米国リサーチ業界における定性調査のトレンド

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今、海外のリサーチ業界で何が起きているのか?海外のリサーチ業界にはどのようなトレンドがあるのか。そして、そのトレンドは、日本のリサーチ業界にも起きるのか?リサーチの仕事に関わっている皆さんには、とても興味がある話だと思います。昨年12月にも、同じようなトピックを書かせていただきました。

今回は、米国のリサーチ会社のスペシャリストが現在の米国リサーチ業界のトレンドについて書いた記事を3つ紹介させていただきます。この3つの記事には、多くの共通することがトレンドとして書かれています。今回は、この3つの記事から、今後、日本のリサーチ業界、特に定性調査に起こりそうなことを読み取っていただければと思います。

※ 以下は、原文記事をかなり端折って、かなり意訳して紹介させていただいております。詳細をお知りになりたい方は、各リンクから原文をご確認ください。

Marketing research trends to watch in 2013
2013年の注目すべきリサーチ業界のトレンド

最初は米国シカゴにあるInsights in Marketing社による記事を紹介させていただきます。具体的な方法はわかりませんが、同社はリサーチャーにリサーチすることによって、リサーチ業界には以下の6つのトレンドがあると発表しています。

※元記事はこちら

トレンド<その1>: 
Psychology 101/心理学101

意志決定の裏に潜む、心理学の理解がますます重要になっていく。

我々は、まずます消費者が習慣によって行動が支配されている生き物であることに気が付き始めている。習慣や日常ルーティーンといったものは、日常生活の行動の45%以上を支配している。マーケターやリサーチャーは無意識や習慣のチカラを認識し、何がその行動を掻き立てるのかを理解する力を育てなければならない。

これからのマーケターやリサーチャーは年齢やライフステージ、態度項目等による、カテゴリーやブランドセグメンテーションは消費者理解に不十分であることに気づくであろう。

我々の2012年の調査によると、「世のマーケターが、自分のことを理解し、自分に向けて効果的なマーケティング活動を展開している」と感じている消費者は、男性においては9%、女性においては、14%のみであった。


トレンド<その2>:
Strengthening bonds between retailers and researchers/小売業とリサーチャーの結びつきが強まりつつある

小売業界もリサーチ業界も、お互いの重要性を認識し始めている。小売業界の巨大企業であるAmazon.comやWal-Martは、メーカーが送り出す製品に莫大な影響力を持っていることに、メーカーは気づいている。そこで、メーカーは、インストアリサーチやオンラインのショッパーリサーチを行うようことが増えてきている。また、小売業自身も、自らがリサーチを行うようになってきている。小売業自身も、生活者の買い物行動や来店動機を理解し、どのようにお客を自店に引き付けるか、継続的な来店を促すかに注力するようになってきている。

トレンド<その3>: 
Balancing speed with quality/スピードとリサーチ品質のバランスを取る 品質を保ちながらも、スピーディーなリサーチが、ますます求められてきている。

近年のビジネスにおいて、上級役員やマネジャーは、短期的な結果を出すことが求められる傾向が強まっている。リサーチ会社にも、その傾向に対応するように、リサーチ期間の短縮やスピーディーなリサーチ結果の納品が求められるようになってきている。とはいえ、クオリティを犠牲にして、スピードだけ追求すればよいというわけではなく、クオリティを保ちつつスピーディーなリサーチがますます求められるようになってきている。

トレンド<その4>: 
Focusing your focus groups/フォーカスグループを、もっとフォーカスする 

消費者を理解するうえで、「多い」と「意味がある」は別 グループインタビューは消費者心理を理解するための重要なツールであることには依然変わりはない。しかしながら、グループインタビューの1グループのサイズがだんだん小さくなってきている傾向が顕著にみられる。多くのクライアントがグループの人数を4-5人にすることによって、多くの人数による薄っぺらな会話よりも、深く豊かな会話を聴きたいと感じ始めている。また、大人数による「Group Think(集団浅慮)」が生まれる危険性も、少人数化することによって回避したいと考えるようになってきている。この傾向は特に食品・飲料業界で顕著である。


