様々な定性調査手法の利用状況(GRITより)

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このコラムでも紹介させていただいているように、 最近は定性調査の様々な新しい手法が登場してきています。では、これらの手法が実際どの程度利用されているのでしょうか。また、 リサーチャーやリサーチユーザーはどのような手法に注目し、 今後利用したいと考えているのでしょうか。

昨年の7月の本メルマガでGRIT(GreenBook Research Industry Trend Report)を紹介させていただきましたが、先日、GRITのWinter2013版がリリースされました。 今回は、その一部を抜粋して紹介させていただきます。

GRIT-GreenBook Research Industry Trend Reportとは

まずは、GRITのことをご存じない方のために、GRITについて説明させていただきます。タイトルにありますように、GRITとはGreenBook Research Industry Trend Reportの頭文字をとったものです。では、そもそもGreenBookとは何かという話ですが、 これはNew York AMA CommunicationServices, Incという会社が運営している、世界中のマーケティングリサーチ会社のDirectory(名簿)や、リサーチに関する情報を提供したりしているサイトです。

※GreenBookのサイトはこちらです


GRITは、このサイトが実施している、読者を対象としたアンケートの結果をレポーティングしたものと考えればよいかと思います。もちろんこのサイトの利用者(読者)は、マーケティングリサーチに係る人々なので、GRITは、リサーチ業界の現状を知る有力な手がかりとなります。

とはいえ、GRITの基となっているアンケート調査は、決して代表性のあるものではありません。回答者は、このサイトに登録している人が中心です。私のところにも昨年秋に調査の協力依頼が来たので参加してみました。ただ、あまりに質問数が多かったので、途中で辞めてしましましたが・・・(苦笑)

回答者の国籍も様々です。米国からの回答が43%、UKが13%、西ヨーロッパが10%、そして、カナダ、インド/東南アジア、オーストラリア/ニュージーランドがこれらの国に続くようです。サイトが英語なので、どうしてもこのような結果になってしまうのでしょう。

また、回答者の属する組織がリサーチサプライヤーである割合は84%、クライアントサイドである割合は16%だそうで、サプライヤーサイドからみたリサーチ業界の実態や意見に偏った調査結果となっています。

このような回答状況なので、GreenBook自身もMethodologyのパートで、これは、「センサスや代表性のある調査ではなく」、「strongly directional」(業界の方向性を指し示す)調査だと書いています。

またGreenBookは新しい手法等を積極的に紹介しているサイトでもあるので、多分、そういった手法に興味関心が高い人が集まっていると考えられます。新しい手法の利用状況や利用意向等は実際の実態よりは高く出ているものと考えられます。以上を踏まえて、以下の調査結果を読んでいただければと思います。

2012年に利用した定性調査の手法

まずは、2012年にどのような定性調査手法を利用したのかという質問に対する結果を紹介させていただきます。

+++ Which types of qual methods have you used this year?
(今年<2012年度>、あなたが利用した定性調査の手法をお知らせください(MA))

+++ Which of these qualitative data collection method have you used most often this year?
(今年<2012年度>あなたが最も利用した定性調査手法をお知らせください(SA))

※ 以下( )内の数字は、前者がMA、後者がSAの結果です。順番はMAの数字の高いものでソートしています。


1. Traditional (In-person) Focus Group「従来型(対面型)グルイン」 (60%、48%)
2. Traditional (In-person) IDIs「従来型(対面型)デプス」 (45%、15%)
3. Telephone IDIs「電話デプス」 (35%、13%)
4. Chat based Online Focus Group (25%、3%)
5. In-store shopping observations (25%、2%)
6. Bulletin Board Studies 「掲示板を使った調査」(22%、5%)
7. Interviews/Group Using Online Communities 「オンラインコミュニティを使ったインタビュー/グループ(MROC)」 (21%、7%)
8. Mobile (diaries, image collection etc) 「携帯・スマホを使った調査(日記、写真収集等)」(18%、2%)
9. Online Focus Group with webcams 「Webカメラを使った(テレビ電話)グルイン)」(15%、2%)
10. Online IDIs with webcams 「Webカメラを使った(テレビ電話)デプス」(12%、1%)
11. Monitoring Blog 「ブログモニター」(12%、2%)
12. Chat (text based) Online IDIs 「テキストチャットを使ったデプス」(11%、1%))
13. Telephone Focus Groups 「電話グルイン」(10%、1%)

