MROCとゲーミフィケーション

今回はMROCとゲーミフィケーションという、今ホットな2つのトピックを組み合わせたおトクな(?)話を紹介させていただきます。

皆様は、最近「ゲーミフィケーション」という言葉をよくお聞きになっているかと思います。

ゲーミフィケーションとは遊びや競争など、人を楽しませて熱中させるゲームの要素や考え方を、ユーザーとのコミュニケーションに応用していこうという取り組みで、最近マーケティング業界で注目されています。

10月に、「イノベーションゲーム」について紹介させていただきましたが、このようにリサーチにゲームの要素を取り入れて行こうという試みも増えてきているようです。

そんな中、MROCに力を入れている米国のInSites Consulting社が、MROCにゲームの要素を取り入れることに関するメリットやポイントについて、「GAME ON QUALITATIVE RESERAHERS」というプレゼンテーションを発表しました。今回はこのプレゼンテーションの内容紹介を中心にMROCにゲーミフィケーションを取り入れるメリットについて考えていきたいと思います。

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以下は上記プレゼンテーションの内容のポイントとなる部分をまとめさせていただいたものです。プレゼンテーションの内容を一字一句翻訳した訳ではないので、もっと詳しく知りたい方は元プレゼンテーションをご覧ください。

ゲーミフィケーションと定性調査

(ここからは、InSite Consulting社プレゼンテーションのまとめです)

現在、ゲーミフィケーションのマーケティングリサーチへの応用は、定量調査が中心となっている。
しかしながら、ゲーミフィケーションのコンセプトから考えると定性調査への適用も理に適っていると思われる。その理由として・・・

  1. ゲーミフィケーションのメカニズムを開発するコストを考えると、短い定量調査では割に合わないケースが多々あると考えられる。一般的に定性調査は、定量調査よりも、調査時間が長いので、開発コストに見合う可能性が高い。
  2. 我々は、定性調査で、すでにプロジェクティブテクニックやモティベーショナルテクニックを活用しているが、これらは、ゲーミフィケーションと類似するものである。例えば、我々は、しばしば対象者に、ディスカッションにおいて良い点/悪い点を発言することを求める。また、ロールプレイングを行い、様々な立場にたって発言を行ってもらったりもする。対象者に、例えば買い物というミッションを与え、その経験から発言を引き出そうとしたりもする。これらは、ゲーミフィケーションのコンセプトと共通するものである。

このように、ゲーミフィケーションと定性調査の相性はよいと考える。そして、我々、InSite Consulting社は、特に、MROCと、ゲーミフィケーションの相性がよく、MROCにゲーミフィケーションを取り入れるのが有効ではないかと考える。

その理由として、以下の4つのポイントを挙げる。

  1. MROCは定性調査の代表的な手法の一つであり、前述のようにゲーミフィケーションと定性調査はフィットする。
  2. MROCの参加者は数週間、もしくはそれ以上の長い期間に亘ってのエンゲージメント(調査/調査トピックに対する没頭)が必要。このエンゲージメントは、30分の定量調査よりも、MROCにおいてより必要なものである。ゲーミフィケーションはエンゲージメントを育むのに適しており、MROCにゲーミフィケーションを取り入れる意義は大きい。
  3. MROCが実施されるオンライン環境は、ゲームを自動化しやすく、大規模なゲームを実施することも出来る。
  4. MROCにおいてはソーシャル的な要素が重要。ゲームは対象者のソーシャル的な一面を刺激し、育むのに適している。

ゲーミフィケーショのMROCへの取り入れ方

我々はゲーミフィケーションをMROCに取り入れるには4つのレベルがあると考えている。

最初のレベルは、質問レベルである。我々はゲーミフィケーションを、質問をリフレーズ(言い換え)するのに利用している。例えば、我々はMTVがクライアントのMROCプロジェクトで、ジェネレーションY(アメリカ合衆国において1975年から1989年までに生まれた世代)が、彼らの住んでいる街のどのような場所をクールだと考えているのかを理解したかった。通常であれば、我々はジェネレーションYの対象者に自分の住んでいる街のクールな場所を挙げてもらい、その理由を述べてもらうといった回答を求めたであろう。しかしながら、我々はゲームの要素を取り入れ、対象者に、クライアント(MTV)に自分の街が最もクールであることをプレゼンテーションするように求めた。これは参加者のコンテスト形式で行われ、調査が終わった時に、MTVが、そのプレゼンテーションを聞いて最もクールだと思った街を発表するといった試みを行った。このような試みを行う事によって、我々は、ジェネレーションYの対象者からの、じっくりと考えられた反応を得る事が出来た。

