GRIT 『GreenBook Research Industry Trend Report』の 結果を読み解く -前編-

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このメルマガで何回も紹介している、GRIT(GreenBook Research Industry Trend Report)の2014年度版がこの2月にリリースされました。なかなかこのような調査はないので、我々リサーチ関係者にとっては貴重な資料ですね。皆さんの中には原版をダウンロードしてお読みになった方も多いのではないかと思います。またリリースされてから、結果についてコメントされている方も多くおられたようなので、原版をお読みになっていなくても、結果にについて多少ご存知の方も多いのではないかと思います。

さて、そんなGRITについてですが、2月にリリースされたその日に「RESEARCH INDUSTRY TRENDS: CURRENT WAVE OF CHANGE AND WHAT’S TO COME」というWebinarが開催されました。

これは、リサーチ業界の有識者がGRITの結果について、パネルディスカッションを行い、現在/今後のリサーチ業界の動向を分析するという試みです。今回は、このWebinarでどのようなディスカッションがなされたのかについてご紹介させていただきます。GRITの英語を読むのが面倒な人でも、以下を読んでいただければ、今リサーチ業界に何が起きているのかを掴んでいただくことが出来ることでしょう。

改めてGRITとは・・・

昨年もGRITについて本メルマガで紹介させていただいてはいるのですが、昨年お読みいただいていない方も多いと思いますので、改めて、GRITについて説明させていただきます。

※昨年の記事はこちら

タイトルにありますように、GRITとはGreenBook Research Industry Trend Reportの頭文字をとったものです。では、そもそもGreenBookとは何かという話ですが、これはNew York AMA Communication Services, Incという会社が運営している、世界中のマーケティングリサーチ会社のDirectory(名簿)や、リサーチに関する情報を提供したりしているサイトです。

<GreenBookのサイトはこちら>
http://www.greenbookblog.org/

GRITは、このサイトへの訪問者を中心としたサンプルに対してのネット調査の結果をレポーティングしたものです。もちろん、このサイトの利用者(読者)は、マーケティングリサーチに係る人々なので、GRITは、リサーチ業界の現状を知る有力な手がかりとなります。とはいえ、このような手法で行っているため、GRITは代表性のある調査の結果ではありません。それは、GreenBook自身も認めていてMethodologyのパートで、これは、「センサスや代表性のある調査ではなく」、「strongly directional」(業界の方向性を指し示す)調査だと書いています。そしてGreenBookは新しい手法等を積極的に紹介しているサイトでもあるので、多分、そういった手法に興味関心が高いリサーチ関係者が集まっているサイトであると考えられます。なので新しい手法の利用状況や利用意向等は実際の実態よりは(かなり?)高く出ているものと考えられます。

回答者の国籍も様々で、本年度の調査では米国からの回答が45%、ヨーロッパが38%、アジアが9%と、主に欧米のリサーチ業界の現状を反映した調査結果であると理解しておいた方がよいでしょう。また、回答者の属する組織がリサーチサプライヤーである割合は80%、クライアントサイドである割合は20%で、サプライヤーサイドからみた実態や意見に偏った調査結果となっています。

Webinar: Research Industry Trends: Current State of Change and
What’s to Come

最初にWebinarの概要を紹介しておきます。実は、このWebinarにはPart1 とPart2があります。Part1は、これから紹介するように、リサーチ業界の新しい手法の利用トレンドに関するディスカッションが中心の内容です。一方で、Part2は、「クライアントが、どのようにリサーチサプライヤーを選んでいるのか?」といった調査会社のビジネス面に関するディスカッションを中心とした内容となっています。

例えばPart2のトピックの例は、

  • リサーチユーザーが、リサーチサプライヤーを選ぶときに重視する点
  • リサーチサプライヤーからの、どのような営業活動が効果的なのか
  • 最もイノベーティブであると認識されている調査会社は?
  • リサーチサプライヤーは自社を差別化出来ているのか?

