Pinterest(ピンタレスト)を定性調査に活用する

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皆さんはPinterest (ピンタレスト)というSNSサービスをご存知でしょうか。

画像に特化したSNSサービスで、2010年にサービスが始まって以来、米国で急成長を続けているSNSです。現在のところ日本語版はないので、日本ではまだまだ知られていないかと思いますが、米国ではFacebook, Twitterに次ぐ第3のSNSと言われているほどにまで、急成長を遂げています。

最近、海外では、このPinterestを定性調査に活用しようという動きが活発になっているようです。Pinterestがどのようなものか知ると、確かに定性調査に活用出来る方法がありそうです。今回は、Pinterestの定性調査への活用について考えてみました。

Pinterest(ピンタレスト)とは

そもそもPinterestとは、どのようなSNSサービスなのでしょうか。

簡単に言うと、様々な写真や動画を自分のマイページ(ボード)に貼付けて(ピン)、他の人と共有が出来るサービスです。こう書くと、よくあるクラウドで写真を共有できるサービスと何が違うのかと思いますが、Pinterestの大きな特徴は、「インターネット上で見つけた」写真(や動画)を、収集できることです(自分で撮影した写真も貼付けることが出来ます)。

※ まずは、こちらを見てもらうとイメージが掴めるかと。
現在、国内で最もフォロワーの多い人のボードです(ここまで来るとアートですね。とってもクールです。

http://pinterest.com/k15h1/


毎日、ネットを見ていると、気に入って残しておきたい写真が多々ありますね。好きなタレントの写真であったり、応援しているサッカーチームの写真であったり、美しい風景であったり、行ってみたい旅行先の写真であったり、参考にしたいファッションであったり、今度買いたいと思う商品であったり・・・そういった様々な写真をクリックひとつで(=Pinする)、自分のコレクションにしてしまうことが出来る便利なサービスです。

また、コレクションの際には、カテゴリーごとにボードを設定することが出来るので、例えば好きなタレントのページ、今度買いたいものリスト、参考にしたいファッションのページみたいに写真を整理した上で収集することが出来ます。また、それぞれの写真にはコメントをつけることも出来ます(これは、定性調査に活用する際に役立つ機能です)。

注:インターネット上の写真をPinすることに関して、著作権をどう考えるかは、いろいろと議論があるようです。

基本的には、そのコレクション(ボード)は他のユーザーからも閲覧可能なので、他に自分と同じような趣味や興味関心を持っている人をフォローしたり、フォローした人の写真にlikeを押したりコメントを付けたり、その写真を自分のボードに加えさせてもらったり(ripin=リピン)してネットワークを広げていきます。

上記に「基本的には」と書きましたが、昨年より、ボードを一般には公開せずに、自分が許可した人にしか公開しないシークレットボードという機能が追加されました。この機能追加によって、Pinterestが定性調査に活用できる可能性が大きく広がりました。

また、このPinterestのビジネスへの活用にも注目が集まっています。PinterestはFacebookページのような、ビジネス専用ページを用意しており、その活用方法に注目が集まっています。海外においてはGapの活用例が有名です。

http://pinterest.com/gap/

日本の企業においても、Pinterest活用が始まっています。その代表格は楽天さんでしょう。楽天さんは2012年にPinterestに出資しているみたいです。今後、楽天市場との連携も模索しているようです。そのうち楽天さん主導でPinterest日本語版が出来るかもしれません。

その他、ローソンさんやドンキホーテさんの活用例も有名です。

なお、ある米国の調査によると、現在の米国Pinterestユーザーの約8割が女性だとのこと。なので、特に女性を主顧客とする企業で注目が集まっているようです。

調査会社のPinterestへの注目

さて、ここまでPinterestの概略を紹介させていただきましたが、ここからが本題です。海外では調査会社がPinterestを調査に活用する試みを始めているようです。

例えば、米国コネチカット州のCivicomという調査会社は、この5月に対象者のPinterest利用をサポートするサービスを始めました。

このサービスは、Civicom自体がPinterestを使った調査を提供するというよりは、他の調査会社がPinterestを使って調査をする際のサポートをするサービスのようです。Pinterest自体は誰でも使う事が出来るSNSですが、ある調査の対象者になって欲しい人が、必ずしもPinterestユーザーであるとは限りません。そのような人にアカウントを貸し出し、使い方の説明をする等のサポートを行うことによって、クライアント(他の調査会社)が、きっちりと必要なデータが取得できるようにするといったサポートサービスのようです。

確かに、今までに全くPinterestを使ったことがない人が、調査に利用するデータを提供出来るレベルまでにPinterestを使いこなせるようになるには、いくつかの設定が必要であったり、操作を覚えないといけないとかで、簡単ではないような気がします。そのあたりをサポートするということにはニーズがあるかもしれません。

また、オランダにはPintereserach というPinterestを使った調査を専門としている調査会社もあるようです。HPを見ただけでは、どんな会社かイマイチよくわかりませんが・・・

その他にも、GoogleでPinterest + Marketing Researchで検索してもらうと、結構Blog等で、その利用について紹介されています。

Pinterestの定性調査への活用

さて、では実際問題として、Pinterest はどのように定性調査に利用できるのでしょうか。この点に関しては、上記に書かせていただいたPinterestがどのようなものかを理解していただければ、コラージュが真っ先に頭に思い浮かぶかと思います。

皆さんは、グループインタビューやデプスインタビューを実施する際にコラージュというテクニックを利用したことはありますでしょうか。リサーチ会社のホームページや定性調査の本を読むと、投影法のひとつとして必ず紹介されていますが、いざ実施するとなると、時間がかかる、準備が面倒、インタビュー・分析・解釈が難しい等で、あまり実施されていないのが実情ではないかと思います。