トレンド<その5>:
Digging even deeper with hybrid research/ハイブリッド調査による深い理解 ハイブリッド調査は、その質と量の両面において飛躍的に拡大している。

リサーチャーはより深く理解したければ、様々な方法によって、より掘り下げなければならないことに気が付いている。なので、ひとつだけのリサーチ手法は、様々な手法の組み合わせによるリサーチ手法にとって代わられつつある。また、定量と定性といった概念や区分もあいまいになりつつある。クライアントは、定量データとインサイト(定性)の組み合わせの情報が非常にリッチであることを認識し始めている。さらには、様々な定性調査を組み合わせることによって、より意味のあるインサイトが得られることも理解しつつある。今後、我々は、このようなハイブリッドなリサーチプロジェクトの飛躍的な発展を目にするであろう。


トレンド<その6>: 
Keeping it simple – and actionable/シンプルかつアクショナブル アクションをインスパイアしてくれるリサーチパートナーが選ばれる。

 弊社のクライアントサーベイによると、クライアントがリサーチパートナを選ぶ際の最も重要な基準のトップは「アクショナブルなインサイトを提供してくれる」であった。この調査結果から、我々はリサーチ結果の提供における「storytelling」の重要性を再認識させられた。クライアントはまずます時間に追われる一方で、様々な膨大な情報にアクセスできるようになってきている。なので、リサーチパートナーからは、情報を簡潔・簡単に伝えてもらうことを期待している。これからのリサーチャーにはデータを集めて、分析することだけではなく、インサイトを見つけ、マーケターにアクションをインスパイアさせることが求められるであろう。また、そのためには、今後、リサーチ結果を伝える手段としてinfographics, storybooks, video等のツール活用も重要になってくるであろう。

5 Things That Will Become Obsolete in MR Sooner Than You Think? リサーチ業界であなたが想像している以上に早いペースで時代遅れになる 5つのこと

続いては米国ミシガン州にあるGongos Researchのリサーチイノベーション部長の書いたブログを紹介させていただきます。

※元記事はこちら


時代遅れになるもの<その1>: 
In-Person Focus Groups/従来型グループインタビュー

従来型グループインタビューは絶滅危惧種と考えてよいだろう。消費者をインタビュールームに呼んで、2時間も座らせておくことは、段々難しくなってきている。また、従来のインタビュールームでクリエイティブな発想を生み出すのは難しい。これから我々は、バーで友人と語り合うような環境でのグループインタビューを目にしていくだろう。対象者にとって、もっと楽しく、クリエイティブなアイデアを生み出すのに適した環境でのグルインが行なわれていくと思う。また、長期的には、モバイル機器を利用したオンラインでバーチャルなグルインが爆発的に普及するのを目にすると思う。例えば4G LTE回線の普及によって、リサーチャーは対象者がどこにいようとアクセスできるようになるであろう。

時代遅れになるもの<その2>: 
PowerPoint Reports/パワーポイントの報告書

パワーポイントは、現在のマーケティングリサーチの結果伝達/納品における、最もスタンダードなツールであるが、それは多面的でインタラクティブであるべき情報を硬直化させてしまう。なので、今後は、リサーチ結果をアクティブに探索でき、直感的に把握できる新しい技術の犠牲者になっていくであろう。

時代遅れになるもの<その3>: 
Online Surveys/パソコンによるインターネットアンケート

モバイル機器の急激な発達に伴って、30分のオンライン調査・・・みたいな調査は、数年後にはバカげた考えになっていくだろう。我々リサーチャーとクライアントは、調査参加者の時間を借りているということを再認識しなければならない。では、これからどうなるのか?Micro-surveys(タイムリーな数問の調査)、Modular data-fusion techniques(データの穴埋め技術によって回答者の負担を減らすテクニック)、Geofence-driven in-the-moment mobile feedback(スマホGPS機能を活用したフィードバック)、Facial sentiment recognition(顔表情による感情分析)、Mobile neurofeedback(モバイル機器を活用したニューロ調査)等が主流になるであろう。

