あなたが信じているグループインタビューの常識は間違っているかも知れない

新しい定性調査に関する情報マガジン バックナンバー vol.66

現在、定性調査で最も利用されている手法であるグループインタビューには様々な常識があります。例えば、我が国ではグループインタビューの参加者は6名がベストだという常識があります。グループインタビューの企画を任された多くの人は、その常識に基づき盲目的に1グループを6名として設計するのではないでしょうか。

しかしながら6名というのは本当にベストな人数なのでしょうか?もしかしたら3名や4名で実施した方が有益な情報が得られたりはしないのでしょうか?逆に海外で主流の8名ではいけないのでしょうか?あなたは6名がベストだという明確な根拠や理由を説明することができますか?

また、「一つのグループに男性と女性を混ぜるな」という常識もあります。これも本当なのでしょうか?もしかしたら男女を混ぜたほうが多様な視点が得られるのでグループがより活発な議論になったりするとは考えられないでしょうか?

「イノベーションを起こしたいなら、常識を疑え」という言葉があります。定性調査にイノベーションを起こすために、たまにはグループインタビューの常識について疑ってみるのもよいかもしれないと思い今回の記事を書いてみました。

グループインタビューの参加者は6名がベスト・・・それ本当?

現在、我が国で行われているグループインタビューはモデレーター1名と対象者6名で実施されることがほとんどです。しかしながらこの6名というのは、本当にベストな人数なのでしょうか。私がこの疑問を持ったのは以下の記事を読んでからです。

4人以上の場で「会話が苦手」になる人の必然 - 脳の処理能力に大きな原因がある

ちなみにこの記事の著者はグループインタビューのモデレーターとしても活躍されており、自らの経験からも対象者が3名のグルインがベストではないかと主張されています。

詳しくは記事を読んでいただきたいのですが、要旨をまとめると以下のようなことのようです。

  • あなたは「1対1」がからっきしダメかと言われるとそうでもないけれど、人が増えるとなぜか話しづらくなる……こんな思いを抱いたことはないだろうか?
  • 実はこの現象、「コミュニケーション能力」の問題ではなく、「前頭葉の処理能力」によるところが大きい問題である。
  • 会話をしている間、誰かが話すと、それを聞き、相づちを打ったり、自分が発言したりして反応する。すると、それにまた相手は反応する。「会話」というのは、こういう「言葉と思考の応酬」である。
  • 人数が増えると、当然ながら話す人が増え、入ってくる情報も増える。さらに、「誰に話すのか」という選択肢も増える。ということは、脳が処理すべきことが増えるということになり、1対1の「脳がなんとなく処理できる」範囲を超え、処理が間に合わなくなって言葉が出てこなかったり、相手の話にうまく反応できなかったりするのである。
  • この「脳の処理能力」が追いつかなくなるのは、いったいどこからなのだろうか?著者は、この「前頭葉の処理能力」の境界線が「3」と「4」の間にあると考えている。
  • 「3人」のLINEグループなら、なんとなくメッセージがきても気楽に返せるが、「4人」のグループになった途端、「連絡がいっぱい来る」感じがして面倒くささが一気に増し、反応するときも「この人には返したから、こっちにも返信したほうがよいかな」と気を使って気疲れしてしまう経験はないだろうか。
  • 「連絡・伝達」というコミュニケーションにおいても、「3人」と「4人」の間には大きな壁があり、4人になった瞬間、コミュニケーションをとるのが脳からすると「大変な作業」になってしまう。
  • 筆者は、実際、マーケターとして商品の評判を調査するため集団インタビュー(グループインタビュー)をするが、集まってもらう人数が「3人」までだと参加者全員がディスカッションでもスムーズに発言するのだが、「4人」になった瞬間、必ず沈黙しがちな人がちらほら登場するということを多々経験している。
  • これは個別に聞いての感覚知ではあるが、やはり「複数が苦手」という人の大勢が「3人までなら何とかなっても、4人になると結構しんどい」と打ち明ける。
  • また、3人までだと一緒に話したり行動したりするのに、4人になると、しれっと2人ずつに分かれるようなケースも多いと思う。
  • これは、脳が「処理しやすいように持ち込もう」と考えることに原因があり、「3人までだと処理できるけれど、4人になると処理が追いつかないので、処理しやすいよう少人数に持ち込もう」と脳は考えるからである。

