グローバル定性調査におけるオンライン手法活用の可能性

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今回はグローバルな定性調査について書かせていただきます。というのも、最近、弊社ではいくつかの海外に関わる定性調査に関わらせていただく機会がありとても有意義な経験をさせていただきました。

グローバル調査に関して、定量面では海外でオンラインパネルを構築する会社さんも増えてきており、今後の成長の糧として力を入れている会社様も多いのではないでしょうか。一方で定性面に関しては、様々な難しい点があり、本格的に取り組まれている会社様はごく一部のように思われます。

このグローバルな定性調査、オンラインを活用することにより今後の発展が期待できないでしょうか。本記事では最近、関わらせていただいた海外関連の3つの定性調査事例を紹介させていただくとともに、オンラインがグローバルな定性調査の発展に今後どのように活用できるかに関して感じたことを書かせていただきました。

インバウンド型とアウトバウンド型のグローバル定性調査

まずグローバル定性調査は二つにわけて考えたいと思います。インバウンド型とアウトバウンド型です。

インバウンド型定性調査は、海外クライアントが日本市場や日本の消費者について理解するための定性調査です。もう少し平たく言うと、海外企業がエンドクライアントである(ただし、海外の調査会社が窓口になっているケースが多々)国内で実施されるグループインタビューやデプスインタビュー、稀に訪問インタビュー等とお考えください。

昨今、海外企業は中国市場等への進出に熱心で日本市場への興味は薄れていると言われていますが、未だ世界で3番目の経済規模を誇る日本、海外企業による日本市場に対しての一定の定性調査ニーズは存在しているようです。このようなインバウンド型定性調査に関してはグローバルのネットワーク経由で仕事が流れてくる外資系調査会社さんが強いように思います。

もう一方のアウトバウンド型定性調査は、日本企業が、海外市場や海外の消費者について理解するための定性調査です。海外マーケットに進出している、または今後進出しようとしている日本企業をエンドクライアントとして海外で実施するグループインタビュー/デプスインタビュー/訪問インタビューと考えればよいかと思います。

ただし、一口で海外と言っても、その対象となる国は様々です。どの国で調査が必要になるのかはエンドクライアント様が、どのような国に進出しているか、今後どのような国への進出を考えているかによります。現在は米国とアジア諸国における調査ニーズが多いようですが、今後は中東や南米での調査ニーズも増えてくるかもしれませんね。

さて、弊社は最近このインバウンド型とアウトバウンド型定性調査の両方においてオンラインを活用するお手伝いをさせていただく機会がありました。以下に3つのケースを紹介させていただきます。なお、守秘義務の関係上、あくまで手法上の話にとどめ調査の内容には踏み込んで書いておりませんのでその点はご了承ください。

ケース1:日本のグループインタビューを、海外から見てもらう(インバウンド型)

一つ目のケースはインバウンド型定性調査です。外国のエンドクライアントが日本で実施するグループインタビューを海外の数カ所からライブ視聴するお手伝いをさせていただきました。

<調査背景と目的>

  • 調査依頼先はグローバルで製品展開する海外メーカーの研究・開発部署(海外の数地点に点在)
  • 最近日本で発売した新製品に関して、日本の消費者の利用満足度、改善点を明らかにし、今後の製品改善に役立てるのが主目的

<実施概要とポイント>

  • 都内グループインタビュー会場においてグループインタビューを実施
  • グループインタビューの様子を弊社ライブストリーミング.comを利用してライブ中継、クライアントは海外および日本の複数の拠点からインタビューを視聴
  • 中継時の音声は同時通訳者と日本語音声の二か国語で配信。

<結果>

海外および日本のすべてから問題なくインタビューを視聴いただくことができました。そしてインタビュー終了後には、電話会議システムを利用して、複数の拠点間でインタビューの結果に関して、活発なディスカッションが行われました。

ケース2:日本のホームビジットインタビューを、海外から見てもらう
(インバウンド型)

二つ目のケースもインバウンド調査です。外国人が日本の生活者を理解するにのにホームビジット(家庭訪問)インタビューは非常に有効な手法かと思います。実際に日本人の生活シーンを見ることはグループインタビューやデプスインタビューといった単に会場で話を聞く手法では得られない理解をもたらすことでしょう。

とはいえ、クライアントが海外から来日して、日本の家庭を訪問するには多大な費用と時間がかかります。また、日本の住居の狭さや対象者のうける心理的なプレッシャーを考慮すると訪問可能な人数が限られるといった問題もありますが、このような問題はオンラインを使うと解決可能です。

<調査背景と目的>

  • 調査依頼先は海外の化粧品ブランド
  • 日本での展開を考えているメイクブランドに関して日本市場においてどのような層がターゲットとなるのかを理解するとともにブランドコンセプトの受容性を評価する

