼しますが、彼らが知りたがっているのは、「データはどこから来ているのか?」「検証方法は?」と言った点です。データ収集をしていく中で、どうやってデータに近づいていくのかが知りたいのです。

今日はあまり話題には上らなかったのですが、何にせよ質が大事です。数年前に質の話が良く出ましたが、現在でも質は極めて重要です。質が良くなければ、それに基づいて下される決断にリスクが生じるからです。エンド・クライアントにとって、どうやってデータを得るか、どうやって人を見つけるか、どの位の頻度で使っているのか、等が非常に重要です。



【レニー】エドワードへの質問。「リサーチャー達はこの新しい局面にどうやって立ち向かっていけばいいのでしょうか?また、ビッグデータやソーシャル・メディアがクライアントの内部にあった場合、リサーチはどのような役割を果たせるのでしょうか?」


【エドワード】将来に向けての備えと言う点ですが、クライアント側からすれば、データは誰でもアクセスできるものであり、リサーチャーはもはや「門番」ではありません。クライアントが困った時に助けを求める人ではないのです。したがって、リサーチャーは従来と違ったやり方でマネージしないといけません。ブラックボックスがなくなっていく中、データバイアスや社会科学に対する知識がない人たちがデータを見て何でもできると思ってしまう状況になりかねないからです。もう1つは、機械化によって様々なプロセスが自動化され、早く、安く上げることができることになると思います。そのような状況では、機械では達成できないエリア、すなわち何よりも結果が出た後の戦略的な思考が大事だろうと思います。

リサーチの役割と言う点では、データを分析にかける人間と、データを解釈する人間とを区別する必要があるでしょう。後者は、包括的にデータを解釈することで、次のアクションに直結させなければなりません。それが組織のどこに当てはまるのかは分かりませんが、トップレベルに食い込み、なぜリサーチが大事なのかを説得し、予算を取る必要があるのです。

【レニー】最後に、本レポートで皆さんが一番コメントしたいことを一言ずつ述べてもらって終わりにしたいと思います。ウォリーからどうぞ。


【ウォリー】ビッグデータではなく、ビッグ・グーグルと言うことでしょうか。


【アン】業界のスピードと変化。リサーチ部門がどこに所属するのかと言う質問と絡んでくるが、数年後にはリサーチ部門は戦略部門の一部になると思います。リサーチが生み出すインパクトは大きいでしょうから。
 


【エドワード】ローンチして2年後のグーグルサーベイの使用率が19%ということです。おそらくこのほとんどがアメリカによるものでしょうが。今後マイクロ・サーベイがパワーを持つということになろうかと思います。

<以上、終わり>




Webinarの内容は以上となります。皆さんはどのような感想を持ちましたでしょうか。

前回、紹介させていただいたとおり、GRITは欧米のリサーチ業界を中心とした調査結果であり、日本の状況をそのまま反映しているわけではありません。しかしながら、リサーチ業界もグローバル化しつつある今日、今回、ディスカッションされたようなトレンドが日本のリサーチ業界にもやってくる日はそう遠くないことかと思います。

そんな中、今回のパネリストが最も注目していたのがGoogle Consumer Survey。米国ではすでにかなりのインパクトを与えているようです。皆様、このGoogle Consumer Survey(GCS)というのをご存じでしたでしょうか。私は、つい最近まで単に「グーグルがネットリサーチ事業に乗り出したんだ・・・」程度の認識しかもっておりませんでした。しかしながら、今回このWebinarを聞いて、少し調べてみると、その認識が大きく変わりました。GCSは単純なネットリサーチではなく、とてもユニークな手法かつビジネスモデルのようです。ということで次回はこのGCSについて紹介させていただく予定です。