ネットリサーチの結果をより意味あるものにする ・・・ハイブリッド調査のススメ

このコラムをお読みの皆様の多くは、サプライヤーとして、またユーザーとして、定量的なインターネットリサーチを数多く実施されていることかと思います。言うまでもなく、インターネットリサーチは現在、我が国を含む多くの国のリサーチ業界で最も利用されている手法です。しかしながら、最近はインターネットリサーチの結果をもっと掘り下げることが求められるようになってきているようです。

前々回書かせていただいた「米国リサーチ業界のトレンド」という記事で、米国リサーチャーへの調査結果から、米国では以下のようなトレンドがあることを紹介させていただきました。


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Digging even deeper with hybrid research/ハイブリッド調査による深い理解

ハイブリッド調査は、その質と量の両面において飛躍的に拡大している。

リサーチャーはより深く理解したければ、様々な方法によって、より掘り下げなければならないことに気が付いている。なので、ひとつだけのリサーチ手法は、様々な手法の組み合わせによるリサーチ手法にとって代わられつつある。また、定量と定性といった概念や区分もあいまいになりつつある。クライアントは、定量データとインサイト(定性)の組み合わせの情報が非常にリッチであることを認識し始めている。さらには、様々な定性調査を組み合わせることによって、より意味のあるインサイトが得られることも理解しつつある。今後、我々は、このようなハイブリッドなリサーチプロジェクトの飛躍的な発展を目にするであろう。

以前の記事はこちら


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また、昨年末に書かせていただいた、「Prediction 2013」という記事では、米国のリサーチ業界アナリストによる以下のような予想を紹介させていただきました。


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Q: 従来型マーケティングリサーチの新しい手法へのシフトが継続していく中で定量調査は今後定性/定量のハイブリッドになっていくのか、もしくは全く新しいものになっていくのか、どう思いますか。

A:
Simon: 定量調査という定義は今後変わっていき、今後は定性/定量ハイブリッド、ビッグデータ、ソーシャルメディア分析という意味に変化していくと思います。10年後には、これらの区別が無くなっていき、一般的な手法となっているのではないでしょうか。

Lenny: Simonが言った通り。現在の定量、定性といった二分法は、様々な手法による全く新しいパラダイムにシフトしていくと思います。
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今後、海外では定量調査と定性調査を組み合わせたハイブリッド調査が急激に延びていくだろうと考えられているようです(日本においても同様かと思います)。ではなぜ、今ハイブリッド調査が注目されているのか。

ひとつは、クライアントが、リサーチ結果により深いインサイトを求めるようになってきているからだと思います。そして、もうひとつは、インターネットを使った新しい定性調査(オンライン(掲示板)グルイン、テレビ電話インタビュー等・・・以下インターネット定性調査と略します)によって、ハイブリッド調査が、より実施しやすくなってきているからです。

前置きが長くなりましたが、今回はハイブリッド調査について考えてみたいと思います。実は、約1年前にもハイブリッド調査について書かせていただきました。

以前、読んでいただいた方には、やや繰り返しになるかもしれませんが、改めてハイブリッド調査について紹介させていただきつつ、ハイブリッド調査の価値について考えてみたいと思います。

ハイブリッド調査とは・・・

そもそも、ハイブリッド調査とは、どのような手法なのか。実は、いろいろな解釈や考え方があって、明確な定義があるわけではありませんが、「ある調査課題や目的に対して、複数の調査手法を組み合わせることによって課題解決や目的達成を図ろうとするアプローチ」と考えればよいのではないかと思います。(この点に関しては、米国iModerate Research Technologies社の面白い記事がありましたので、ご興味がある人はこちらをご覧ください。)

定量調査の結果を定性調査で深堀するといったアプローチは、最も典型的なハイブリッド調査と言えましょう。また、定量調査の事前に定性調査を実施するのも、ハイブリッド調査と考えてよいかと思います。また、二つの手法の組み合わせとして、定量と定性の組み合わせを想像しがちですが、最近では、例えばオンライン・ブログ日記調査と、グループインタビューを組み合わせるといった、様々な定性調査を組み合わせるハイブリッド調査も増えてきているようです。