<実施概要とポイント>

  • スマートフォンを使ったオンラインインタビューを実施、

    ※今回の案件はデプスインタビューが主目的ではありましたが、対象者がスマートフォンを使ってインタビューに参加していたこともあり、インタビュー中に自宅内のメイク用品を置いている場所を映してもらい、普段使用しているメイク用品の紹介してもらうといったエスノグラフィのパートも設けました。
     
  • その様子をライブストリーミング.comを利用して海外に中継
    (海外での視聴者用に同時通訳者の英語音声を配信)


<結果>
海外の担当者も快適にインタビューを視聴することができました。今回のデプスインタビューにおいて、自宅内の観察は主目的ではなかったものの、結果として視聴者がインタビュー内容を深く理解するために大いに役立ったようです。

※ちなみに今回は、メイク用品を置いている場所といった限定的な観察でしたが、スマートフォンを使ったオンラインインタビューでは家の中全体を観察させていただくことも何ら問題ありません。

ケース3:海外のデプスインタビューを、日本から誰も現地に行かずに実施する(アウトバウンド型)

3つ目のケースはアウトバウンド型定性調査です。海外で実施するデプスインタビューを日本から誰も行くことなく実現するというチャレンジのお手伝いさせていただきました。

<調査背景と目的>

  • 調査依頼先は日本の某メーカー様
  • タイの消費者の生活実態を明らかにするために会場でデプスインタビューを実施

<実施概要とポイント>

  • 対象者リクルート、インタビュアー用意、同時通訳者用意、および実査運営は現地タイのリサーチ会社に依頼
  • インタビュアー場所は現地リサーチ会社所有のインタビュー専用ルーム
    ※対象者を会場に招き、FaceToFaceのデプスインタビューを実施
  • 事前に弊社オンラインインタビューシステムを現地リサーチ会社にインストラクションし接続のチェック。
  • インタビュー実施の数日前に弊社オンラインインタビューシステムを利用して、クライアント会議室と現地リサーチ会社を繋ぎ、インタビュアーブリーフィングを実施。
  • 当日インタビューの様子は弊社オンラインインタビューシステムを利用して、クライアントオフィスに中継、クライアントは自社オフィスでインタビューの様子を視聴
    ※同時通訳者の音声を配信、クライアントは日本語(同時通訳の音声)を聞きながらインタビューを視聴
  • クライアントからの追加質問がある場合はオンラインインタビューのチャット機能を利用して質問、またはインタビュー終了後にまとめて、同時通訳者を通してインタビュアーに依頼

<結果>

クライアントは自社オフィスの会議室で、タイ・バンコクで実施されているデプスインタビューをリアルタイムで快適に見ることができました。個人的には、当初、途中で映像や音声の切断がないか心配していたのですが、一部のセッションで映像の遅延があったものの、それ以外は問題なく、ほぼ完ぺきな、あたかも現地会場のバックルームにいるような視聴環境をクライアント様に提供することができました。

海外定性調査におけるオンライン手法活用の可能性について

さて、ここからは上記の3つの調査を経験させていただいて考えたことを記載させていただきます。やや弊社サービスの宣伝ぽくなる部分もありますがご了承ください。

まずはインバウンド型定性調査に関してです。こちら(日本で実施するグルイン・デプスを海外から視聴する)に関しては、フォーカスビジョンを利用すれば同様なことは出来るので、それほど目新しい話ではないかもしれません。とはいえ、フォーカスビジョンは費用面やサポートの面で気軽に利用できないという話をよく聞きます。また、フォーカスビジョンが利用できる会場も限られます。弊社のライブストリーミング.comは会場にとらわれないという、また費用面やサポートに関しても大きなアドバンテージがあるのでより使いやすいかと思います。

続いてアウトバウンド型定性調査についてです。本記事を読まれている皆さまもこちらの関心が高いのではないかと思います。結論として、いくつかの点を注意すれば、オンラインはアウトバウンド型定性調査に十分に使えて、今後に向けても様々な可能性があると思いました。以下にメリット/気をつけるポイント/今後チャレンジしたいことをまとめてみました

メリット

アウトバウンド型定性調査においてオンラインを活用する最大のメリットは、言うまでもなく費用と時間の大きな削減かと思います。今回、タイに日本から誰も行くことなく実査が実施できたことのコスト削減効果は非常に大きなものがあります。例えば、調査会社の人間が2名、クライアントが3名の計5名がタイ・バンコクに出張したとしたら幾らかかっていたでしょうか。出張費(交通費と宿泊費)が一人20万円かかるとして、5名なら少なくとも100万円のコスト削減効果があったと考えてよいかと思います。また調査会社やクライアントの人間が、繁忙期に1週間近く、日本を留守にすることの他の業務に対する影響は計り知れません。これを避けることができるという効果も非常に大きなものがあるのではないでしょうか。