といった感じです。

Part2の、司会はLenny Murph (Greenbookの編集長)、パネリストはDavid Budenell(pureprofile社:オンラインパネル運営会社のvice president)、Matt Warta(GutCheck社:オンライン定性調査会社のCEO)、Suzana Pamplona Miranda(Johnson & Johnson のGlobal Strategic Insight Director)でした。Part2も、参考になる話が多いのですが、今回はこのメルマガの主旨により近いPart1にフォーカスして紹介させていただきます。

Part1のパネル司会者はPart2同様にGreenbookの編集長であるLenny Murphy(レニー・マーフィー)、パネリストはConfirmit社のWale Omiyale(ウォリー・オミヤーラ)、Schlesinger InteractiveのAnne Hedde(アン・ヘッデ)、Avery Dennison社Edward Appleton(エドワード・アップルトン)の3名です。

簡単にパネリストが所属する3社について紹介しておきます。Confirmit社は、ご存知の方も多いかと思いますが、世界的に有名なオンラインサーベイシステムのASPです。日本のネットリサーチ会社は、ほとんどがシステムを自社開発しているので、日本ではConfirmitを利用している会社は、それほど多くはないように思いますが、グローバルで見ると、ネットリサーチ業界のキープレイヤーの一つだと思います。このOmiyaleさんは、(今はわかりませんが)、以前はアジア担当で、日本にもよく来てました。Confirmitをご利用の方は、お会いになったことがあるかもしれませんね。


(Confirmit社サイト)
http://www.confirmit.com/


Schlesinger社は、アメリカ本社のマーケティングリサーチのデータ収集に特化していている会社です。アメリカの15の都市にグルインルームを保有・運営しているように、特に定性調査の実査・運営に強みを持っている会社です。ちなみに、私、同社のロサンゼルスのグルインルームを使ったことがあるのですが、その施設の豪華さにビックリ、クライアント用の食事を頼んだら、一人5000円分くらいかかって更にビックリしました(苦笑)

(Schlesinger社サイト)
http://www.schlesingerassociates.com/


最後の、Avery Dennison社。私は同社を全く知らなかったのですが、調べてみると、パッケージのラベルや店頭POP等を制作している会社のようです。といってもデザイン会社というわけではなく、飲料ボトルやシャンプー等に貼るラベルの粘着技術に高いノウハウがある会社のようです(ビジネスはこれだけではなく多岐にわたっているようですが)。マーケティングと深い関わりのある商材なので、リサーチを通したコンサルティング等も多々行っているのかと思われます。

(Avery Dennison社サイト)
http://www.averydennison.com/en/home.html

(日本支社もあります)
http://www.averydennison.jp/


さて、前置きが長くなりましたが、以下にディスカッションの内容を紹介させていただきます。なお、毎度のことながら、以下は、実際のWebinarの内容を一字一句翻訳したものではありません。多少内容を端折っておりますので、その点ご了承ください。

新しいリサーチ手法の採用度合い

最初に、新しいリサーチ手法の採用度合いについて見てみましょう。

※ 以下、このURLのチャートを見ながらディスカッションが進んでいきます。

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【レニー】アン、あなたやシュレッシンガー社の視点から見て、この調査結果で特記すべきことは何ですか

【アン】 調査結果の多く、例えばオンライン・コミュニティーやモバイル調査については、我々が予想していたことと合致します。テクノロジー、手法としては、スピードを持って動いているからです。私たちもこれらの手法をどんどん取り入れています。データ・アナリティクス、テキスト・アナリティクスは我々にとって大きな変化です。このようなことを採用していくのはみんなにとって素晴らしいことです。

【レニー】ウォリー、御社は世界有数のデータ・コレクション企業です。この数字の一部はグッド・ニュースでしょうが、一部はあなたを脅かすニュースになっているのではないですか?

【ウォリー】そうですね、全世界的にモバイルは目立って伸びています。オンラインは減少している一方、CATIは伸びています。我々にとって興味深いのは、ビッグ・データといった概念全体の;

(1) データの入手経路
(2) データの分析方法
(3) どの程度のデータが構造化されているのか

と言った点です。今後、マーケティングリサーチ分野で取り扱うデータの80%は非構造化データになると示唆されていますので、我々が、これらのトレンドに対応するために、どのように準備しないといけないのかと言った点も着目しています。

また、

(4) 従来の調査手法と非構造化データをどのように統合し、分析していくのか

と言った点も興味深い点として挙げられます。そうやって考えると、我々プロバイダーには様々なチャレンジが待っており、この変化がもたらす新しい機会にワクワクしています。テクノロジー・プロバイダーとしては、パンとバターのような関係で、常に新しいテクノロジーを開発することを試みています。

【レニー】エドワード、この数字を見ると、クライアント側とサプライヤー側の相違点が見えてくると思いますが、どう思いますか?