二番目のレベルは、個人レベルのゲームであり、参加者に階級を与えることである。MROC参加者は、通常モデレーターによって呈示されたトピックに答えることによってポイントを得るのであるが、単純に答えさえすればポイントが得られるのではなく、その答えの内容/有益性によって与えられるポイントが増減するようにしている。加えて、対象者がとても創造的な回答をしたり、コミュニティを活性化させる回答をしたりしたときには、バッジ(ボーナス)を得られるようにしている。

三番目のレベルはグループレベルのゲームである。このレベルのゲームは常に実施出来るわけではなく、MROCコミュニティ内に少なくとも2つ以上のサブグループが存在している必要がある。このレベルのゲームは、このサブグループ対抗のコンテストである。例えば、あるMROCでベルギー人とオランダ人が混在したコミュニティを作ったことがある。そこで、我々はベルギーチームとオランダチームを競わせることにした。毎日、各チームからコミュニティに投稿されたコメントの数をカウントし、どちらが多かったかを発表した。この効果は抜群で。投稿の数が爆発的に増えた。

最後のレベルはコミュニティレベルのゲームである。我々はコミュニティに、例えば一定の期間にあるタスクを完成させるとか、ある期間内にコミュニティへの投稿数がゴールを超える目標を与えるとかのチャレンジを与えることがある。別の例は、新しいインサイトを探すためのアイデア創造ツールを活用したりすることである。コミュニティは全体で新しいアイデアや問題の解決策を探し、クライアントがそのアイデアを評価したり、更なる要求をしたりする。このようにコミュニティが一体となってニーズや問題の解決策を探す事になるようにしむける。

MROCにゲーミフィケーションを取り入れる効果

MROCにゲーミフィケーションを取り入れる事によって、どのような効果が得られるのか?

一つ目の効果は、コミュニティ参加者が、トピックをより真剣に、熱心に考えるようになることである。例えば、我々は過去の実験において、ゲーミフィケーションを取り入れたMROCは、取り入れないMROCと比べて、トピックに関する投稿が7倍増えるという結果を得ている。また、参加者は我々に、より深い内容の投稿をしてくれるという結論を得ている。それ以外にも、ゲーミフィケーションを取り入れたMROCでは、取り入れないMROCと比べて、より感情移入されたコメントが投稿されることや、より創造的なコメントが投稿されることという実験結果も得ている。

二つ目の効果は、ゲーミフィケーションを取り入れたコミュニティは、参加者が多様な視点でトピックを考えるようになることである。参加者が様々な視点でトピックにアプローチしてくれると、我々はトピックをより深く理解し、違うレベルのインサイトを理解出来るようになる。

例えば、我々はクライアントがチキータバナナのリサーチで、普段フルーツをよく食べるヘルシーな食事をしている人達と、フルーツをあまり食べないヘルシーではない食生活をしている人達でコミュニティを作り、クライアントが発売を検討していたフルーツスムージのポテンシャルを検証するというMROCプロジェクトを実施した。そしてコミュニティのセカンドフェーズで、Activation Deprivation(欠乏活性化)エクササイズというゲームを取り入れた。普段フルーツをよく食べる人達には、1週間フルーツを摂ることを控えてもらい、普段フルーツを食べない人達には1週間フルーツを毎日食べてもらうようにお願いした。そして1週間後に両グループに、「人は何故フルーツを食べなるのか・食べないのか」というレポートを提出してもらったところ、様々な多様な視点からのインサイトを発見することが出来た。 

データコレクションを超えて

注:以下は過去に紹介させていただいた、InSite Consulting社のMROCの記事の内容を踏まえながら紹介させていただいています(原文の内容とやや異なります)。

ここまで、MROCにおけるデータコレクション・フェーズにおけるゲーミフィケーションの活用を紹介してきた。しかしながら、ゲーミフィケーションはMROCの分析やレポーティングのフェーズにも活用出来る。

その一つで、我々がCloud Interpretation(クラウドインタープリテーション)と読んでいるものである。例えば、あなたが、あまり馴染みのないカテゴリーの商品やサービスの調査する事になったときのことを想像してもらいたい。あなたが定性調査の大ベテランであっても、その商品やサービスに対しての知識の欠如に不安を感じる事であろう。

このような時にクラウドインタープリテーションが役立つ。コミュニティの参加者に、調査結果の解釈に加わってもらうのである。彼/彼女たちは、我々リサーチャーが持っていない視点で調査結果を読み解いてくれる。このプロセスをよりエンゲージングにするために、我々はクラウドインタープリテーションゲームというのを取り入れている。