時代遅れになるもの<その4>: 
The Quant / Qual Duality/定量と定性の二元性(区別/区分)

現在のマーケティングリサーチ業界にはびこっている定量vs.定性という概念は消え去っていくであろう。これまでは、「定量 or 定性」であったのが、「定量 and 定性」に変化していき、両者は同時に行なわれるものとして考えられるようになって行くであろう。その結果、数年後のリサーチ結果は、今日のものと比べて、より深く、よりインサイト溢れるものになっているであろう。そして、その結果は、今日よりも、よりスピーディーに得られるようになっているであろう。

時代遅れになるもの<その5>: 
The Rational Frame/合理的な思考やフレームワーク

これまでのマーケティングリサーチは、人間は合理的な選択をする生き物であるという前提で成り立ってきたが、それは本当ではないと、みんな気が付き始めている。様々なアトリビュートを、5ポイントスケールで無理やり聞いても、あまり意味がないことに気が付き始めている。近年の行動経済学への注目の高さは、我々が「人間が合理的ではない」ことに、気が付いている証拠である。今は、行動経済学もまだまだ発展途上でマーケティングリサーチへの有効な活用が出来ているとは言えない。しかしながら、今後更に発展したら、人間の行動を予測や説明出来るようになる新しい時代が来るのではないだろうか。

Top 12 Focus Group Trends?
グループインタビューに関するトップ12のトレンド

最後は米国ニューヨークにあるResearch & Marketing Strategies社のGeorge Kuhnという人が書いたグループインタビューに関する記事からです。ただ、この記事は、Naomi Hendersonという方が書いたSecrets of a Master Moderatorを引用した記事なので、正確にはNaomi Hendersonによるトレンド情報です。ちなみに、このNaomi Hendersonという方は、米国モデレーター界の大御所みたいな人で、現在はRIVA Market Research & Training Instituteというところで、モデレーターのトレーナーとして活躍されている人です。

※元記事はこちら


グルインのトレンド<その1>:グループサイズの縮小

以前は10名がスタンダードであったグループのサイズが8名になり、現在は6名が主流になってきている。クライアントは、サイズが大きすぎるのはよくないことに気が付き始めている。また、それに伴い、対象者の負担を減らし、重要なことのみに集中するために、1セッションの時間が120分よりも90分がより適切だという考えも広まりつつある。

グルインのトレンド<その2>:ミニグループ(4-6人)の増加

グルインのトレンド<その3>:ディアド(2名の対象者 vs インタビュアー)、トライアド(3名の対象者 vs インタビュアー)の増加

デプスインタビュー(1 on 1)をモニタリングする負担を減らすため、ディアド/トライアドインタビューが増えてきている。

グルインのトレンド<その4>:クライアントの社員として働くモデレーターが増えてきている

クライアントがフリーのモデレーターを都度採用する手間とコストを減らすために、このような動きが広まっている。

グルインのトレンド<その5>:パワーポイントによる報告(書)を求められることが増えてきている

これまでは、ワードによるボリュームたっぷりの報告書が主流だったが、パワーポイントによるストーリー性のある簡潔な報告書が求められるようになってきている。

グルインのトレンド<その6>:クライアントはモデレーターに購入決定/意志決定に関する、より深い洞察求めるようになってきている

グルインのトレンド<その7>:クライアントは、グルインにより精通してきており、よりクリエイティブな手法を求めるようになってきている

グルインのトレンド<その8>:ターゲット顧客を理解するためのリサーチにおいて、グルインを必須として考えるクライアントがだんだん増えてきている

グルインのトレンド<その9>:グルイン/デプスの実施時間が変わりつつある

これまでは、平日の夜に行われるのが殆どであったが、朝7:30から実施する朝食グループが当たり前になってきていたり、土曜日に親子に参加してもらうグループが増えてきていたりしている。