いかがですか。筆者によると人間の脳は4以上になると情報の処理に困難をきたすようになるそうです。そういえば、プレゼンテーションの資料を作るきも要点は3つにまとめろとよくいいますが、これも同じ理屈なのかと思います。

このグルインの人数に関してはアウラ様も6人であることに疑問を呈されています。

6名は多すぎる、ただ3名まで少なくなるとグループダイナミクスが起きないので4名がよいのではないかという主張をされています。また分析する立場からしても、4名だと分析時に参加者一人一人のことを明確に再現できるのだが、6名になると1-2名記憶から抜け落ちてしまう人がいるということもあるとのことです。

モデレーターをされている皆さま、グループインタビューを観察して分析される皆さまは、これらの主張どう思われますか?

よく6名いたら、たいがい1-2名、ほとんど発言しない謝礼泥棒が混ざるので、保険として6人は確保しておいたほうがよいという主張もありますが、もしかしたら謝礼泥棒を作り出しているのは、何も考えずに6名で実施している我々調査会社なのかもしれませんね。3人や4人で実施するより6人で実施したほうがリクルート代が増えて儲かるという大人の事情はさておき(笑)。

グループインタビュー会場のテーブルは丸型がよい・・・それ本当?

弊社は海外で実施されたグループインタビューの発言録を作成する仕事をよくさせていただいております。その際はグルインの様子を記録したDVDを見るのですが、以前から日本の会場と何か雰囲気が違うなと思っていました。それが何かということをよく考えてみたらグルイン会場に設置されているテーブルの形が違うということに気づきました。

日本のグループインタビュー会場にあるテーブルは例外なく丸型です。しかしながら、海外のグループインタビュー会場には丸型のテーブルはほとんどないのです。

試しに、Googleの画像検索で「Focus Group Room」といれて画像検索をしてみてください。様々な形のテーブル(長方形が多いようです)が見つかりますが丸型のテーブルはほとんどないことが分かるかと思います。

グルインルームにおける日本の常識である丸型テーブルは世界では非常識のようです。

グループインタビューにおけるテーブルはどのような形がベストなのでしょうか?なぜ日本は丸型テーブルなのでしょうか?この点に関して面白い記事がありましたので紹介させていただきます。

What effect does tabletop shape have on focus group dynamics and client viewing?
テーブルの形がグループダイナミクスとクライアントの見やすさにどのように影響を与えるのか

 <以下記事の要旨です>

ある心理学の研究によると、対象者とインタビュアーの物理的な距離が近ければ近いほど、対象者の発言量が多くなるということが証明されている。なので、グループインタビュールームのテーブルの形はグループダイナミクスの多少に影響するのではないかという仮説が成り立つ。そこでどのようなテーブルの形がよいのかを探ってみた。

長方形テーブル

グループインタビュー会場のテーブルで最も利用されているテーブルの形である(上記の通り海外での話です)。この形はモデレーターが対象者とのアイコンタクトを容易にする。一方で、モデレーターはすぐ隣に座っている対象者(AとF)が視界から消えがちであり、この2名に対しては特別な注意を払わなければならない。

このテーブルのアドバンテージはすべての対象者の前に広い作業スペースがあることである。また、バックルーム(ワンウェイミラー越しのスペース)においてモデレーターの真後ろに座っているクライアントはすべての対象者を見やすいというメリットがある。一方でバックルームの端に座っているクライアントは、一部の対象者がやや見にくくなる。

モデレーターの立場から言えば、全対象者とのアイコンタクトがしやすいというのは大きなメリットである。一方で、各対象者が、お互いの対象者の様子を見やすい、特に隣りの対象者の様子を見やすいという点ではやや劣っているという点にも注意が必要である。この意味では、長方形テーブルは理想とは言えないと思う。

台形テーブル

台形テーブルのアドバンテージは、クライアントが長方形のテーブルで経験する一部の対象者の見にくさを軽減するところであろう。モデレーターにとっても全対象者がパノラマビューとなり見やすくなり進行しやすくなるというメリットがある。

一方で、台形テーブルにおいては長方形テーブルと比較して、対象者のお互いの距離、およびモデレーターと各対象者との距離が離れる。上記の「対象者とインタビュアーの物理的な距離が近ければ近いほど、対象者の発言量が多くなる」という心理学研究結果を当てはめるとこれは台形テーブルの不利な点であろう。