クラウドインタープリテーションゲームでは、最初のステップで、各分析メンバー(コミュニティ参加者からリクルートされた人)が、データ(MROCのディスカッション発言録)の解釈を発表する。 次のステップでは、別のメンバーが、それぞれの分析を採点する。 そして、もっとも高い採点スコアを獲得した分析者は特別ボーナスを得るような仕組みとなっている。あるプロジェクトにおいて、我々はこの分析アプローチを取り入れることによって、このアプローチを取り入れない時と比べて21%も多くのインサイトが見つけることが出来た。

また、我々は、このクラウドインタープリテーションゲームを、前述のMTVをクライアントとしたジェネレーションYによるコミュニティの分析にも利用した。我々には、この世代のリサーチャーが分析チームにいなかったため、MROC参加者を、分析チームに加えたところ、この世代の特徴、特有の価値観や考え方が深く理解でき、世代間ギャプを打ち破ることができた。我々はゲーミフィケーションを参加者のエンゲージメントを高めるためだけではなく、クライアントのエンゲージメントを高めるためにも活用している。

これは特にレポーティング・フェーズで効果を発揮する。我々は、クライアントが、彼らのターゲットに関して、知らないことがたくさんあるということを再認識してもらいたい時に、ゲームを取り入れる。例えば、我々がMROCからの調査結果をクライアント側の様々な立場の人々に報告する前に、彼らに、調査結果に関連するトピックに関してクイズ形式のテストを行う。このようなクイズ形式のテストをして、スコアを発表する事によって、テストスコアの低かった人は、熱心に我々のプレゼンテーションを聞き、報告書を読むようになる。

我々はこのようなゲームをユニリーバのR&Dチームへの結果報告に活用した。我々は、彼らがターゲットとしている生活者セグメントに関する様々なクイズをチームメンバーに出して回答してもらい、そのクイズの答えをR&Dチームのオフィスの様々な場所に張り出した。この試みによって、ユニリーバR&DチームのMROCに対するエンゲージメントがとてもアップし、その報告書が閲覧される頻度や、報告書の内容が社内ミーティング等で参照されたりする頻度がとても増えた。このことは、ユニリーバR&Dチームのメンバーが、調査結果のことをより頻繁に深く考えるようになったことを意味する。

もう一つの例はハイネケン主催のデザインコンペである。ハイネケン社は若者が好むクラブを作りたいと考えており、クラブのデザインを、あらゆる分野のデザイナーから募集しようとした。その際に、我々はMROCによってトレンディな若者にとって外出するということはどのような意味があるのかというインサイトを集めた。そして、そのインサイトにインタラクティブにアクセス出来るアプリを作成し、デザイナーに配布した。多くのデザイナーが、そのアプリで若者のインサイトに触れながら完成させたクラブのデザインを提出してくれた。

(プレゼンテーション終わり)

定性調査にゲームを取り入れる

InSite Consulting社のプレゼンテーションは以上となります。

皆様にとって参考になった部分はありましたでしょうか。私が一番参考になったのは、ゲーミフィケーションをクライアントのエンゲージメントを高めるために取り入れるという点です。

MROCをよく実施されている方々からは、MROCは参加者のエンゲージメントが非常に重要だという話をよく聞きます。この点に関しては、様々な手法や取り組みについて議論がなされているように思います。

同時に、MROCはクライアントが積極的に参加してくれなければ有益なものにはならないという話もよく聞きます。そして、「日本のクライアントは、MROC参加に積極的な態度ではないから、日本のクライアントはMROCの価値がわからないのだ」みたいな議論をよく聞きます。この点に関しては、あまり議論や取り組みやがなされていないように思いますがいかがでしょうか。

もちろん、我が国特有のクライアントさんの元々の態度みたいなものはあるかと思います。しかしながらMROC調査のサプライヤーサイドも、クライアントさんがMROCのデータコレクションや分析・レポーティングにエンゲージするための取り組みを実践することが欠けているのではないかというような気がします(これはMROCだけではなく、定性調査全般、また定量調査も同様かと思いますが)がいかがでしょうか。

我々、調査サプライヤーは、クライアントさんに調査結果を利用してもらって、始めて我々の価値がわかってもらえるものです。その意味では、クライアントさんにリサーチ結果へのエンゲージメントを高めてもらうことは非常に重要なことかと思います。また、我々リサーチ業界はプレゼンテーションが下手だというお叱りをユーザー様からよく受けますので、リサーチ結果の報告レベルをもっと上げる必要があるのだと思います。。そのために、調査結果の分析や報告フェーズにゲーミフィケーション的な試みを取り入れ、クライアントさんのエンゲージメントを高めるといったことが、今後もっと検討され、実施されるとよいのではないかと思いましたが、皆様いかがでしょうか。