【エドワード】クライアント側とサプライヤー側の違いを見ていくと興味深いものがあります。オンライン・コミュニティーでは両者の差は大きくありません。残りの5つは差があるのですが、それぞれの要因は全く異なると思います。オンライン・コミュニティーが高いのは、きちんとした形で調査する場合に比べ、そこにいる人たちにちょっと話を聞いて終了と言う形で簡単に調査できるからでしょう。

モバイル調査については、現在使用中という割合がクライアント側は28%、サプライヤー側は45%と大きな差が見られるのが興味深いです。サプライヤーは、従来の調査の一部はタブレットやスマートフォンで代替できると気付いているからではないかと思います。

ソーシャル・メディア・アナリティクスは逆で、現在使用中の割合が、クライアント側が約半数の47%、サプライヤー側はずっと低く(34%)なっています。ソーシャル・メディア・アナリティクスはバリューに関する設問がないからかもしれません。もしかしたら、ソーシャル・メディア・アナリティクスに特化した企業があるからかもしれませんが、その辺はきちんと調べた方がよさそうです。

ビッグ・データは、クライアント側は40%、サプライヤー側は29%。クライアント側の40%が既にビッグ・データを使っているというのが面白いです。そもそも、ビッグ・データは組織のどこに所有されているのか、リサーチするにもスキルセットがいるでしょうし、データサイエンティストもいるでしょう。クライアント側の40%が自社でビッグ・データを扱っていると言っているのは、私にとっては驚きでした。

【レニー】この調査のn数は約2200で、クライアントが400社強、残りはサプライヤー(約1800)です。なおかつ、サプライヤーは専門性のある企業に集中しています。ここで注目すべきは「Why(なぜ)」ではなく、「Whats(何が)」と「Hows(どのように)」なのです。モバイルは単なる一手段に過ぎないので、クライアントが気乗りしていない一方、サプライヤーの方が関心を示しているわけです。逆に、ソーシャル・メディアについては、サプライヤーはあまり活用していないところは興味深いですね。

新しいリサーチ手法への変化の要因

※ 以下はこのチャートを見ながら話が進んでいきます

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【レニー】この流れで次のスライドを見て、変化の要因を探ってみましょう。もしかすると、手法の変化より、その要因を探る方が重要かもしれませんからね。エドワードに伺いたいのですが、このチャート内の数字で目に留まったものはありましたか?

【エドワード】「予算制限」という言葉が2回出てくる点ですね。「テクノロジー」についてはクライアントとサプライヤーとで差があり、サプライヤーにとってはある意味プレッシャーになっています。クライアント側は、よりスマートに、よりクリエイティブになろうとしています。モバイルはその典型例で、スピーディーな手法に移行することで、大規模な調査をしないで済むのです。スピーディーで、繊細なアプローチへと移行する一方、費用が今以上に高くならないようにすることも大事です。データの検証も必要となってきます。手法は大事ですが、手法をスイッチすることで数字が変わる可能性がありますので、検証を重ねたり、カリブレーションをしたりする必要があるでしょう。

【レニー】このWebinarの閲覧者から「自社でメディア分析を実施している企業がありますか?」と言う質問が来ています。私個人的には、エージェンシーに依頼していたとしても、必ずしもリサーチ会社ではないケースがあると思いますが、その点についてどう思いますか?

【ウォリー】全くの同意見です、特にソーシャル・メディアはそうです。クライアントにはマーケティングリサーチ部門があるが、必ずしもそこで実施されているのではなく、エンド・クライアントやマーケティング部門で行われていたりするかと思います。クライアントが、マーケティングリサーチ会社からそれ以外の会社へと移行している理由はそこにあります。クライアントは自社で様々なことをやっていますが、必ずしもマーケティングリサーチと直結しているわけではないのです。

【アン】私が指摘したいのは、「ビッグ・データ」の定義は会社によって異なっている点です。各企業は、ビッグ・データに対するニーズや、ビッグ・データを用いて何をしたいのかが異なっています。これらの企業は、膨大なデータセットを何年も持ち続けてきていて、これらを活用するテクノロジーを今のところ持ち合わせてはいないものの、データセットのことをよく理解していますし、何をしたいのかも分かっています。彼らが自社内でやらないといけないのは、予算の制限があるからでしょう。データのことはよく理解し、社外に彼らのデータセットを処理できる能力のある企業が存在していることも理解しています。

【レニー】閲覧者から質問が来ています。まず「クライアントは、インハウスのリサーチ部門を持つべきか?」と言う質問があり、それに対するウォリーの回答は「イエス」ですね。P&Gでインハウスのリサーチ部門が、P&Gのビジネスにどのような役割を果たしているかを考えると、「イエス」という答えになるということですね。

今、リサーチ業界に何が起きているのか?