もう一つの不利な点は、台形の脚に座っている対象者(上記図でのA、BとE、F)は、他の対象者を斜めに見ることになる。これは私の個人的な意見だが、このような角度で座るとやや会話に集中しにくいのではないかと思う。また、長方形テーブルと比較して対象者の視線はモデレーターに向きがちで、他の対象者には向きにくいとう点も不利な点かもしれない。

とはいうものの、このような視線の問題は、グループダイナミクスやエンゲージメントに影響を与えるほど大きな問題ではないのかもしれない。なぜなら、グループインタビューにおいての注目は、常にお互いに向いているとは限らない。テーブル上でピクチャーソートみたいなエクササイズをしている場合は、全員の集中はテーブルに向くのだから。

丸形テーブル

丸型のテーブルにおいてモデレーターと対象者の平均距離は、同じサイズの長方形のテーブルと比較して17%近い。対象者がお互いを見やすいという点でも優れている。ただ、それ以上に私はこのテーブルの形が対象者に、「ここに参加している皆はグループだ」というシンボリックなメッセージを与えることができる点が大きなアドバンテージだと思う。

このような大きなアドバンテージがあるにかかわらず、丸型テーブルはモデレーターとクライアントに大きなチャレンジを与える。丸型テーブルにおいては、長方形テーブルで問題となるモデレーターがのすぐ隣の対象者(AとF)に注意を払うということの困難さを更に悪化させる。丸型テーブルを経験した私の友人モデレーターは、すぐ隣の対象者に注意を払わなければならないが、そうなると他の対象者に注意を払うのが非常に難しいということを指摘している。

言うまでもなく、丸型テーブルではクライアントは多くの対象者の表情(A、B、E、F)が見えにくくなる。また対象者自身も不便さを感じることがあるようである。多くの対象者はしゃべりやすくなるように、無意識に自然と座る位置や体の向きを変える。また各自のテーブル上のワークスペースが狭いというのも難点で、テーブル上で何か作業することはしにくい。

こういった不利な点が、多くのルームで丸型テーブルを採用しない理由であろう。もし、クライアントのモニタリングがなく、テーブルでの対象者による作業がなく、グループでの高度なまとまりを得たいのであれば、丸型テーブルはモデレーターにとって気分転換になる経験となるであろう。

<記事の要旨はここまで>

※ 記事では、更に半円系テーブルや回転した長方形テーブル、三角形型テーブルについても述べていますが、ここでは省略させていただきます。興味のある方はぜひ原文をお読みください。

皆さまは丸型テーブルについてどう思われますか。我が国で丸型テーブルが主流なのは上記にあるように「ここに参加している皆はグループだ」というシンボリックなメッセージを与えることを目指しているのが大きな理由だと思いますが、モデレーターさんのやりやすさという点ではどうなのでしょうか。私はモデレーターではないので、やりやすさに関して述べることができる立場にはありません。ただ、これまで観察したグルインを思い返してみると、確かに丸型テーブルでは、モデレーターさんの注意が正面のCとDに行きがちで、すぐ隣の対象者(AとF)を見落としがちになっているケースが多いような気がします。対象者とのアイコンタクトで、発言を促すみたいなことをされるモデレーターさんは多いですが、その際、CとDに対するアイコンタクトが多く、AとFに対するアイコンタクトが少ない⇒その結果CやDとくらべてAとFの発言が少ないというセッションが多いような気がするのですが、これは気のせいでしょうかね・・・。今後、会場グルインを見る際はモデレーターさんの動きを注意して観察してみようと思います。

一つのグループに男性と女性を混ぜるな・・・それ本当?

グループインタビューを実施する際にはグループに参加者の属性はできるだけ均質にするのがよいという常識があります。例えば、グループ構成を決める際に

「男性と女性はミックスしてはいけない。」

「違う世代を混ぜてはいけない」

「ユーザーとノンユーザーを一緒にしてはいけない」

と習った人も多いのではないでしょうか。これは、参加者は、同じグループ内に属性が違う人がいると、自己開示が進みにくい、逆に自分と同じような属性の人の中では自己開示をしやすくグループダイナミクスが起きやすいと考えられているからです。例えば、男性は女性の前では、ホンネを言わずにカッコつけた発言をしたがる、ユーザーが多い中でのノンユーザーは、自分が間違っているような気がして委縮して発言しないといったことがあるという主張です。