もちろん、調査会社やクライアントの人間が現地に行くことに意味が無いとは言いません。特にクライアントが初めての国に行き、現地の生活に触れたり感じたりすることには大きな意義があることかと思います。しかしながら、そこに100万円の価値があるのかは考えるべきことだと思います。それなら、その100万円でインタビューのサンプル数やグループ数を増やしてみたほうが得るものが大きい場合もあるのではないでしょうか。また、過去に何度も訪問している国であれば改めて行く必要性はあまりないかと思います。

注意すべきポイント

上記の通り、アウトバウンド型定性調査における費用と時間の削減効果は非常に大きいと考えられます。ただこれもインタビュー自体が日本でもトラブルなく視聴できて初めて意味をなすことです。今回のタイ・バンコクのケースにおいては、この点を十分クリアすることができたのですが、相手先の状況によっては上手くいなかい場合もあるかもしれません。

最も重要なポイントはインタビュー調査を実施する現地のネット環境です。オンラインインタビューやライブストリーミングにおいては、ある程度、安定した高速のネット環境を確保できるかどうかが成否を握ります。この点は国や現地の会場によって不安を残す場合があるので事前の十分なチェックが必要かと思います。

加えて、現地との準備や、実査中の対応に関して、現地とスムーズにコミュニケーションができるということも重要です。その点で、先方は英語ができるということ必須条件となります。たぶん、現地の調査会社のほとんどには英語ができるスタッフがいるかと思うので、その点ではほぼ問題ないかと思いますが、万が一先方がローカルの言語しかできないスタッフのみの場合は、スムーズな運営に支障をきたす可能性があるので注意が必要かと思いました。

今後チャレンジしたいこと

今回の経験を踏まえて、今後チャレンジしてみたいことが二つ思い浮かびました。一つ目は日本からインタビューを行うということです。

アウトバウンド型定性調査の最も難しい点はどのようなことでしょうか。日本の調査会社の視点からすると、多くのケースで、初めての未知のパートナー(現地調査会社、現地モデレーター、同時通訳者)と仕事をしなければならないという点ではないでしょうか(逆にこの辺の信頼できるネットワークがあると、それが強みになるわけですが)。

グループインタビューやデプスインタビューのクオリティはモデレーター/インタビューによるところが大きいことは言うまでもありません。同時に、海外インタビュー調査においては同時通訳者のクオリティがとても重要なのは皆さまご存知の通りです。ただ、このモデレーターと同時通訳者の選択は、ほとんど選択の余地がなく、現地調査会社から紹介された方をそのまま使うしかないというケースが多いのではないでしょうか。これは、ある意味でギャンブルに近いかもしれません。アウトバウンド定性を実施したことがある方には、現地で紹介されたモデレーターや同時通訳者を利用して、満足できなかった経験を持つ方も多いのではないでしょうか?

このようなギャンブルを避けるために、現地ではなく、日本でモデレーター(日本人)と同時通訳者を用意して日本から海外の対象者にインタビューをするということがオンラインを活用する際の一つのオプションではないかと考えました。このパターンの場合、もちろん調査会社やクライアントは気心の知れた信頼できる日本人モデレーターにインタビューを依頼することができます。また、英語であれば、同時通訳者を現地で探すより日本で探したほうが信頼できる方を低コストで見つけることができるのではないでしょうか。

モデレーターと通訳者を日本に置くということは、通訳が逐語訳的になり、インタビューに時間がかかるかもかもしれません。しかしながら、現地のクオリティの低い同時通訳でインタビュー内で話される発言内容の50%くらいしか伝えられないのであれば、多少時間がかかってもそのほうがよっぽどよいような気がしますがいかがでしょうか。また、この場合、インタビュー専用の会場が必要なかったり、現地のモデレーターにブリーフィングする必要なかったりとで、コストと手間の大きな削減も期待できます。

もう一つ、今後チャレンジしてみたいと考えたことは、アウトバウンド型でオンラインを使ったホームビジットを実施することです。これは前に紹介させていただいたケース2の逆バージョンだとお考えください。

この海外オンラインホームビジットは、これまでも何度かご相談をお受けしたことがありご興味持たれている方も多いのではないかと思っております。ただ、これまでは色々な理由で実現が難しかったので弊社で実施させていただいたことはありません。ただ、昨今スマートフォンによるオンラインインタビューのクオリティが格段に向上したこともあり、ようやく、実現可能な時代がやってきたと考えております。今後ぜひチャレンジしてみたいアプローチです。

今回は以上となります。グローバルな定性調査はオンラインを使うことにより今後様々な発展の可能性があると考えております。グローバルな定性調査に関わられている皆さま。今後、ご一緒に新しい取り組みをさせていただいと思いますのでよろしくお願いいたします。