では、なぜハイブリッド調査を実施する一番のメリットは何か?それは単一手法による調査結果よりも、より包括的かつ深い消費者理解が得られるということでしょう。以下にiModerate Research Technologies社の記事から、いくつかのリサーチャーのコメントを紹介させていただきます。

「近年、我々は、クライアントからのインサイトの要求求められている。そして例え定量調査であっても、より消費者の声を捉える必要性に迫られている。」

「私は、ハイブリッド調査という言葉を聴くと、より深い結果を得ることが出来る多面的なコミュニケーションの組み合わせによるデータ収集だと考える。」

「定量と定性のコンビネーションは、1+1=2以上のものが生まれるパワーがある」

「ハイブリッド調査は、定量調査に命を与える。大規模な定量調査を実施した時に、2000ものオープンエンドの回答をもらっても処理しきれないし必要もない。欲しいのは深さだ。」

また、二つの手法を組み合わせることによるコスト面でのメリットも生まれます。

特に、定量調査の回答者から定性調査の参加者を確保する場合は、リクルート費用を大きく圧縮することが出来ます。またインターネット定性調査であれば、会場費は必要ありませんし、謝礼も圧縮が可能なので、かなりの低コストでハイブリッド調査が実施できます。

加えて、インターネット定性調査であれば会場の空き状況に煩わせられることありませんので、フレキシブルかつスピーディーなタイミングでインターネットリサーチのプラスする定性調査が実施出来ます(尤も、オンライングルインは実査期間自体が長いので、スピーディーとは言えませんが・・・)。

新しい定性調査を利用したハイブリッド調査
・・・なぜ従来型グルイン・デプスはだめなのか?

ここまで、読んできて、「現在もインターネットリサーチに従来型グルイン/デプスを組み合わせることは、今もよく行われている。インターネット定性調査は、従来型グルイン/デプスよりも、低コストだというのは、わかるとして、それ以外に何が違うのだ」と疑問に思う人は多いかと思います。そのような方は、以下の例を考えていただきたいと思います。

例えば、1000サンプルのインターネットリサーチを行ったとします。この際、従来型グループインタビュー(会場でのグループインタビュー)への参加者を何人くらい集めることが出来るのでしょうか?

インターネットリサーチ回答者の中で、グループインタビューに呼びたい人の割合(条件合致率)を10%とします。また会場でのグループインタビューへの参加許諾率を10%とします。単純に考えると、会場でのグループインタビューの参加者として確保できるので

1000サンプル x 10%(条件適合率) x 10%(参加許諾率) = 10名

です。これだと、1グループは成立しそうです。

しかしながら、これには条件があります。1000サンプル全員が首都圏居住者である必要があります。実際は、1000サンプルというやや大きめのサンプルサイズのインターネットリサーチにおいて、全員が首都圏居住者という設計をすることは少なく、首都圏の割合は3-4割程度ではないでしょうか(もちろん例外はあります)。となると、会場でのグループインタビュー参加者は

400サンプル x 10%(条件合致率) x 10%(参加許諾率) = 4名

となり、1グループも成立しません。これだと、別途リクルートが必要となり、その分、費用や時間がかかってしまいます。

一方で、インターネット定性調査を利用したケースについて考えます。

会場グループインタビューのリクルートと異なるのは、参加者の居住地域が関係なくなる(全国から参加できる)ことです。加えて、参加許諾率が上がります。対象者はわざわざ会場に行く必要がないので、参加許諾率は、会場グループインタビューと比べて2-3倍となります(当社比)。

なので、新しい定性調査を利用したグループインタビュー参加者は

1000サンプル x 10%(条件適合率) x 20%(参加許諾率) = 20名

となり、数グループのグループインタビューが問題なく実施出来ます。

インターネットリサーチ回答者から従来型グループインタビューへの参加者をリクルートするということは、実際数多く行われているので全く無理という話ではありませんが、参加者確保が困難になりがちです。一方、上記の例を見ていただければインターネット定性調査へ誘導した方が、その実現性は遥かに高まりますし、良質な参加者を多数確保できます。このように参加者確保の点において、従来型グルイン/デプスとインターネット定性調査には大きな違いがあります。