では、コラージュは、あまり実施する価値はない手法なのでしょうか。まあ、定量・定性にかかわらず調査には様々な手法がありますが、それがどれだけ有効なのかということは証明するのは、(前回も書きましたが)なかなか簡単なことではありません。そんな中で、面白い研究結果がありますので、簡単に紹介させていただきます。

宮城大学と新潟大学の方が、同じテーマ(コンビニのデザートについて)の調査課題について、通常のディスカッションだけのグループインタビューと、グルインにコラージュを取り入れた場合、グルインに事前課題として写真撮影を取り入れた場合(ポラロイド法というらしいです)の結果比較を行ったそうです。詳細は、サイトをみていただければと思いますが、コラージュを取り入れたグルインは、通常のグルインと比べて、対象者の発言時間が3.8倍、発言回数が6倍になったとのこと。また、通常グルインでは得られなかった、インサイトにつながる発言が得られる、対象者が発言しやすいと感じる、モデレーターが対象者から発言を引き出しやすいと感じる、等グルインから得られる結果に大きな違いが見られたそうです。

※ リンクが貼れないので、興味のある方は「消費者インサイト発見手法の有効性検討」でググってみてください。

このような結果は、実際にコラージュを体験されている方にとっては、肌で感じられていることかと思いますが、実際の数値(発言回数が6倍等)が示されると、体験されたことのない方にも分かりやすくて、説得力があってよいですね。定性調査って、どうしても感覚的な世界になりがちですが、このような研究がもっと増えればよいと思い紹介させていただきました。

さて、このように、コラージュは、対象者から発言やインサイトを引き出すのに有効な手法だと考えられます。そして、Pinterestはコラージュ作成に有効活用できそうです。もう少し具体的なPinterestの活用例として考えられることを、Diane M. Harrisという方が提案していますので、以下に紹介いたします。

http://www.greenbook.org/marketing-research.cfm/whats-the-interest-in-pinterest-35051
 

  • コンセプトに対する対象者が感じたことを反映した写真をPinしてもらう
  • 対象者が考える理想的な状態、製品、サービスを反映したボードを作成してもらう
  • ブランドのイメージやブランドが提供していると感じるイメージのボードを作成してもらう
  • 食品や飲料における、言葉だけでは表現しにくいイメージ的なアトリビュート(フレッシュ感がある、やわらかい、ヘルシー)を、写真をつかって表現してもらいブランドチームやコピーライターが、その味を表現するのに役立てる
  • 自分自身の価値観、興味、理想、恐怖、不満等を表現するボードを作成してもらう

Pinterestの定性調査活用に対する今後の期待

ここまで、Pinterestの紹介と、海外での活用状況を紹介させていただきました。皆さんは、今後自分の担当する定性調査プロジェクトでもPintersetを利用してみたいと思いますか?私としては、うまく使えば、今後定性調査のクオリティアップの有効な武器になるのではないか考えています。特に、グループインタビューやデプスインタビューの事前課題として、コラージュを作成してもらうことは取り組む価値のある方法なのではないかと考えております。

先ほど書きましたが、これまで、コラージュをグルイン中に実施しようとすると、時間がかかる、準備が面倒というネックがありました。しかしながら、今後、Pinterestを活用し、事前課題として、コラージュ作成(写真収集)に取り組んでもらえば、この問題は解決しそうです。

調査したいテーマについて対象者に事前に思考を巡らせてもらうことは、(もちろん、それが適さない調査もありますが)実際のインタビューを活性化させ有益な結果を得るのには非常に有効だと思います。

Pinterestによるコラージュ作成(写真収集)を事前課題として対象者にお願いすることは、対象者も楽しく、手軽に取り組む事ができ、また対象者に事前に思考を巡らせてもらうという点で非常に優れた手法のように思います。

ちなみに、最近はグルイン・デプスの事前課題として、対象者にスマホやデジカメを活用して調査テーマに基づく写真を撮ってもらい送ってもらうことが増えているように思います(弊社もよくします)。ただ、自分で撮る写真はあくまでも、現在に自分の生活範囲の中におけるものに限られます。これでは、例えば自分の理想の世界/あるブランドのイメージ・・・みたいなテーマに基づく写真を集める事は困難です。しかしながらPinterestは、Web上に存在するありとあらゆる写真を収集することができますので、自分の価値観を表現してもらいたいみたいなテーマの場合に、より適していると思います。

とは言え、現段階でのPinterestの普及状況や機能を考えると、実際に定性調査の事前課題に使う際にはいくつかクリアすべき点もありそうです。

まず、Pinterest利用者はほとんどいない、かつ現在は日本語サイトがないので、いくらPinterestが使い易いといっても、対象者への事前の使い方のインストラクションは必須かと思います。日本語による使い方説明書作成と電話等によるインストラクションが必要かと思います(前述、Civicomがやっているようにサポート業務)。

また、ある程度の写真リストを用意することも必要なことかと思います。繰り返しになりますがPinterestは基本的にはWeb上に存在するありとあらゆる写真を収集することが出来ます。ただ、逆に、無数にあるサイトのどこからでも写真を収集してよいと言われると、かえって、どこから写真を探してよいのか対象者は迷ってしまうのではないかと思います。なので、Pinterest上に、使ってよい写真を集めたボードを用意し、まずは、そこにある写真をrepinしてもらう、そして、それ以外に足りない時は、自分が普段みているサイト等から探してもらうといった方法が、対象者の負担も少なく、現実的なのではないかと思います。

この二つの点は、Pinterestを実際に定性調査で使う際にはクリアすべき点かと思います。

以上、今回はPinterestの定性調査への活用に関して書かせていただきました。弊社でも、Pinterestの利用に関して、試みを始めておりますので、ご興味のある方は、お声かけいただければと思います。