やはり、まだまだ従来型(対面式)グルインとデプスが、主要な定性調査手法であるようです。私にとって、やや意外な結果はTelephone IDIs(電話デプス)が3番目であることです。MAで35%、SAで13%も利用者がいるのですね。日本では電話デプスって、ほとんど行われていないように思うのですが・・・

新しい調査手法の利用意向

続いて、どのような新しい調査手法(定量/定性かかわらず)が注目され、利用意向があるのかという調査結果の紹介です。

+++What use of these techniques and approaches do you see ahead in your future?
あなたは、これらの手法それぞれの将来の利用についてどのように考えていますか

※ 以下の(  )内の数字は左から順番に、
+ In use「(将来)使う」、
+ Under consideration「検討している」、
+ No Interest to date「今は興味がない」、
+ Don’t ever expect to use「将来的にも使わないと思う」、
+ Not sure「わからない」

※ 順番はIn useの数字の高いものでソートしています。

1. Online Communities「オンラインコミュニティ(MROC)」(45%、38%、9%、3%、4%)
2. Mobile Survey「携帯・スマホを使った(定量)調査」(42%、45%、9%、2%、3%)
3. Social Media Analytics「ソーシャルメディア分析」(36%、42%、12%、4%、5%)
4. Text Analytics「テキストマイニング」(32%、37%、15%、5%、11%)
5. Webcam-based Interviews「Webカメラを使った(テレビ電話)インタビュー」(26%、38%、23%、6%、6%)
6. Mobile Qualitative「モバイル(携帯・スマホ)を使った定性調査」(24%、41%、20%、6%、9%)
7. Visualization Analytics「ビジュアライゼーション分析」(23%、31%、14%、4%、28%)
8. Eye Tracking「アイトラッキング」(22%、21%、30%、19%、9%)
9. Apps based research「スマホのアプリを使った調査」(22%、45%、19%、4%、10%)
10. Mobile Ethnography「モバイルエスノグラフィ」(20%、40%、21%、7%、12%)
11. Virtual Environment「仮想空間を使った調査」(17%、30%、23%、10%、20%)
12. Predictive Markets「予測マーケット(ビッグデータ分析?)」(17%、30%、20%、6%、27%)
13. Research gamification「ゲーミフィケーションを利用した調査」(15%、34%、20%、9%、23%)
14. Crowdsourcing「クラウドソーシング」(13%、30%、27%、7%、23%)
15. Facial analysis「顔表情分析」(9%、20%、39%、19%、13%)
16. Neuro Marketing「ニューロ(脳反応)マーケティング」(9%、21%、27%、20%、22%)
17. Biometric Response「生体反応分析」(7%、21%、33%、17%、22%)

上記には私が馴染みのない手法もあり、もしかしたら、日本語訳が適切ではないものがあるかもしれません。もし、間違い等ございましたら、ご指摘いただけると幸いです。また、選択肢の英語の解釈が難しいのですが、最初のIn useというのは、レポートの分析コメントを読むと、「現在使っている」という実態よりは、「将来使う」といった意向/予定のニュアンスに近いようなので、そのように訳しています。

さて、やはり、一番、利用予定/興味関心が高いのはOnline Communities、続いて、Mobile Survey、Social Media Analyticsが続きます。「Communities」、「Social」、「Mobile」が、今後のリサーチ業界を語る上でのキーワードとなるようです。