【レニー】次に、アンに質問が来ています。「オンライン・コミュニティーやオンライン・サーベイは、どの程度クライアントによって活性化されていますか?マイクロ・サーベイについてもコメントしてもらえませんか?」という質問です。

注:以降、マイクロ・サーベイというワードが多々登場します。このマイクロ・サーベイとは、何ぞや?という方もいるかと思います。私も厳密な定義は知りませんが、一般的には1問、多くても数問の、セルフ型のネットリサーチを指すようです。そして、その代表が(日本では、まだそのサービスが利用できませんが)Google Consumer Surveysです。マイクロ・サーベイ=Google Consumer Surveysと考える人も多いようです。なお、Google Consumer Surveysの方法論やビジネスモデルはとても面白いので、いずれこのメルマガで紹介させていただきたいと考えています。

【アン】オンライン・コミュニティーについては質問者の言うとおりだと思います。この調査に回答したサプライヤーの一部は、実際にプラットフォームを持っているところが含まれているのではないかと思います。一方、クライアント側から見ると、モデレーションも含め、自社でやっているかもしれません。ですので、両面がこの調査結果に表れているのでしょう。

コミュニティリサーチの良さは、実施する方法が様々であることです。すべての工程を管理できる会社に依頼することもできれば、リクルート部分のみ依頼することもできたり、テクノロジーの部分のみ処理してもらうこともできたりします。柔軟性があって、使い勝手が良くて、いいツールだと思います。

マイクロ・サーベイについてですが、この調査結果を得た後、同僚の何人かからコメントをもらいました。19%と言うのは予想より高い数字で驚きました。マイクロ・サーベイは、早くて、安くて、コスト・パフォーマンスが高い。チョイス・モデリングやセグメンテーション等、複雑で、大きな決断をする際に利用したことがあるという人は聞いたことはありませんが、ここにある数字は事実なのでしょうから、我々も今後注視していくべきだろうと思います。

【レニー】私がクライアントと話していてシフトが起きているなと感じるのは、マイクロ・サーベイはコスト削減をするいい機会になっているということです。世界で大規模なトラッキング調査を実施している企業は、マイクロ・サーベイへのシフトが可能かどうかに着目しています。実際に、簡単な(シフトのための)テストを行う動きも出てきているようです。

数カ月前にグーグルのリサーチの売上を推測しよう試みたのですが、量とコストから行って、現時点で既に2000万ドル超えていると推測され、Honomichi 50にランクしているのです。ですので、私たちは今この業界にあまり多くのことが起きていないような気がしていますが、実際には様々なことが起きているのです。多くの企業はマイクロ・サーベイにシフトしていますし、その中でもグーグルは成功している典型例と言えます。また、TNS/カンターグループのような大手調査会社がマイクロ・サーベイへのシフトを試みていて、このような要因が成長を促していると思います。

【アン】レニー、私も同感です。あと先ほど言わなかったことがあるのですが、クイック・デプス・スタディーも台頭してきていると思います。従来のトラッキング調査の代わりに、それらを利用する動きがあります。

【エドワード】大手企業でも短い調査が増えてきています。従来の回答時間が30分とかかかる調査で似たような質問が続けば、調査対象者は途中で中断してしまいます。私は、質を向上させながらも時間を短縮できるという機会が生じてきていると思います。事細かな詳細を聞かなくても予測可能な質問はあるでしょうし、ダブりを排除して行きながらも効果的な聞き方はあるでしょうから。このような方法論に関して議論を重ねていかなければなりません。もちろん、今後、少ない調査本数で結果を出せれば、評価は高まるはずです。

【レニー】ウォリー、コンファーミットでは以前より調査が短くなってきていると感じていますか?

【ウォリー】我々は調査の長さを設問数ではカウントしておらず、対象者が調査に回答するのにかかる時間を見ているのではっきりとは言えません。ただ、最近は、1本の調査を分け、何週間かに亘って回答してもらうとか、中には各部分を違う対象者に回答してもらうとかの動きが出てきています。ただ、我々は調査プラットフォームの1つに過ぎないので、業界全体の動きをきちんととらえた方がよさそうです。

【レニー】確かに、この点に関する業界動向を理解するには、全てのプラットフォームが現状をシェアし合った方がよいでしょうね。

<以降、後篇に続きます:後篇では、更に様々な新しい調査手法に関してのディスカッションが進んでいきます。>