この参加者確保の点と、低コスト、タイミングのフレキシビリティやスピード感という点で、インターネット定性調査は、従来型グルイン/デプスよりもハイブリッド調査を実施しやすくしています。

ハイブリッド調査の活用シーン

では、どのような調査目的の場合、ハイブリッド調査を実施するのが適しているのでしょうか。このことは、日々、調査を企画・設計している皆さんにとっては、釈迦に説法となりますが、以下は、一応、確認の意味を込めて読んでいただければと思います。

結論から言うと、単純に実態を知りたい時以外、すなわち調査目的として、消費者/顧客の心に関すること(意識や態度)を知ることが重要な場合は、どのような調査においても、ハイブリッド調査をする価値があるかと考えてよいでしょう。

再び、iModerate Research Technologies社の記事によると、リサーチャーが考えるハイブリッド調査が適していると考える調査目的は上位から順に

1.コンセプトテスト
2.メッセージテスト
3.広告テスト
4.ネーミングテスト
5.パッケージテスト

だそうです。

※ メッセージテストと広告テストの区別が厳密にはわかりませんが、恐らくメッセージテストは広告コピー寄りの、広告テストはクリエイティブ寄りのテストのことでしょうか。いずれにせよ、広告に関する調査かと思います。

上記、いずれも複数の案(コンセプト案、コピー案、広告クリエイティブ案、ネーミング案、パッケージ案等)を呈示して、全体評価、購入意向、独自性等の定量的な評価から、最も優れた案を選び出すタイプの調査です。このような調査においては、もちろん、どの案が勝った/負けたを判断することも重要ですが、それと共に、なぜそのような結果になったかを理解することが重要ですね。

記事にはこんなリサーチャーのコメントが紹介されています。

「私たちは、なぜ、定量調査で、あるコンセプトの評価が高かったのか理解できなかったの。それは、現行のブランドイメージにそぐわないものだったから・・・。でも、定性調査をしてわかったの。対象者は、単にその広告クリエイティブが好きだっただけなの。そして、それは、本来このブランドが伝えるべきメッセージを伝えていないことを(だから、このコンセプトは選ばなかった)」

その他、セグメンテーション調査においても、ハイブリッド調査は非常に役立ちます。マーケットを特定の切り口でセグメント化して、各セグメントの特長をあぶりだす。そんなときは、フォローアップの定性インタビュー調査は必須ですね。また、ホームユーステストなどにも有効です。考え方は、上記コンセプトテストと同じですが、定量的に最も優れたテスト製品を検証し、その理由を定性調査で深堀するといった調査はとても役立つものでしょう。製品が長期使用に亘るものであれば、そこにオンラインの日記調査などを加えてもよいかもしれませんね。

以上、今回はインターネットリサーチの結果をより有益にするハイブリッド調査について書かせていただきました。繰り返しになりますが、ハイブリッド調査という考え方自体は、決して新しいものではありません。しかしながら、そこにインターネットを活用した新しい定性調査を活用することによって、クオリティが高い参加者に、低コストでスピーディーにアクセスすることが可能となってきました。

今後、インターネットリサーチを企画・実施する際には、定性調査を加えることを検討してみてはいかがでしょうか。驚くべき低コストかつスピーディーに、また手間をかけることなく、インターネットリサーチの価値を向上させることが出来るかと思います最後に、あるリサーチャーの言葉を紹介して、今回のコラムの締めとしたいと思います。

「クライアントは、数字以上のものを欲している。だから、我々が彼らに提供するものは、不毛なものであってはならない。我々にとってハイブリッド調査は、(単純なインターネットリサーチの結果の)一歩上のレベルの意思決定が出来る情報を与えてくれる武器である」