しかしながら、前々回の記事では、ユーザーとノンユーザーを一緒にしたほうが、多様な視点からの意見が得られグループダイナミクスが得られるのではないかという説があることを紹介させていただきました。これはどちらが正しいのでしょうか。グループインタビューから有益な情報を得るためにグループ構成の均質性は本当に重要なのでしょうか。あえて非均質にしたほうがグループダイナミクスが起き有益な情報が得られるということはないのでしょうか。

この点に関して研究した論文がありましたので紹介させていただきます。

The Importance of Member Homogeneity to Focus Group Quality
グループインタビューのクオリティにおけるメンバーの均質性の重要性について


要旨をまとめると以下の通りです。

  • グループインタビューは、広く利用されているリサーチ手法の割には、その手法そのものに関しての研究はほとんどなされていない。現在行われているグループインタビューに関しての多くの原則は、実験が行われ、有効性が確認された研究結果からというよりは、多くのものは過去の経験則から生まれたものである。
     
  • グループインタビューにおける参加者の均質性に関しては様々な議論がある。均質性を保つことが重要だという意見がある一方で、均質性と多様性のバランスを保つことが重要だという意見もある。
     
  • そこで、本研究ではグループインタビューにおいて参加者の均質性はどの程度重要なのかについての実験を行った。
     
  • なお、ここでいう均質性とは以下の二つに分けて考える必要がある。

    Exogenous Homogeneity(外因的な均質性)
    性別、人種、社会的クラス、宗教、性格、価値観、年齢等、調査される対象物とは直接的には相関しない側面における均質性

    Issue Homogeneity(論点に関する均質性)
    グループインタビューで扱われるトピック・・・特定製品の使用実態(ユーザー vs. ノンユーザー)、好み、態度、使用モチベーションといった側面における均質性
     
  • 検証実験の方法は以下の通り
  1. ​ダイエットや体重のコントロールというセンシティブなトピックに関して11グループ、99名の参加者でグループインタビューを実施
  2. グループインタビューの各セッション終了後に参加者に、「自己開示が出来た程度」、「グループの一体感をどの程度感じたか」、「グループの均質性をどう感じたか」、「トピックに関しての興味度合い」、「モデレーターに対する態度」等に関しての自記式アンケートを実施
  3. まずアンケートのデータを因子分析にかけた。そこで抽出された因子を説明変数に、また「自己開示が出来た程度」を非説明変数として重回帰分析を実施し、どのような因子や、どのような均質性の側面が、グループインタビューにおける自己開示に大きな影響を与えているのか(与えていないのか)を分析した。
  • この重回帰分析から

「自分の考えが他の参加者とくらべてユニークだと考えている参加者は自己開示をしない傾向が強い」
「モデレーターが心地よいといった好意的な感情を持っていたり、モデレーターの近くに座っていた参加者は自己開示をする傾向が強い」

という結果が得られた。そして

「グループインタビューにおける参加者の均質性は、トピックがセンシティブなものであっても、参加者にとって興味があるものであれば、一般的に考えられているほどには重要だとは考えられない」

という結論が得られた。
 

要旨は以上なのですが、この研究結果はグループインタビューにおける参加者の均質性は、我々が考えているほどには重要でないかもしれないという示唆を与えています。

この研究をすべて信じてよいのかどうかは、皆様の判断にお任せしますし、私もよくわかりませんが、参加者は均質的でなければいけないと盲目的に信じることだけはよくないなと思いました。

以上、今回はグループインタビューに関する3つの常識について疑ってみました。皆さまはどう思われましたでしょうか。個人的には、いずれの場合もケースバイケースだと思いますので何かが絶対的に正しいということはないかと思っています。ただ、常識だと言われていることをそのまま信じるのではなく、なぜそうなのか、ホントに正しいのだろうかという視点を常に持ちながら物事を見ることは重要なのではないかと思いました。

今回はここで終わりなのですが実はもう一つ書きたかったことがあります。

『アイデア創出が目的ならデプスインタビュー<一人>よりもグループインタビュー<集団>が向いている』

という常識です。皆さんこの常識についてどう思われますか?

これは昨今、定性調査業界で注目が集まっているワークショップの価値や有効性に関する議論にもつながると思っており、ぜひ書きたかったのですが、長くなりそうなのでまた別の機会にさせていただきます。