弊社がメインで取り組んでおります、Webcam Based Interviewsに関しても、26%が将来使う、38%が検討中と回答しており、高い利用予定/興味関心があるという結果が見られました。

新しい調査手法の利用を妨げるもの

最後に、どのような要因が様々な調査手法の利用を妨げているのかという調査結果が出ていましたので紹介させていただきます。

従来型グルイン、モバイル調査、オンラインコミュニティ(MROC)等の新旧取り混ぜた11の手法に関して、サプライヤー、クライアントそれぞれが実際に使用する際の妨げになる要因をMA形式で選んでもらった結果です。(Webcam based interviewについて結果が出ていないのが残念ですが・・・)

以下にレポートで紹介されている11手法の結果から、従来型グルイン、オンライン・グルイン、ソーシャルメディアモニタリング、オンラインコミュニティに関してクライアントサイドの結果を紹介させていただきます。

+++What is holding you back from using…
この手法を利用するにあたって、ためらいになるものは・・・

※ 以下は、22のMA選択肢の中から、上位項目のみ記載します。

<従来型グループインタビュー>
1. Too expensive「価格が高すぎる」(67%)
2. Time constrain「時間的制約/時間がかかる」(44%)
3. Old fashioned research supplier「調査会社が旧態依然」(33%)
4. Research providers lack of imagination「調査会社に想像力が欠如している」(33%)

<オンライン・グルイン>
1. Lack of proof it works 「有効な手段であるとの証明が欠けている」(48%)
2. Unproven「証明されていない」(38%)
3. Fear of trying something new 「新しいものを試みることに対する恐怖心」(38%)

<ソーシャルメディアモニタリング>
1. Lack of knowledge「知識が足りない」(64%)
2. Too hard to organize「組織化するのが難しい」(45%)
3. Too expensive「価格が高すぎる」(41%)
4. Blockers within the company「社内で抵抗勢力がある」(36%)

<オンラインコミュニティ(MROC)>
1. Budgetary constrains「予算的制約」(60%)
2. Fear of trying something new 「新しいものを試みることに対する恐怖心」(47%)
3. Lack of knowledge「知識が足りない」(40%)
4. We are not capable doing it「自社では実施する能力がない」(27%)
5. Too hard to organize「組織化するのが難しい」(27%)


従来型グループインタビューの利用に関しては、価格と時間がかかりすぎることが、利用時の障害となっているケースが多いようです。一方、オンライン・グルインに関しては、その手法自体の有効性に疑問がもたれているようです。

オンラインコミュニティ(MROC)に関しては、Budgetary constrains「予算的制約」が最大の障害になっているようです。ただし、これはオンラインコミュニティ(MROC)のToo expensive「価格が高すぎる」という結果が20%のみなので価格が高いというニュアンスではなさそうです。

このBudgetary constrains「予算的制約」と、Too expensive「価格が高すぎる」と何が違うのかというのが、イマイチわかりにくいのですが、オンラインコミュニティ(MROC)新しい手法なので、社内で予算化しにくいというニュアンスなのでしょうか・・・。また、Fear of trying something new 「新しいものを試みることに対する恐怖心」も47%と高いので、新しい手法に特有のTrialの壁を今後どう打ち破っていくかが、今後のMROC普及のポイントと言えそうです。

今回の本コラムでのGRITの紹介は、以上となりますが、GRITには、上記で紹介した以外にも様々な興味深い調査結果が記載されています。誰でも最新版をダウンロードできますので、ご興味のある方は一読されてみてはいかがでしょうか。

(ダウンロード先はこちらです)
http://www.greenbookblog.org/grit/

GRITの調査結果からもわかるように、海外では従来型グルイン、デプス以外の様々な定性調査手法の利用が、着実に広まっています。当メルマガでは、今後も海外の動向をウオッチし、皆様に有益な情報提供をしていきたいと思います。