グルインのトレンド<その10>:対象者への謝礼金額が上昇傾向で、定性調査の費用が上がりつつある

グルインのトレンド<その11>:クライアントはレポートに、「グループで何が起こったか」ではなく、「それが何を意味するか」というインサイトを求めるようになってきている

グルインのトレンド<その12>:「マスターモデレーター(モデレーションの専門家/熟練者)」の需要が高まってきている

これからの我が国の定性調査業界への示唆

以上、米国のリサーチの専門家が書いた、リサーチ業界のトレンドに関する3つの記事を紹介させていただきました。個人的には、ここに書かれているトレンドはすべて、多かれ少なかれ、日本のリサーチ業界にも、あてはまることのように思いますが、皆さんの感想はいかがでしょうか。また、皆さんが注目しているトレンドはどのようなものでしょうか。

私は定性調査に関連して、特に以下の3つに注目しています。
 

  1. グルインの1グループあたりの参加人数の縮小化

    これは、クライアントの、より対象者を深く理解したいというニーズを反映したトレンドかと思われます。一方で、デプスは時間がかかりすぎるので、ディアド(対象者2名 vs インタビュアー)、トライアド(対象者3名 vs インタビュアー)が増えているという意見も書かれていました。今後、定性インタビューは、グルインとデプスの区分がなくなって、2-5人くらいのサイズによるインタビューが主流になっていくのかもしれません。また、この傾向に伴い、今後リクルートの重要性がますます高まっていくように思います。定性調査においては、より適切な厳選された対象者から、じっくり話を聞くという流れになっていくように思います。

     
  2. ストーリー性のあるアクショナブルな調査結果の報告に対するニーズの高まり

    上記、3つの記事において、表現は違うものの共通して、調査結果のレポーティングに求められるものが変化してきていると書かれています。そのキーワードは「インサイト」、「ストーリーテリング」、「アクショナブル」でしょう。今後、我が国の定性調査の結果報告においても、これらのキーワードを踏まえたレポーティングが求められていくことでしょう。そのためには、もちろん分析者の能力・技術の向上が最重要課題かと思いますが、それと共に、プレゼンやレポーティングの技術として、パワーポイント以外のツールの開発・活用が重要になっていくものと考えています。

     
  3. 定性/定量の壁がなくなってきている

    2番目の記事に「定量 or 定性」であったのが、「定量 and 定性」に変化しつつあるとありました。インターネットの発達に伴う、様々なデータ収集方法の発展や調査技術の進化によって、「定量 and 定性」が、安い費用かつ、短期間で実施できる時代が来ています。そして、今後、この傾向はますます強まっていくことでしょう。この傾向が強まるという事は、調査から得られる情報量が莫大に増えるという現象も生み出します。また、インターネットを通して、調査以外からも莫大な情報が簡単に得られる時代です。今後リサーチャーには、莫大に増えた情報を的確に取捨選択し、統合し、「ストーリー化」し、「アクショナブル」なアウトプットを生む出す能力が重要になってくることでしょう。

     

以上、今回は米国のリサーチトレンドについて、書かれた記事を紹介させていただきました。米国で起こっていることが、必ずしも日本でそのまま起こるわけではありませんので、上記の記事をそのまま鵜呑みにする必要はないかと思います。しかしながら、今回紹介されていたトレンドにそれぞれについて、なぜ、米国では、そのようなトレンドになっているのかということを考えてみると、それが今後、日本でもトレンドになるかどうかが見えてくるかと思います。今回のコラムが、皆さんの今後のお仕事の何らかのヒントになれば幸いです。